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賃貸事例 1204-R-0101掲載日:2012年4月
建物の一時賃貸借契約に適用される法律
契約期間を6か月とする建物の一時賃貸借契約を締結するが、この期間6か月というのは「1年未満」なので、借地借家法第29条の規定により、「期間の定めがない賃貸借」とみなされるのか。もしそうだとした場合、この契約を終了させるには、同法第27条の規定により、6か月前の予告が必要になるのか、それとも民法第617条の規定により、3か月前の予告が必要となるのか。
事実関係
当社は媒介業者であるが、このたびある建物を選挙事務所用に一時賃貸借する。しかし、このような建物の一時賃貸借については、民法にも借地借家法にも明確な規定がないので、どのような法律が適用されるのかがよくわからない。
質問
- 今回の賃貸借は期間が6か月であるが、この場合の建物賃貸借は、借地借家法第29条の規定により、「期間の定めがない賃貸借」とみなされるのか。
- もし「期間の定めがない賃貸借」とみなされる場合、貸主から賃貸借を終了させるには、借地借家法の規定によれば、解約の申入れをしてから6か月後ということになり(同法第27条第1項)、民法の規定によれば、解約の申入れをしてから3か月後ということになるので(同法第617条第1項)、果して契約期間の満了時に賃貸借を終了させることができるのかがよくわからない。
- そもそも、建物賃貸借における一時賃貸借というのは、法制度的にあるのか。その場合に適用される法律は、借地借家法になるのか、それとも民法なのか。
回答
1. | 結 論 | |
⑴ | 質問1.について ― 「期間の定めがない賃貸借」とはみなされない。 | |
⑵ | 質問2.について ― 「期間の定めがない賃貸借」とはみなされないので(借地借家法第40条)、賃貸借は約定どおり期間の満了(6か月)により終了し、解約の申入れも必要ない。 | |
⑶ | 質問3.について ― 法制度的に特に定められたものはないが、建物賃貸借においても、契約自由の原則により、一時使用目的の賃貸借(いわゆる「一時賃貸借」)というのは認められる。 まさしく本件のような目的で、一定期間だけ賃貸借するようなケースが一時賃貸借であり、その場合に適用される法律は、建物の賃貸借であっても、借地借家法の借家に関する規定が適用されることはなく(同法第40条)、一般法である民法の規定が適用される。 |
2. | 理 由 | |
一時使用目的の賃貸借は、あくまでも一時使用目的のために建物を賃貸借するのであるから、更新を前提とした賃貸借(いわゆる普通借家)とは根本的に異なる。 すなわち、契約の当事者が更新を前提とした建物賃貸借契約(普通借家契約)の締結を意図しながら、その期間を1年未満とした場合には、法が、その賃貸借の期間を、「期間の定めがない」ものとし、借主の保護を図ろうというのが借地借家法第29条の趣旨である。したがって、そのような契約であれば、仮に賃貸借の期間が6か月になっていたとしても、貸主から契約を終了させるには6か月前の予告が必要になるし、(借地借家法第27条)、その予告を行うのにも「正当の事由」が必要となる(同法第28条)。 しかし、本件のケースは、当事者間に選挙が終了するまでの間の一時的な賃貸借であるということが明確に認識されているので、その旨が賃貸借契約書に明示されていると否とにかかわらず、一時使用目的の賃貸借として、その期間の満了をもって契約は終了することになる。その意味では、定期の建物賃貸借と同じような機能を果たす賃貸借ということになるが、どういうわけか、一時使用目的の建物賃貸借については、借地借家法第40条の規定以外は、民法にも明確な規定は置かれていない。 なお、土地の賃貸借については、一時使用目的の賃貸借について、借地借家法に同法の規定が適用されない条文が具体的に定められている(同法第25条)。 |
参照条文
① | 民法第617条(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ) | |
当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。 | ||
一 | (略) | |
二 | 建物の賃貸借 3箇月 | |
三 | (略) | |
○ | 借地借家法第25条(一時使用目的の借地権) | |
第3条から第8条まで、第13条、第17条、第18条及び第22条から前条までの規定は、臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合には、適用しない。 | ||
○ | 同法第27条(解約による建物賃貸借の終了) | |
① | 建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から6月を経過することによって終了する。 | |
② | 前条第2項及び第3項の規定は、建物の賃貸借が解約の申入れによって終了した場合に準用する。 | |
○ | 同法第28条(建物賃貸借の更新拒絶等の要件) | |
建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければすることができない。 | ||
○ | 同法第29条(建物賃貸借の期間) | |
① | 期間を1年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす。 | |
② | 民法第604条の規定は、建物の賃貸借については、適用しない。 | |
○ | 同法第40条(一時使用目的の建物の賃貸借) | |
この章の規定は、一時使用目的のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合には、適用しない。 |
監修者のコメント
一時賃貸借契約、正確には一時使用目的賃貸借契約は、建物の場合は、借地借家法第40条により、そもそも同法の適用を受けず、民法の賃貸借の規定の適用を受けるだけである。ただ、気をつけなければならないのは、その「一時使用目的」の賃貸借かどうかは、その利用目的、賃貸期間等諸般の事情を総合考慮し、客観的観点から決定されるのであって、例えば契約書のタイトルに「一時使用賃貸借契約」と書いてあるとか、契約書の条文に「本契約は、一時使用目的の賃貸借である」と書いてあるというようなことで決まるのではないということである。借地借家法による賃借人保護の規定が適用されるかどうかの重大問題であるから、慎重な考慮が必要である。本ケースは、選挙事務所用というのであって、それが真に選挙期間中だけ借りるというものであれば、一時使用目的の賃貸借とみてよいと思われる。