媒介業務において、競売開始決定がなされている物件を扱うことがあり、また自ら買受人となって転売するケースもあります。業務は裁判所の競売手続を基本として行われるため、競売手続の流れを理解しておく必要があります。
また、任意売却を進めるに当たっては、債権者等との交渉において弁護士法に抵触するおそれが生じる場合もあるので、その際は弁護士と協力して業務を進めていく必要があります。
不動産競売の手続の流れについては、裁判所のホームページ (BIT不動産競売物件情報サイト)にも詳しく掲載されています
(1)物件明細書
以下の事項が記載されています。
①不動産の表示
②売却により成立する法定地上権の概要
③買受人が負担することとなる他人の権利
④物件の占有状況等に関する特記事項
⑤その他買受の参考となる事項
(2)現況調査報告書
競売物件の占有関係等の状況、建物の状態等について記載されています。 数枚ですが物件の写真が添付されていますので、損傷の程度がある程度把握でき、リフォーム費用の算出の参考資料となります。物件明細書とともに占有状況を判断する重要な資料です。記載内容から引渡し命令の可否や、立退き交渉にかかる期間や費用の予測が立てられます。
(3)評価書
競売物件の位置・環境等の他に法令上の制限、接面道路の状況、生活関連施設の状況が記載されていますが、競売物件の価格の評価を前提としたものです。不動産業者としては、一般物件と同様の調査をすべきです。
※三点セットは、裁判所のホームページ(BIT不動産競売物件情報サイト)の物件情報詳細からダウンロードできます。
(1)任意売却のメリット
任意売却のメリットとしては、債権者の同意が得られれば、通常の相場での売却が可能であり、引渡条件や、引越し費用等の売却に係る費用についても融通が利くと言うことです。ただし、任意売却中だからと言って競売手続が制限されることはなく、任意売却と競売手続は同時進行していきます。したがって、競売手続が進行している場合はスケジュールを確認し、早めに任意売却の手続を進めていく必要があります。実務的には、開札日の前々日ぐらいまでであれば、代金決済を行い競売の取下げが可能です。
(2)任意売却の留意事項
①弁護士法第72条
不動産業者が任意売却を手掛ける場合、債権者との交渉等を行うことになりますが、弁護士法に抵触しないように注意する必要があります。
弁護士法第 72 条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
任意売却は結果として債務整理を行なうことになりますが、任意売却自体は宅建業法に基づく不動産売却です(上記弁護士法下線部分)。任意売却は、債権者の承認を得て行う担保物件の売買行為ですから、法的紛争は存在しないので、弁護士でなくても任意売却をすることはできます。ただし、売却後の残債務の減額交渉等は宅建業の業務を超えたものとなりますので、そこまで踏み込むことはできません。
また、任意売却の前に破産手続が開始されると、債務者の不動産は破産財団を構成する資産として扱われるため、管財手続が必要となり、自由に売却できなくなります。その場合、管財人(弁護士)と協力して売却を進めていくことになります。その他、裁判所が関与する任意整理、民事再生の場合にも注意が必要です。
②債権回収会社(サービサー)
債権が、債権回収会社(サービサー)に譲渡された場合、任意売却の報告・交渉は債権回収会社(サービサー)と行うことになります。債権回収会社(サービサー)は、金融会社から委託を受け又は債権を譲り受けて、弁護士法の特例として、特定債権の管理回収を行う、法務大臣の許可を得た民間の債権管理回収専門会社です。
また、税金の滞納等がある場合は、税務署、都道府県税事務所、市町村の税務課等との交渉、連絡が必要となります。
Xは平成5年4月に本件建物を購入した。購入資金はAが融資し、Aは本件建物に抵当権の設定を受け、その登記を経由した。Bは、購入資金に係るXの債務の保証人として、Xの債務を平成8年11月に代位弁済し、抵当権の代位行使として、本件建物の競売を申し立て、平成9年1月に競売開始決定がなされた。Yは競売による買受人となり、同年9月に本件建物の所有権を取得し、引渡命令を経ることなく、本件建物に残置されていたX所有の動産をXに無断で廃棄処分した。XはYに対し1,650万円の損害賠償請求の訴えを提起した。
< 裁判所の判断 >
裁判所は次のように述べて、Xの請求を330万円の限度で認容した。
Yが、本件建物について引渡命令の申立てを行うことはもとより、建物内に残置してあった動産類を保管する等の手当てを何ら講ずることなく、直ちに運送業者に依頼して、本件建物内に 残置されていた動産類の全てを搬出させ、破棄したのであるから、Yの行為はXの所有権を侵害した違法な行為である。
賃貸人Aが、抵当権が設定された建物を賃借人Bに賃貸し、Bが同建物に居住していたところ、Aの債務不履行により債権者Cが担保不動産の競売を申し立て、最終的にDがこれを競落した。この場合における次の記述のうち、適切なものを一つ選びなさい。
1. Cの抵当権設定登記よりも前にBが目的建物に居住していた場合、Bは自己の賃借権をDに対抗することができる。
2. Cの抵当権設定登記の後にBが建物を賃借して居住し始めた場合、Dが建物を競落した後は、Bは建物を直ちに明け渡さなければならない。
3. Cの抵当権設定登記の後にBが建物を賃借して居住し始めた場合、CはBに対抗することができるが、Aが裁判所から破産手続開始決定を受け、破産管財人が選任された場合には、Cは、当該破産手続が終了するまでの間、破産管財人に対抗することができず、建物について担保不動産競売を申し立てることはできなくなる。
4. Dが建物を競落するためには、競売手続では任意売却と異なり目的建物を担保とする銀行ローンが使えないため、Dは代金全額をキャッシュで用意する必要がある。
●問題の狙い
競売手続に関する基本的知識を問います。
答え:1
1.適切
建物賃借権については、建物の引渡しによっても第三者対抗要件を具備し、その後に建物について抵当権の設定を受けた担保権者に対抗することができます(借地借家法第31条)。したがって、その抵当権に基づく競売の買受人にも対抗することができます。
2.不適切
抵当権者に対抗することができない賃貸借により、競売手続の開始前から抵当権の目的である建物を使用収益する者は、 その建物の競売における買受人の買受けの時から6か月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しません(民法第395条第1項)。
3.不適切
抵当権は破産法で別除権とされ、破産手続の開始によってその効力に影響を受けることなくその権利を行使することができます(破産法第2条第9項、第65条)。
4.不適切
平成10年の民事執行法の改正により、競売での買受けにおいても銀行ローンを活用することができるようになっています(同法第82条第2項)。
○ 不動産強制競売と任意売却とは密接な関係にあります。任意売却を進めていく上で競売手続の知識は不可欠です。
○ また、任意売却に当たっては売主の金銭状況の把握がポイントとなるため、売主と信頼関係を築くことが重要となります。その際、売主の私生活に深く入り込むため、秘密保持については慎重を期すべきです。
○ 任意売却では、業務処理上の関係当事者が多岐にわたるため、お互いの協力がなくてはスムーズに進みません。そのために、不動産業者として、関係者に対するこまめな報告・相談を心掛けるようにしましょう。
参照判例
東京高判 平成19年4月26日 RETIO 70-092
競売物件の情報提供を業とする事業者が、その会員となって競売物件を買い受けた者との間で、競売物件の占有者の退去、共有物分割訴訟の準備等に関して締結した請負契約が弁護士法第72条に違反し、民法第90条により無効とされた事例