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ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
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売買事例 1204-B-0149
賃貸物件の競売取得と任意取得における賃借権の効力の相違点

 当社は賃貸物件の1棟買いや競売での1棟取得を考えているが、競落人に対抗できる賃借人や短期賃貸借の保護の制度の適用を受ける賃借人というのは、どのような賃借人のことをいうのか。そのような賃借人のいる競売物件の場合、そのことについて執行裁判所の「物件明細書」にはどのように記載されているのか。
 競落人に対抗できる賃借人は、任意取得の場合にも、新所有者(新貸主)に対抗できるのか。それ以外の賃借人は対抗できないのか。それらの賃借人に対しては、どのようにして建物の明け渡しを求めるのか。

事実関係

 当社は、古いアパートなどの収益物件を買い取り、あるいは競売で取得し、これをリフォームしたり、建て替えて、投資家に売却するか、当社で保有し、賃貸事業を行うことなどを考えている。しかし、現に入居している賃借人の権利をどのように考えたらよいのか。競売で取得する場合と任意売却などで取得する場合とで、どのように違うのか。どのようにしたら、賃借人の明け渡しが可能になるのかがよくわからない。

質問

  •  賃貸物件を競売で取得する場合、入居者の中には競落人に対抗できる賃借人と対抗できない賃借人がいるので、一様ではないと聞くが、競落人に対抗できる賃借人というのは、その賃借権を、競落人すなわち新貸主に主張することができるので、そのまま入居を継続することができる。したがって、敷金の返還についても、そのまま新貸主に請求できる。つまり、敷金返還債務が競落人(新貸主)に承継されるということでよいか。
  •  賃借人が競落人に対抗できるかどうかは、抵当権の登記の日より賃貸借契約の締結日の方が早いかどうかで決められると考えてよいか。
  •  競落人に対抗できない賃借人に対しては、競落時(競落代金全額納付時)に賃貸借契約が終了するので、その時点で建物の明け渡しを求めることができると考えてよいか。
  •  平成15年の民法改正の経過措置により、短期賃貸借の保護の制度の適用を受ける賃借人というのは、具体的にはどのような賃借人のことをいうのか。
  •  短期賃貸借の保護の制度の適用を受ける賃借人がいる競売物件の場合、その適用を受ける賃借権について、執行裁判所に備え置かれている「物件明細書」には、どのように記載されているのか。単に競落人に対抗できる賃借人の場合には、どのように記載されているのか。
  •  競落人に対抗できる賃借人がいる場合、競落人はその賃借人が差し入れている敷金の返還債務を引き継ぐことになるので、競売代金(売却基準価額)からその分が減額(控除)されていると思うが、「物件明細書」にはどのように記載されているのか。
  •  競落人に対抗できる賃借人は、競売ではなく、任意売却で所有権が移転した場合にも、その賃借権を新所有者(新貸主)に対抗できるということか。それ以外の賃借人は、短期賃貸借の保護の制度の適用を受ける賃借人を含め、新所有者(新貸主)には対抗できないということか。それらの賃借人に対しては、どのようにしたら建物を明け渡してもらえるか。

回答

   質問1.について ― そのとおりでよい(後記【参照判例①】参照)。なお、任意で売却した場合の敷金の承継については、後記【参照判例②】参照。
   質問2.について ― 一般的にはそのように扱われているが、正確には賃貸借契約の「締結日」ではなく、建物の「引渡日」との比較で決定される(借地借家法第31条第1項)。
   質問3.について ― 原則的にはそのとおりに考えてよい。すなわち、競落人が競落代金を全額納付した時点で競落人に所有権が移転し、賃貸借契約が終了するので、以降競落人が手続さえすれば、入居者に対し、裁判所から建物を競落人に引き渡すべきことを命ずる「引渡命令」が発令される。ただし、平成15年の民法改正の経過措置により、短期賃貸借の保護の制度の適用を受ける賃借人については、その例外措置として、短期賃貸借の期間(更新されている場合は、その更新された短期賃貸借の期間)の満了日まで賃貸借が存続するので、「引渡命令」の対象にはならない。しかし、この短期賃貸借の保護の制度の適用を受ける賃借人というのは、あくまでも競売の開始決定による「差押えの登記」がなされるまでの間に賃貸借契約を締結したり、更新をした賃借人のことをいうので、その「差押えの登記」がなされた後に賃貸借契約を締結したり、更新をした賃借人は保護の対象にはならない。したがって、そのような賃貸借は競落時点で終了するので、「引渡命令」の対象になる。
   質問4.について ― 平成16年3月31日以前から今日まで継続している期間3年以内の建物賃貸借契約に基づく賃借人のことである(平成15年8月1日改正民法附則第5条、民法第602条)。
   質問5.について ― 東京地方裁判所民事執行センターの場合には、当該競売物件の1つひとつの賃貸借契約について、たとえば改正民法の経過措置の対象となる短期賃貸借の場合には、『買受人が負担することとなる他人の権利』の欄に、期間の定めがある賃貸借の場合には、「上記賃借権は抵当権設定後の賃借権である。期限後の更新は買受人に対抗できない。」と記載されており、期間の定めがない賃貸借の場合(たとえば、法定更新されているような場合)には、「上記賃借権は抵当権設定後の賃借権である。」とだけ記載されている。したがって、期間を定めた賃貸借の場合には、競落後といえども、その期間が満了するまでは建物の明け渡しを求めることができないが、期間の定めがない賃貸借の場合には、競落後いつでも解約の申入れはできるが、その申入れは6か月前までにしなければならないので(借地借家法第27条第1項)、その6か月間の期間の経過を待って明け渡しを求めることになる。
 なお、改正民法の経過措置の対象となる短期賃貸借の場合であっても、競売の手続期間中に更新期が到来するものについては、競売開始決定に基づく「差押え登記」後の更新ということになるので、その更新は競落人に対抗できない(上記【回答】⑶ただし書き以下参照)。したがって、そのような賃貸物件の場合には、「物件明細書」に次のように記載されている。
 『物件の占有状況等に関する特記事項』欄に、すでに更新期が到来しているものについては、「○○が占有している。同人の賃借権は、差押え後に期限が経過している。」と記載され、競落時期までに更新期が到来するものについては、「○○が占有している。同人の賃借権は、平成○年○月○日の経過により、差押え後に期限が経過するものである。」と記載されている。
 また、単に競落人に対抗できる賃借人の場合は、次のように記載されている。
 『買受人が負担することとなる他人の権利』の欄に、期間の定めがある賃貸借の場合には、「上記賃借権は最先の賃借権である。期限後の更新は買受人に対抗できる。」と記載され、期間の定めがない賃貸借の場合には、「上記賃借権は最先の賃借権である。」とだけ記載されている。いずれも競落人に対抗できる最先の賃借権であることを示している。
   質問6.について ― 『買受人が負担することとなる他人の権利』欄の《敷金(保証金)》欄に、「○○円(売却基準価額には、左記敷金(又は保証金)の返還債務を考慮して定められている。)」と記載されている。ただし、この場合は敷金(又は保証金)を控除して売却基準価額を定めたことを意味しているので、評価額と売却基準価額が異なるが、評価額に控除額を反映させているケースもあるので、その場合は評価額と売却基準価額が同一となる(以上、東京地方裁判所民事執行センター発行「競売ファイル・競売手続説明書(再訂版)」)。
   質問7.について ― 競落人に対抗できる賃借人も、対抗できない賃借人も、競売以外の方法で所有権が移転した場合には、現にその建物に入居している(建物の「引渡し」を受けている)という第三者対抗要件を備えているので、新しく所有者(貸主)になった者に対しては、すべてその賃借権を対抗することができる(借地借家法第31条第1項)。したがって、それらの賃借人に対して建物の明け渡しを求めるには「正当の事由」が必要となるので(借地借家法第28条)、立退料の支払いなどを条件に、合意で賃貸借契約を終了させる以外に難しいと考えられる。

参照条文

平成15年改正民法附則第5条(短期賃貸借に関する経過措置)
   この法律の施行の際現に存する抵当不動産の賃貸借(この法律の施行後に更新されたものを含む。)のうち民法第602条に定める期間を超えないものであって当該抵当不動産の抵当権の登記後に対抗要件を備えたものに対する抵当権の効力については、なお従前の例による。
民法第602条(短期賃貸借)
 処分につき行為能力の制限を受けた者又は処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、次の各号に掲げる賃貸借は、それぞれ各号に定める期間を超えることができない。
 (略)
 前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 5年
 建物の賃貸借 3年
 (略)
借地借家法第31条(建物賃貸借の対抗力等)
   建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。
  、③(略)

参照判例①

   最判昭和44年7月17日民集23巻8号1610頁(要旨)
 建物賃貸借契約において、該建物の所有権移転に伴い賃貸人たる地位に承継があった場合には、旧賃貸人に差し入れられた敷金は、未払賃料債務があればこれに当然充当され、残額についてその権利義務関係が新賃貸人に承継される。

参照判例②

   大判昭和2年12月22日民集6巻716頁(要旨)
   敷金が差し入れられている建物賃貸借において、建物が任意に譲渡された場合、敷金関係も当然に承継される。

監修者のコメント

 競売による場合でも任意売却による場合でも、収益物件を取得するときは、特に次の点に注意することが必要である。

  •  当該物件の賃借人をそのまま引き受けるつもりのときは、賃借人がどういう者か(暴力団員等でないか)、賃料の支払状況(滞納がないか)を可能な限り調査すること
  •  賃借人に退去してもらうつもりのときは、法律的にそれができるから問題がないと安易に考えないこと。たとえ、賃借人に占有の権利がないとしても、現実には明渡訴訟によらざるを得ないこともしばしばである。

より詳しく学ぶための関連リンク

“スコア”テキスト丸ごと公開! 「敷金」

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