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1904-B-0258
買主の返済能力を超える融資承認条件の場合におけるローン特約適用による売買契約解除の可否

 当社が売買の媒介をした買主がローンの申し込みをした。金融機関は買主の希望金額を承認したが、返済期間短縮の条件が付されたため、月々の返済金額が過大となる。このようなケースで買主は、ローン特約により売買契約を解除することができるか。

事実関係

 当社は売買の媒介業者である。店舗併用住宅を探していた自営業者の買主に物件を紹介したところ、その物件を気に入り売買契約を締結した。対象物件は、宅建業者が買取り、リフォームし転売した店舗併用住宅である。買主は地元で賃貸店舗を賃借して小売りをしていた自営業者で、住居も賃借している。商売はそこそこ順調なので、住居と店舗を探していた。当社は店舗併用住宅を紹介し、契約に至った。購入の資金計画は、手持金に加え、不足金額は銀行融資を利用するため、契約は融資利用の特約を約定している。当社が買主から聞いていた融資の条件は、物件価格4,500万円に対し、融資率80%以内で借入額は3,500万円。借入期間は25年、現在の金利水準による毎月の返済額は15万円である。返済額は、生活費と商売の費用を勘案すると、それ以上の返済では難しいと聞いている。売主業者にもその旨を伝え、了解していた。契約書には、申込予定の融資金融機関名と融資額を記載し、融資が承認されなければ売買契約は白紙解除する旨の特約を約定しているが、重要事項説明書には、融資機関名と融資額以外に金利及び借入期間の欄があるが、金利は変動することが予想され、変動により融資期間も幅があると考え、金利水準、融資期間は記載しなかった。
 買主の金融機関に融資を申し込み後、金融機関から買主に融資金額を申込金額の3,500万円を承認したとの連絡を受けた。しかしながら、審査の詳細は不明であるが、金利は申込みと実行までの期間で変動はなく当初予定の金利である一方で、融資期間は15年に短縮され、月々の支払額は22万円になる。買主は当社に対して、金融機関の融資条件によると当初予定の返済額を大幅に超えると生活や商売にも影響するので、売買契約は、融資利用の特約により白紙解除したいとの要求をしてきた。買主は、売買契約前に媒介業者である当社および売主に対して、融資条件を示しており、毎月の返済額は、希望条件と異なり、融資利用の特約が適用されると認識しているようである。当社は売主に対し、買主が特約により契約解除を要求していることを通知したところ、売主は、金融機関の融資期間は申込の期間と異なり、買主の多少の返済負担が増すことは認めるが、申込みした融資金額は承認されているのであるから、ローン特約条項は適用されず、契約解除するのであれば手付金放棄となると主張している。

質 問

 買主が、住宅ローン特約を付して売買契約を締結した後、融資申込金融機関から申込の融資金額は承認されたが、返済期間が短縮の条件が付いたことにより、毎月の返済額が買主の予定していた金額を超えるものとなった場合、買主はローン特約に従い契約の白紙解除ができるか。

回 答

1.  結 論
 買主が返済可能な金額を超えた返済金額となる融資条件の場合には、ローン特約が適用となり、買主は契約を白紙解除できると解される。
2.  理 由
 買主が個人の場合、買主の資金調達は住宅ローンを利用する割合が高い。買主が、自営業者や法人の場合であっても融資を利用することがある。媒介業者は、不動産売買の際には、買主の資金計画を斟酌し、住宅ローンを利用する場合には、ローン特約条項を設け、取引が安全に履行されるよう努める必要がある。買主の代金の支払いに関し、宅建業者が金銭の貸借のあっせんを行う場合、その内容と金銭の貸借が成立しないときの措置を重要事項として説明する義務があり、売買契約書にも約定をする必要がある(宅地建物取引業法第35条第1項第12号、同法第37条第1項第9号)。宅建業者が金銭の貸借のあっせんを行わない場合でも、宅建業者は、買主が融資を受ける場合には、金融機関から融資が否認されたとき、つまりローン不成立等の場合に関し、買主は売買契約を解除することができる旨を説明するとともに、契約が解除されたときは、売主は受領済みの金銭を全額返還しなければならない(宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方第35条第1項第12号関係第2項)。
 買主がローン特約に基づく契約解除ができるのは、買主の責めに帰さない事由(通常は金融機関の審査)によりローンが不成立となった場合であり、買主の書類提出の遅延、売買契約書記載の融資金額以上の申込み、申込予定金融機関以外の金融機関への申込み、虚偽内容の書類提出など買主の責めに帰すべき事由がある場合にはローン特約に基づく契約解除はできない。
 しからば、買主の希望している申込金額は承認されたものの、金融機関の条件が買主の当初予定していた条件と異なった場合は契約解除ができるか問題となる。金融機関により融資期間が短縮の条件となったり、融資実行時の金利が高くなる(民間金融機関融資の金利は申込金利でなく、実行時の金利が適用となる場合が大半)などにより、月々の返済額が想定の範囲を超えた場合も、金融機関の融資利用条件は、買主の責めには帰さない事由であり、契約解除は可能と解される。ただし、銀行の審査により、希望する条件と異なる融資条件が示される場合があることは、当然予想されるところである。条件変更があったとしても、期間短縮が大きくない場合や適用される金利幅の上昇が軽微であれば、買主は容認しなければならないであろう。その場合は、ローン特約に基づく契約解除はできない。
 契約解除ができるのは、返済金額が当初の予定の金額をかなり上回り、買主の返済能力を超えている必要があろう(【参照判例】参照)。

参照条文

 宅地建物取引業法第35条(重要事項の説明等)
 宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。
  一~ 十一 (略)
  十二  代金又は交換差金に関する金銭の貸借のあつせんの内容及び当該あつせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置
  十三  (以下略)
 同法第37条(書面の交付)
   宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換に関し、自ら当事者として契約を締結したときはその相手方に、当事者を代理して契約を締結したときはその相手方及び代理を依頼した者に、その媒介により契約が成立したときは当該契約の各当事者に、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。
  ~八 (略)
   代金又は交換差金についての金銭の貸借のあつせんに関する定めがある場合においては、当該あつせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置
   (以下略)
 宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(第35条第1項第12号関係)
   (略)
   ローン不成立等の場合について
 金融機関との金銭消費貸借に関する保証委託契約が成立しないとき又は金融機関の融資が認められないときは売主又は買主は売買契約を解除することができる旨、及び解除権の行使が認められる期限を設定する場合にはその旨を説明する。また、売買契約を解除したときは、売主は手付又は代金の一部として受領した金銭を無利息で買主に返還することとする。

参照判例

 大阪高裁平成12年6月27日 金商1108号38頁(要旨)
 銀行の審査により、希望する条件と異なる融資条件が示される場合があることは、当然予想されるところであるから、右希望条件と寸分違わない融資条件でなければならないとはまでは考えていなかったものと推認され、たとえ異なる融資条件は示されたとしても、買主の前記資金計画や支払い能力に照らし、それが許容できる範囲の融資条件であれば、買主としても、銀行融資を受けて売買代金を支払う意思があったものと認められるが、右範囲を超えて大幅に異なる融資条件であった場合にまで、売買契約を維持する意思がないことは容易に推認できるところであり、このことは売主業者も了解していたものと認められる。
 確かに、銀行融資の金額や返済条件について契約書に記載はないが、買主において、銀行からの融資を受ける場合、如何なる融資条件であっても売買契約を解約できないものと認識していたとは考え難く、このことは売主業者の認識においても同様であったと考えられる。(中略)
 当事者間で、融資条件について右のような合意がなされていたものと認められるから、これによれば、本件約定における「銀行融資不可能」の場合とは、当事者が想定していた融資金額3,350万円、返済期間25年、毎月の返済額が15万円余程度の融資条件がそれと異なっても買主において許容できる範囲を超えた融資条件の場合は、これに該当するのが相当である。(中略)
 買主が当初予定していた銀行融資3,350万円という金額は満たされていたといえる。しかしながら、返済条件については、毎月の返済額が、約22万円となり、買主が当初想定していた月額15万円余という金額をかなり超えることになり、買主の返済能力を超えているといわざるを得ない。そうすると、右融資条件は、買主において許容できる範囲を超えた融資条件であり、銀行融資不可能の場合に当たるというべきであるから、本件売買契約は、本件約定により無条件で解約となる。

監修者のコメント

 ローン特約に基づく解除ができるかどうかは、買主の予定していたローン条件と実際に適用される条件の食い違いがどの程度か、それを甘受すべき範囲といえるか、その程度の違いで解除を主張することが不当かなどを個別ケースごとに判断せざるを得なく、一律にその基準を設けることはできない。本相談事例は月々の返済が15万円から22万円に増えるというのであるから、回答のとおり、ローン特約に基づく解除を認めて良いケースと考えられる。
 なお、ローン特約に基づいて契約を白紙に戻す方法として相談事例のような買主が解除できるという「解除権留保型」のほかに、期限までに融資が受けられないことが確定したときには、契約が自動的に失効する「解除条件型」もある。本相談事例のような「解除権留保型」の場合、特に気をつけなければならないのは解除権行使の期限である。多くは、ローン特約に基づく解除ができる期限を設定しているが、万一この期限を徒過した場合は、もはや解除ができず、結局代金を支払えないので債務不履行になってしまい、違約金条項があれば、その約定の違約金を支払わなければならないという踏んだり蹴ったりの状況に陥ることになる。

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