この「居住用3,000万円特別控除」はメリットの大きい特例ですが、この特例を受けるためにはいくつかの要件を満たす必要があります。また、居住用財産の所有期間が10年を超えている場合や、新たな居住用財産を買換えによって購入した場合は、別の特例規定が適用されることもあります。これらの要件や周辺の特例の併用の可否等について、理解を深めます。
短期譲渡所得(*1) | 長期譲渡所得(*2) | |
税 率 | 39.63%(*3) | 20.315%(*4) |
(*1)短期譲渡所得...所有期間5年以下の土地・建物
(*2)長期譲渡所得...所有期間5年を超える土地・建物
(*3)住民税9%と復興特別所得税2.1%を含みます
(*4)住民税5%と復興特別所得税2.1%を含みます
(1)Xは、義姉であるAと本件建物とその敷地を共有し、Aと共に本件建物に居住していたが、平成15年12月18日、X、Aそれぞれの本件建物の居住実態に応じて、対応する敷地部分を2つの土地に分割し、それぞれに所有権移転登記を経由した。なお、この時点で本件建物については、Xが4分の1、Aが4分の3の共有持分を有し、その旨の登記がなされていた。
(2)平成16年6月、Xは、本件建物から退去し、本件建物のうちのX居住部分を取り壊したうえ、同年12月7日、その敷地であるX所有の本件土地について、Bとの間で売買契約を締結し、平成17年1月に本件土地をBに引き渡した。
(3)一方で、一部取り壊し後の本件建物の残存部分については、Aがその後も居住を続け、 平成16年7月7日、持分4分の1につき、XからAに対する贈与を原因とする所有権移転登記手続きがなされた。
(4)その後、本件土地を譲渡したとして、その譲渡所得に対する所得税の確定申告をしたXが、当該譲渡は租税特別措置法第35条第1項に定める居住用財産の譲渡所得の特別控除の要件を満たすとして、更正をすべき旨の請求をしたところ、税務署長から更正すべき理由がない旨の通知処分を受け、 その後の異議申し立て及び審査請求がいずれも棄却されたことから、上記通知処分の取り消しを求めた。
(5)原審はXの請求を棄却したが、これを不服とするXは上記裁判を求めて控訴した。
< 裁判所の判断 >
(1)裁判所は、土地上に一棟の建物が存する場合に おいて、土地建物それぞれについて共有持分を有し、同建物に居住する者同士が、お互いの共有持分に相当する土地部分の分割に加え、建物についてもお互いの取得する土地上の建物部分についてこれを建物として区分することに合意し、その上で一方が自ら分割取得した共有土地 部分上に存する建物部分を取り壊した上で、その敷地に相当する共有土地部分を譲渡し、他の共有者が同じく分割取得した土地上の残存家屋について単独で所有権を取得し、その結果、分割取得した共有土地部分を譲渡した共有者が建物の共有持分を喪失したと認められる場合においては、これを全体としてみる限りは、共有者の一人が自らの土地上に存する自らが所有し居住する建物を取り壊した上で、その敷地部分を譲渡した場合と同視することができるというべきであると判断した。
(2)本事案においては、XとAは、本件建物を二つに分割し、Xが取得する本件建物の分割部分を取り壊すとともに、それぞれの居住部分に対応して土地を二筆に分筆し、Xが取得する本件土地についてはその上に存する本件建物の分割部分を取り壊して、これを更地にしたうえで第三者に売却し、Xがその売却代金を取得して転居することとし、一方でAは、残りの土地と同地上の残存家屋を取得する旨の合意をした上で、Xが自らが取得した本件土地上に存する本件建物部分を取り壊してその敷地に相当する本件土地を第三者に譲渡し、一方で、Aが単独で残存家屋について所有権を取得したというのであり、前記認定のとおり、本件合意の趣旨としては、本件建物の一部取り毀しに際しては、その部分に対するAの共有持分の放棄がなされることの見合いで、残存家屋部分に対するXの共有持分の放棄がなされることが合意されていたものとみるべきであるとした。
(3)その結果、裁判所は、Xによる本件土地の第三者への譲渡は、自らの所有する土地上に存する自らが所有し居住する建物を取り壊した上で、その敷地部分を第三者に譲渡した場合と同視することができるというべきであり、租税特別措置法第35条第1項の要件に該当すると解するのが相当であると判断して、Xの請求を認容した。
Bは15年前に相続により取得した一戸建て住宅に居住していたが、2019年8月に売却した。売却に当たっては譲渡益が生じるため、Bは居住用3,000万円特別控除の適用を受けたいと思っている。この場合に関する次の記述のうち、適切なものを一つ選びなさい。
1. Bは、この一戸建て住宅を2018年4月より2019年3月まで1年間賃貸していたが、建物が古いため翌月4月に取り壊し、更地として同年 8月に売却した。居住用の3,000万円特別控除の特例は適用される。
2. Bが一戸建て住宅を、最近結婚して新居を探していた弟(Bとは別居であり別生計である)に売却(著しく低い価額での譲渡では無い) した場合には、親族への譲渡となるため、居住用3,000万円特別控除の特例は適用されない。
3. Bがこの一戸建て住宅から退去した後、なかなか買手が見つからなかったため、やむなく1年間賃貸物件として貸し出し、結局退去した2年後に物件を売却した場合には、売却時には居住用としての利用はされていなかったため、居住用3,000万円特別控除の特例は適用されない。
4. この一戸建て住宅は15年前に取得したものであるため、要件を全て満たしている場合には、「① 居住用3,000万円特別控除」と「② 10年超所有軽減税率の特例」の併用が可能だが、住宅を買い換える場合には、更に「③ 特定居住用財産の買換え特例」の適用も受けることができる。
●問題のねらい
「居住用3,000万円特別控除」の特例の適用要件、居住用財産の定義、及び他の特例との併用の可否についての理解を問います。
答え:1
1.適切
家屋を取り壊した場合は、家屋を取り壊した日から1年以内にその敷地の売却に関する契約が締結されていれば、居住用3,000万円特別控除の適用を受けることができます。(取り壊し後、敷地を賃貸その他の用に供した場合には不可)
2.不適切
原則として、マイホームを親族等の特殊関係者に対して譲渡した場合、その譲渡所得について居住用3,000万円特別控除の特例の適用はありません。ただし、設問の「弟」は親族ではあるが、「Bと生計を一にしている」ことも「譲渡がされた後Bとその家屋に居住する」こともないため、弟であってもこの特例を受けることができます。
3.不適切
居住の用に供さなくなった日から3年を経過する日の属する年の年末までに売却した場合には、その期間中の使用用途は問わず、居住用3,000万円特別控除の特例は適用されます。
4.不適切
居住用財産を売却して譲渡益があった場合には「① 居住用3,000万円特別控除」「② 10年超所有軽減税率の特例」、「③ 特定居住用財産の買換え特例」の適用が考えられますが、①と②の併用は可能ですが、③は他の特例(①又は②)との併用はできません。
○ 居住用財産を売却して譲渡益があった場合には、前記「出題」の「① 居住用の3,000万円特別控除」の他には、「② 10年超所有軽減税率の特例」及び「③ 特定居住用財産の買換え特例」の適用が考えられます。
① 居住用の3,000万円特別控除
居住用財産を売却して譲渡益が出た場合、譲渡所得から3,000万円を控除できるという特例です。
② 10年超所有軽減税率の特例
3,000万円特別控除の特例の適用がある居住用財産で、所有期間が10年を超えている場合には、3,000万円特別控除後の課税譲渡所得6,000万円以下の部分の税率が14.21%に軽減し、6,000万円超の部分の税率を20.315%とする特例です。
③ 特定居住用財産の買換え特例
居住用財産を売却して、買換えで新たに居住用財産を購入した場合、売却価格より高い居住用財産を買った場合には課税しないという制度です。売却金額より安い居住用財産への買換えにより、譲渡代金に余りが出た場合には、その余りにだけ課税されます。
①と②の併用は可能ですが、①と③の併用はできません。そのため居住用財産の買換えを行った場合において、譲渡所得が特別控除額で
ある3,000万円を超えたときは、 実務上は「3,000万円特別控除」+「10年超所有軽減税率の特例」又は「特定居住用 財産の買換え特例」の有利不利を比較する必要があります。(ただし、特定居住用財産の買換え特例は、税金の支払いを免除するのではなく、あくまで課税の繰延べであるため、この特例を選択する場合は、買換え資産を10年を超えて所有するという長期的視野で税法上の適用を考える必要があります。)