国土交通省 後援
不動産流通実務検定
宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(第35条第1項関係別添2)では、宅地又は建物の災害リスクに関する重要事項として説明すべき事項として、少なくとも「土砂災害警戒区域内か否か」、「造成宅地防災区域内か否か」、「津波災害警戒区域内か否か」について説明することを規定しています。
これらの自然災害リスクに関する説明のうち、本項では、土砂災害によるリスクについての理解を深めることとします。
目次
土砂災害リスクとは？
災害リスクには、災害の要因により様々なリスクがありますが、土砂災害リスクは、土石流、地すべり及びがけ崩れによる災害リスクを言います。
土砂災害リスクの詳細
- 土砂災害に対するハード対策3法とソフト対策法
土砂災害に対応する法令は、ハード対策法と言われる「砂防法」、「地すべり等防止法」及び「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律」の3法とソフト対策法の「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(土砂災害対策法)」で構成されています。 - 砂防法による行為制限
砂防指定地は、国土交通大臣が指定し、竹木の伐採や土石・砂れきの採取等の一定の行為制限が都道府県の条例に定められています。 - 地すべり等防止法による行為制限
地すべり防止区域内及びぼた山崩壊防止区域では、地下水の誘致、地表水の放流等の行為制限を規定しています。 - 急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律による行為制限
急傾斜崩壊危険区域における水の放流、ため池の設置又は改造の行為制限を規定しています。急傾斜崩壊危険区域では、土地の所有者等が、急傾斜地崩壊防止施設 (以下「防止施設」と言う。)を整備することが困難と認められる場合は、都道府県が土地所有者等に代わり、防止施設を整備することができます。 - 土砂災害警戒区域、土砂災害特別警戒区域の指定による土砂災害対策
(土砂災害対策法)
①土砂災害のおそれのある区域について、知事が、土砂災害警戒区域(イエローゾーン)、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)の指定をします。
②土砂災害警戒区域等の指定の前段として、おおむね5年ごとに基礎調査が行われ、土砂災害警戒区域等の指定手続が進められます。媒介業者は、この基礎調査も調査の対象です。(後記、実務のポイント、その他参照)
③土砂災害警戒区域(イエローゾーン)は、急傾斜地の崩壊等が発生した場合に、住民等の生命又は身体に危害が生じるおそれがあると認められる区域であり、危険の周知、警戒避難体制整備が行われます。
④土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)は、急傾斜地の崩壊等が発生した場合に、建築物に損壊が生じ住民等の生命又は身体に著しい危害が生ずるおそれがあると認められる区域です。
1. 特定開発行為に対する制限(第10条)及び建築物の構造規制(第24.25条)があります。
2. 宅建業者は、特定開発行為の許可後でなければ当該宅地の広告、売買契約の締結が行えず、特定開発行為の許可について重要事項説明を行うことが義務付けられています。
土砂災害リスクに関するトラブル事例 RETIO 2018.1 No.108 平成28年度の紛争事例から
媒介業者が土砂災害警戒区域外であるとの誤った説明により買主への損害賠償及び宅建業法による業務停止並びに指示処分を受けた
＜ 事実関係 ＞
＜ 結果 ＞
買主は、業者の媒介で中古住宅の売買契約を締結した。その際、業者は、物件が土砂災害警戒区域内にあるにもかかわらず、土砂災害警戒区域外にあると記載した重要事項説明書を交付し、誤った説明をした。
買主は重要事項説明に誤りがあったとして裁判を提起し、判決後、宅建業を所管する行政に苦情を申し立てた。
＜ 結果 ＞
裁判では、買主への損害賠償金70万円の支払いが言い渡され、行政は、業者を15日間の業務停止及び指示処分とした。
土砂災害リスクに関する出題例 （スコア第8回 設問31 正答率89%）
土砂災害リスク及び土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(以下「土砂災害対策法」という。)に関する次の記述のうち、不適切なものを一つ選びなさい。
１．土砂災害警戒区域の指定範囲は、各市町村の窓口やインターネットで確認できるが、実際の取引においては、できるだけ各市町村の担当窓口だけではなく、都道府県の土木事務所等で確認する必要がある。
２．土砂災害警戒区域および土砂災害特別警戒区域の範囲は、現地に看板等での告知がなされており、現地調査において概ねの区域を確認することができる。
３．土砂災害特別警戒区域内に居室を有する建築物を建築しようとする場合は、建築物の構造が土砂災害を防止・軽減するための基準を満たすものとなっているかについて、確認の申請書を提出し、建築主事の確認を受けることが必要となる。
４．土砂災害に関する基礎調査の結果について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為は宅地建物取引業法違反に問われる場合がある。
解説
●問題のねらい
近年、土砂災害の被害が増大しているため、不動産業者として土砂災害対策法の基本的事項及び購入者等に説明すべき内容について理解しておく必要があります。
答え：2
１．適切
土砂災害警戒区域および土砂災害特別警戒区域の指定は都道府県知事が行います (土砂災害対策法第7条、第9条)。そして、都道府県から得た情報を市町村は市町村防災計画において情報伝達、警戒避難体制の整備に努めることとされています(同法第8条、第8条の2)。
土砂災害警戒区域等が指定されると、市町村は都道府県から情報提供を受けることになっていますが、その提供に明確な期限がある訳ではないため、最新の情報を知るためには、各都道府県(土木事務所)で行う必要があります。
２．不適切
土砂災害対策法の土砂災害警戒区域と土砂災害特別警戒区域は、現地には看板等による告知はされていません。
なお、土砂災害に対応する法令のうち、ハード対策法と言われる「砂防法」、「地すべり等防止法」及び「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律」の3法は、現地看板等により、概ねの区域を知ることができます。
３．適切
土砂災害対策法第24条、第25条を参照。
土砂災害対策法
(特別警戒区域内における居室を有する建築物の構造耐力に関する基準)
第24条 特別警戒区域における土砂災害の発生を防止するため、建築基準法第20条第1項に基づく政令においては、居室を有する建築物の構造が当該土砂災害の発生原因となる自然現象により建築物に作用すると想定される衝撃に対して安全なものとなるよう建築物の構造耐力に関する基準を定めるものとする。
(特別警戒区域内における居室を有する建築物に対する建築基準法の適用)
第25条 特別警戒区域(建築基準法第6条第1項第4号に規定する区域を除く。)内における居室を有する建築物(同項第1号から第3号までに掲げるものを除く。)については、同項第4号の規定に基づき都道府県知事が関係市町村の意見を聴いて指定する区域内における建築物とみなして、同法第6条から第7条の5まで、第18条、第89条、第91条及び第93条の規定(これらの規定に係る罰則を含む。)を適用する。
４．適切
基礎調査の結果については、取引判断に重要な影響を及ぼす事項として、宅地建物取引業者は、各当事者に説明することが望ましい。具体的には、取引の対象となる宅地又は建物が土砂災害警戒区域等に相当する範囲に含まれる場合には、その旨と当該範囲が土砂災害警戒区域等に指定される可能性があることを説明することとする。また、基礎調査の結果について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為は、宅地建物取引業法47条第1号に違反する場合があると解される(国土交通省より各不動産業界団体への通知 国土動第107号 平成27年1月18日)。
土砂災害リスクに関する実務のポイント
○ハード3法による指定区域は現地調査でも概ね確認できます。ハード3法の指定区域は、各都道府県の窓口で確認しますが、現地調査においても看板等により概ねの区域を確認することができます。
○土砂災害ハザードマップを添付しただけでは、業法に規定する重要な事項の説明をしたことにはなりません。
①土砂災害警戒区域及び土砂災害特別警戒区域は、現地には看板等での告知はされていません。
②各都道府県や市区町村のホームページや備え付けられた土砂災害ハザードマップなどで一次的に知ることができます。
③媒介業者としては、各都道府県に出向き「土砂災害警戒区域等の指定の公示に係る図書」を入手し確認する必要があります。
④過去の自然災害については、地域の伝承として伝えられたり、石碑に記録されたりしていますが、国土地理院では過去に起きた自然災害の情報を伝える石碑やモニュメントを示す「自然災害伝承碑」の地図記号※を新たに制定し、地形⑤実際には土砂災害警戒区域以外でも、土砂災害が発生しています。特に山麓堆積地や、高い大規模盛土造成地等は発生のリスクが高い場所です。
※ 「自然災害伝承碑」の地図記号
その他
基礎調査に関し、国土交通省は「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律に基づき都道府県が公表する基礎調査の結果について」を業界の各団体に通知し、重説による基礎調査の説明を求めています(国土動第107号平成27年1月18日)。
通知文(抜粋)
「基礎調査の結果については、取引判断に重要な影響を及ぼす事項として、宅地建物取引業者は、各当事者に説明することが望ましい。具体的には、取引の対象となる宅地又は建物が土砂災害警戒区域等に相当する範囲に含まれる場合には、その旨と当該範囲が土砂災害警戒区域等に指定される可能性があることを説明することとする。また、基礎調査の結果について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為は、宅地建物取引業法第47条第1号に違反する場合があるものと解される。」
