近年の大地震の多発及び予想される南海トラフ地震等に備えて、耐震性の低い古い木造住宅を耐震補強を実施することで耐震性を高める必要があります。耐震診断法、耐震補強方法や耐震等級の意味等について理解しておかなければなりません。
平成7年11月、建物の注文者Yは、大学生向けのワンルームマンションを建築するため、建築業者Xに建物請負(以下「本件請負契約」という。)を依頼し、建物(以下「本件建物」という。)を建築することとした。
契約にあたってYは、平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災の際、倒壊した下宿の建物の下敷きになる等して多数の大学生が死亡した直後であったため、建物の安全性の確保には神経質になっており、Yは、Xが当初提案した設計内容を変更することとした。
その内容は、耐震性を高めるため、特に南棟の主柱には、その断面の寸法が300mm×300mmの、より太い鉄骨を使用するものであった。Xもこれを承諾し工事に着手した。
ところが、Xは、この約定に反し、Yの了解を得ないで、構造計算上安全であることを理由に、同250mm×250mmの鉄骨を南棟の主柱に使用し、本件建物を平成8年3月に完成させYに引渡した。
Xは、Yに本件建物を引渡した後、Yに対して、本件請負契約に基づく請負残代金の支払を求めた。
これに対して、Yは、本件建物には瑕疵があり、建物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権2,404万円余を有すると主張して、この債権及び慰謝料債権を自働債権とし、X請求の請負残代金債権を受働債権として、対当額で相殺した旨の意思表示をした。
原審(第2審・大阪高裁)は、Xには、南棟の主柱に約定のものと異なり、断面の寸法250mm×250mmの鉄骨を使用したという契約の違反があるが、実際に使用された鉄骨であっても、構造計算上、居住用建物としての本件建物の安全性に問題(瑕疵)はないとした。そのうえで、Yの請負残代金債務1,893万円余から、瑕疵の修補に代わる損害の賠償額1,112万円余及び慰謝料額100万円の合計1,212万円余を控除した残額680万円余及びこれに対するXがYに送付した催告状による支払期限の翌日である平成8年7月24日から支払済みまでの遅延損害金の支払を命じた。
Yは、これを不服として上告した。
< 判決の要旨 >
最高裁判所は、次のように判示し、原審の判断には明らかな違法があるとして、原判決を破棄し、大阪高等裁判所に差し戻した。
(1)本件請負契約においてYとXの間で、本件建物の耐震性をより高め、耐震性の面でより安全性の高い建物にするため、南棟の主柱につき断面の寸法300mm×300mmの鉄骨を使用することが、特に約定され、これが契約の重要な内容になっていたというべきである。そうすると、この約定に違反して、同250mm×250mmの鉄骨を使用して施工された南棟の主柱の工事には、瑕疵があるものと言うべきである。
(2)請負人の報酬債権に対し、注文者がこれと同時履行の関係にある目的物の瑕疵の修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合、注文者は、請負人に対する相殺後の報酬残債務について、相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負うものと解すべきである。(最高裁平成5年(オ)第2187号、同9年(オ)第749号同年7月15日第三小法廷判決・民集51巻6号2581頁)そうすると、本件において、Yは、上記相殺の意思表示をした日の翌日である平成11年7月6日から請負残代金について履行遅滞による責任を負うものというべきである。
< まとめ >
目的物に瑕疵があるとは「完成された仕事が契約で定めた内容どおりでなく、使用価値又は交換価値を減少させる欠点があるか、又は当事者があらかじめ定めた性質を欠く等不完全な点を有すること」等、一般的な判断と解されてきたが、本判決も従来の通説的な見解に立つことを示したものであって、実務上、参考になるものと思われる。
業法所管課における「瑕疵」に関する紛争相談も近年は増加傾向(国交省調)にあり、原因が明らかなものを除き、紛争の解決は非常に困難なものとなっている。また、その紛争が解決されるに至っても、取引の相手方には、多大な時間と多額の金銭負担を伴い、また精神的負担等も強いることになる。
業者としては、これらの紛争を未然に防ぐためには、少なくとも取引の相手方に対しては、十分な時間の提供と情報の公開を行う必要があり、また契約時における合意内容は必ず履行することが求められる。
木造の一戸建て住宅の耐震補強に関する次の記述のうち、不適切なものを一つ選びなさい。
1. 耐震診断の種類としては、建築士、工務店等建築関係技術者が耐震補強等の必要性の判定を行うための一般診断法と、建築士、構造設計者等が補強の必要性が高いものについて構造ソフト等を使用してより正確に診断を行う精密診断法がある。
2. 新耐震設計基準が昭和 56(1981)年に定められたが、木造住宅に関しては、平成12(2000)年の建築基準法改正以降に建てられたものがより耐震性が高い。
3. 無筋基礎の耐震補強として適しているのは、基礎コンクリート面に炭素繊維シート等を貼り付ける方法である。
4. 建物の耐震補強として効果が高いものには、筋かいの補強、合板補強、金物補強、腐食腐朽した構造材の交換・補強とともに、屋根の軽量化があげられる。
●問題のねらい
耐震補強の重要性や補強方法のメリット、デメリット及び耐震性の高い住宅とはどのようなものか、一般知識として知っておく必要があります。
答え:3
1.適切
一般診断法は、住宅の外観や軒下、天井裏の非破壊の目視による診断法で、壁や床、天井等を取り外して内部構造を確認する破壊検査は基本的に行いません。精密診断法は、必要に応じて壁や天井等を剥がし内部の構造を確認する、より詳細な診断となります。解体道具や補修用工具のほかに、鉄筋探知器、非破壊検査機器等多くの道具を用います。精密診断用の計算プログラムは、(一財)日本建築防災協会が認定している計算ソフトを使用します。
「一般診断法」「精密診断法」以外にも、国等が一般ユーザー等に向けたチェックシート等で簡易にできるようなものも提供しています。(前述「誰でもできるわが家の耐震診断」)
2.適切
木造住宅の耐震性能は、平成 12(2000)年の建築基準法改正により、基礎・接合部・壁配置が強化され、地盤調査も必要となったことで高まりました。
3.不適切
無筋のままでシートを貼付するだけでは 土台のアンカーボルトや柱の引き抜き防止のホールダウン金物の効果が期待できません。鉄筋入りの抱き基礎を増設するのが最も良いと考えられます。
4.適切
筋かいの増設、金物補強や屋根の軽量化等は耐震補強工事として効果が高いです。壁の制振ブレース金物や床面のブレース金物を設置する等の方法もあります。コスト増や補強工事のやりやすさ等にも留意する必要があります。
○ 耐震等級と耐震性の関係
建築基準法が定める耐震性能は、「百年に一度の極めてまれに発生する地震」「震度6強で倒壊しない」建物(最低限人命を守る)ですが、建物は大きな損傷を受けます。
平成12(2000)年に住宅の品質の確保の促進等に関する法律(以下、品確法)が施行され、耐震性能表示として耐震等級1~3が定められています。一般的には、耐震等級1=建築基準法(最低基準を定めている)、等級2=建築基準法の1.25倍の強さ、等級3=建築基準法の1.5倍の強さに相当するとされています。平成 28(2016)年熊本地震では地盤状況の違いはあるとしても、震度7を2回受けた住宅で大きな損傷を受けず、その後も住み続けられるような状態で残ったものの多くが平成12(2000)年以降に建てられた耐震等級3の建物と言われています。
○ 住み続けられる家づくり=耐震性能が高い
日本においては、大きな地震が繰り返し発生しています。住まいである家は災害後も生活を継続できることが求められています。木造2階建て等、いわゆる「4号建築物」※は簡易な構造チェック(壁量、N値計算)は行ないますが、木造3階建てのような構造計算は法令上求められていません。また、建築基準法が定めているのは震度6強で倒壊しない建物ですが、これでは大きな地震で損傷してしまい建物に住み続けることができない可能性があります。災害後も生活を継続できる住まいであるためには、品確法でいう耐震等級3以上が必要と言われています。また改修時には制振システムや免震システムを取り入れる等、より耐震性の優れたものの採用等も視野に入れるべきでしょう。
※4号建築物:建築基準法第6条第1項第4号で規定する建築物のこと
2階建て以下・延べ面積500m²以下・高さ13m以下・軒の高さ9m以下の木造建物は、「4号建築物」と呼ばれています。一般的な木造戸建て住宅がこれに該当します。そのうち建築士が設計したものであれば、建築基準法第 6条の4第3号によって、建築確認の構造関係の審査を省略することができます。