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売買事例 1208-B-0155掲載日:2012年8月
期間が1年の販売代理委託契約の有効性と代理手数料の請求の可否
当社は、ある新築物件の売主業者との間で、有効期間が1年の販売代理委託契約を締結し、販売代理業務を行ってきたが、売れ残り物件が高額物件ばかりになってきたので、広告を中断していたところ、売主業者がみずから値引き販売を始めた。そこで、当社も値引き販売ができるよう申し入れたが、断られた。そのため、当社は現地から営業マンを引き上げようと思っているが、法的に可能か。また、そのような状況の中で、販売代理委託契約締結後3か月を経過したあとの販売済分について、販売代理手数料を請求したいと思っているが、法的に可能か。
事実関係
当社(宅建業者)は、昨年ある宅建業者との間で、新築物件について期間1年の販売代理委託契約を締結し、販売代理人として業務を行ってきたが、徐々に高額物件ばかりになってきたので、売れなくなってきた。そこで、暫らく広告をしないでいたところ、売主業者が自分でも売りに出し、値引き販売をしていることが判った。そのため、当社も値引き販売ができるようにして欲しいと申し入れたが、聞き入れてもらえなかった。
質問
- 当社はこのままでは費用倒れになってしまうので、営業マンを現地から引き上げようと思っているが、そのようなことは法的に可能か。なお、販売代理委託契約では、当社の営業マンは現地の方に1年間詰めることになっている。
- そもそも販売代理委託契約の契約内容を書面化するということは、媒介契約と同じように宅建業法上の義務として行うものなのか。もしそうだとした場合、その根拠はどこにあるのか。
- 前記2.の法的根拠についてはわかったが、もしそうだとすると、それらの規定は宅建業者間における媒介契約と代理契約に適用があるということになるが、宅建業者間の媒介契約や代理契約にも適用があるという根拠はどこに定められているのか。
- 今回の販売代理委託契約は有効期間が1年間ということで締結したが、宅建業法第34条の2第3項の規定によれば、3か月を超える専任の媒介契約はその期間が3か月に短縮されると定められている。ということは、3か月を超える部分の販売代理契約は無効になるという意味か。もしそうだとした場合、当社が3か月経過後に販売(契約)した分の販売代理手数料の請求はできないということになるのか。もしそうだとした場合、当社はどのようにしたらその分の報酬を請求することができるのか。
なお、本件の販売代理委託契約においては、委託者が他の宅建業者等に重ねて代理の委託をすることを禁ずるとともに、受託者も他の宅建業者等への再委託(復代理)を禁ずる内容になっている。
回答
1. | 結 論 | |
⑴ | 質問1.について ― 販売代理委託契約の約定いかんにもよるが、売主が約定に違反して直接販売を行ったり、値引き販売を行ったということを理由に、貴社が販売代理委託契約を解除したうえで営業マンを引き上げるというのであれば、法的には可能である。ただ、その場合、たとえば貴社が広告の出稿を中断したことなどが販売代理委託契約に違反していないことが重要で、もし違反しているということになれば、売主業者が自分でも売りに出したとか、値引き販売をしたとかという事実があったとしても、貴社にはそのために売主業者に生じた損害を賠償する義務が生じる可能性がある。その場合の判断については、貴社の契約解除が本当にやむを得ない事情に基づくものであったか否かが判断のポイントとなろう(民法第651条第2項ただし書き)。 | |
⑵ | 質問2.について ― 販売代理委託契約の内容の書面化は、宅建業法上の義務として行うものであり、その根拠は同法第34条の3の規定である。 | |
⑶ | 質問3.について ― その法律上の根拠は、宅建業法第78条第2項の規定である。 | |
⑷ | 質問4.について ― 有効期間が3か月を超える専任の媒介・代理契約は、その3か月を超える部分は無効であるが(宅建業法第34条の2第3項、第34条の3)、しかし、3か月経過後に販売(契約)した分の販売代理手数料については、商人の行為としてその請求は可能と考えられる(商法第512条)。 | |
2. | 理 由 | |
⑴ | について 本件の販売代理委託契約は委任契約であるから、受任者である貴社はいつでも契約を解除することはできる(民法第651条第1項)。しかし、その解除が委任者にとって不利な時期に行われたことにより、委任者に損害が生じたときは、受任者である貴社はその損害を賠償しなければならない(民法第651条第2項本文)。したがって、仮に売主業者の方が、貴社の広告中断等を理由に先に値引き販売等の行為を行ったとしても、貴社の契約解除が売主業者にどのような損害を与えるかについて、契約書の条項はもとより、売主業者の置かれている状況をよく見て行動しないと、貴社は今までに販売した代理手数料以上の損害を賠償するということにもなりかねないので、事前に弁護士などの法律の専門家に相談するなどして、慎重に対応することが必要である。 |
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⑵ | ~⑷について (略) |
参照条文
○ | 民法第651条(委任の解除) | |
① | 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。 | |
② | 当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむをえない事由があったときは、この限りでない。 | |
○ | 商法第512条(報酬請求権) | |
商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。 | ||
○ | 宅地建物取引業法第34条の2(媒介契約) | |
① | 宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換の媒介の契約(以下この条において、「媒介契約」という。)を締結したときは、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書類を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならない。 一~七(略) |
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② | (略) | |
③ | 依頼者が他の宅地建物取引業者に重ねて売買又は交換の媒介又は代理を依頼することを禁ずる媒介契約(以下「専任媒介契約」という。)の有効期間は、3月を超えることができない。これより長い期間を定めたときは、その期間は3月とする。 | |
④ | 前項の有効期間は、依頼者の申出により、更新することができる。ただし、更新の時から3月を超えることができない。 | |
⑤ | ~⑨ (略) | |
○ | 同法第34条の3(代理契約) | |
前条の規定は、宅地建物取引業者に宅地又は建物の売買又は交換の代理を依頼する契約について準用する。 | ||
○ | 同法第78条(適用の除外) | |
① | (略) | |
② | 第33条の2及び第37条の2から第43条までの規定は、宅地建物取引業者間の取引については、適用しない。 |
参照判例
○ | 神戸地判昭和62年7月29日判時1260号33頁 | |
専属専任媒介契約の有効期間は、「物件が売れるまで」とし、報告義務を1か月に1回以上と定めていた事案において、本件特約は法34条の2第6項(現9項)により無効となるが、本件媒介契約全体が無効となるものではない。 |
監修者のコメント
本件の法的結論は、その販売代理委託契約の内容がどうなっているかで決まることと思われる。売主業者も自ら販売できるのか、販売代理業者は値引き販売はできないのか、現地に販売代理業者の営業マンが委託契約期間内は必ず詰めなければならないのか、という問題もすべて委託契約の約定あるいは解釈の問題である。したがって、委託契約の内容がわからないと結論は出せない。
なお、本件の販売代理委託契約は、物件売却の代理契約(又は媒介契約)であるので、宅建業法第34条の2、34条の3の適用を受ける(同条は、宅建業者間取引でも適用がある(同法第78条2項の対象となっていない)。
したがって、専任代理(媒介)であれば、契約の有効期間は3か月を超えられず、超える部分は無効である。しかし、3か月経過後の販売手数料は、商法第512条(商人の当然の報酬請求権)を根拠として請求することができる。