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賃貸事例 1212-R-0111掲載日:2012年12月
原状回復完了後の敷金返還のための振込手数料の負担者いかん
建物賃貸借契約において、貸主が、借主の原状回復完了後に残余敷金を返還する場合、その振込手数料は貸主、借主いずれが負担すべきか。
事実関係
当社は賃貸の媒介業者兼管理業者であるが、このたび借主が建物の明渡しを完了した物件について、当社から原状回復後の敷金を借主に返還しようとして借主に連絡をとったところ、「敷金を返すのにも振込手数料を差し引くのはおかしい。」との苦情が入った。
しかし当社としては、借主との賃貸借契約書に、賃料の振込手数料を借主負担と定めている関係上、敷金も同じように、借主の債務の弁済に関する金銭であることから、それを返還する場合にも借主がその振込手数料を負担してもおかしくないと考えている。
質問
借主は、賃料の支払いのための振込手数料は借主が負担しているのだから、敷金の返還のための振込手数料は貸主が負担すべきだと主張しているが、いずれの主張が正しいか。
回答
1. | 結 論 | |
借主の主張が正しい。 | ||
2. | 理 由 | |
敷金は、確かに借主の債務の弁済を担保するための預り金ではあるが、本件の場合は原状回復後の残余敷金の返還であるから、その債務者は貸主である。したがって、当事者がその残余敷金の返還のための費用(弁済費用=本件の振込手数料)の負担者を定めなかった場合には、その負担者は一義的には債務者である貸主が負担することになる(民法第485条本文)。 |
参照条文
○ | 民法第484条(弁済の場所) | |
弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生のときにその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。 | ||
○ | 民法第485条(弁済の費用) | |
弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。 |
監修者のコメント
弁済の費用すなわち債務の履行費用は、特約のない限り、債務者の負担とするのが民法の原則であり(第485条)、振込手数料は、履行のための費用の典型例である。
賃料の振込手数料を借主負担とするのは、契約書における特約というより、民法の原則どおりのことを念のために書いてあると理解すべきである。
そして、敷金返還債務を負っているのは、貸主であるから、その履行のための費用である振込手数料の負担者は、これと異なる特約がない以上、貸主である。
民法第485条の但し書は、債務者の所に持参しなければならない債務について債権者が遠方に引っ越したり、債権者の受領拒絶(受領遅滞)によって費用が増加したりした場合の公平を考慮したものであり、現在では金銭債務の履行において通例となっている銀行振込は、「債権者(本ケースでは借主)の…行為によって弁済の費用を増加させたとき」には当たらないと解される。したがって、特別の取り決めがない以上、敷金返還のための振込手数料は貸主が負担すべきである。
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