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売買事例 1108-B-0139掲載日:2011年8月
買主が宅建業者の場合のビルの基礎杭の存在と瑕疵担保責任
ビルの売買の媒介で、売買の対象を土地だけにし、物件の引渡し後、買主(宅建業者)がビルを解体撤去する特約をした。ところが、ビルの基礎杭が地中に約10mも埋め込まれていたため、その撤去費用が当初の見積り額を500~600万円も超過することになった。この基礎杭は瑕疵か。買主が宅建業者の場合にも、売主は瑕疵担保責任を負うか。媒介業者にも責任があるか。
事実関係
当社は媒介業者であるが、当社が先日ある商業ビルの売買の媒介をした際、当事者の合意で、売買は土地だけについて行うが、その土地上の古いビルは物件の引渡し後、買主(宅建業者)がみずからの費用で解体撤去するという特約付で契約が成立した。ところが、物件の引渡し後、買主がビルの解体をしたところ、ビルの基礎杭が地中10m近くまで達していることが判明し、そのため、その撤去費用として、別途500~600万円の追加費用がかかることが判った。
なお、この売主は地元で測量会社を営んでいる老舗であり、買主もこの地域でマンションの分譲や媒介を行っている宅建業者であるが、本件の取引にあたって、瑕疵担保責任の期間を6か月間とすることと、ビルの解体撤去費用(見積りは、地元の解体業者が算出したもの)は代金から控除する話は出たが、ビルの基礎杭の存在や支持地盤の深さについての話は一切出なかった。
質問
- このような特約付で行われた土地の売買であるが、売主(測量会社)は瑕疵のある土地を買主(宅建業者)に引き渡したことになるか。
- もし売主が瑕疵のある土地を買主に引き渡したとした場合、売主は買主が宅建業者であっても、他の買主の場合と同じような責任を負うことになるのか。
- このようなケースでも、媒介した当社に責任はあるか。
回答
1. 結論 | |||
⑴ | 質問1.について ― 事実関係いかんにもよるが、追加費用の額が大きいだけに、売主は買主に対し瑕疵のある土地を引き渡したことになると考えられるが、「隠れた瑕疵」といえるかどうかは即断できない。 | ||
⑵ | 質問2.について ― 買主が宅建業者の場合には、必ずしも同じような責任を負うことになるとは限らない。 | ||
⑶ | 質問3.について ― 媒介した貴社にも責任があるかどうかは、具体的にどのような媒介をしたかによるので、即断し難い。 | ||
2. 理由 | |||
⑴ | について | ||
民法第570条の「隠れた瑕疵」というのは、一般に買主が過失なく、通常の注意をもってしても発見できない瑕疵のことをいうとされており(後記【参照判例】参照)、その考え方は、買主が宅建業者であっても同じである。したがって、今回の取引で、ビルの基礎杭の存在が「瑕疵」であるというためには、買主である宅建業者が、地元の業者であるにもかかわらず、通常の注意では知り得ない地盤の上にビルが建っていたということを立証する必要があるということになる。そのためには、今回の買主が、宅建業者として過去に分譲してきたこのビルの近くのマンションの地盤がどうであったかなどを含め、本件の中古ビルの建っている土地の地盤が弱く、かつ、その支持地盤がかなり深いところにあることが経験則上わからなかったことを証明するということであろう。 そのように考えてくると、買主が今までに地元で分譲してきたマンションのうち、この中古のビルの近くのマンションの基礎が杭打ち工法でないということであれば、それを立証するひとつの材料になるであろうし、まして、今回のように解体撤去費用の見積りが、専門の解体業者の算出したものであれば、さらに買主(宅建業者)の無過失が補強される材料になるからである。 |
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⑵ | ⑶について | ||
しかし、本件の場合は、買主も宅建業者であり、しかも宅建業者が取引の媒介をしている関係上、買主が売主に対し100%の瑕疵担保責任を追及できるかどうかについては大いに疑問があるところである。すなわち、このようなビルの売買をする場合には、少なくともそのビルの設計図書を買主が閲覧し、引き渡しを受けるのが普通で、まして買主がそのビルを解体するということになれば、特に問題となる地下部分や基礎部分の工法がどのようになっているかは最大の関心事のはずである。にもかかわらず、仮に地下・基礎部分の設計図書が見当たらなかったとしても、それらの点に何の注意もせずに、地元の解体業者に解体撤去についての費用見積りを出させたとすれば、そのやり方に買主として過失があったと考えることができるからである。 したがって、本件のケースの場合には、買主が売主に損害賠償(追加費用)の請求をするにしても、必ずしもその費用の全額を請求できるとは限らないということになるし(過失相殺)、媒介業者にも媒介契約上の債務不履行や注意義務違反がある可能性もあるので、もしそうであれば、媒介業者としてもその費用の一部を負担しなければ解決がつかないということも考えられる。 なお、本件の場合には、当初の費用見積りの経緯いかんにより、その見積書を提出した解体業者に対しても、相応の損害賠償請求ができる余地があることはもちろんである。 |
参照条文
○ | 民法第570条(売買の瑕疵担保責任) | ||
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定(地上権等がある場合等における売主の担保責任の規定)を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。 |
参照判例
○ | 大判昭和5年4月16日民集9巻376頁(要旨) | ||
隠れた瑕疵とは表見しない瑕疵のことで、一般普通人の観察を標準として定めるべきものであるが、表見しない瑕疵であっても、買主がこれを知り、もしくはある程度の注意を用いたならば知りえたであろう場合には、売主は担保責任を負わない。 | |||
○ | 大判昭和13年6月23日民集3巻339頁(要旨) | ||
隠れた瑕疵とは、契約当時買主が過失なしにその存在を知らなかった瑕疵をいう。 |
監修者のコメント
本ケースは、仮に裁判になったとしても、第一審と控訴審の判断が分かれてもおかしくない難しい事案である。なぜなら、その基礎杭の存在は、「瑕疵」ではあると考えられるが、「隠れた」瑕疵といえるかが大きな争点となり、また売主が単なる素人ではなく、測量会社というのであるから解体撤去に関する特約に当たって当該杭の存在について信義則上、説明義務があるといえるのではないかも争点として考えられる。「隠れた」というのは、回答にあるとおり、買主に過失がなく、通常の注意をもっても知り得なかったという意味で、本件の買主は素人ではなく宅建取引のプロであり、しかも従前ビルが建っていた更地を買うのではなく、現にビルが建っている土地を自ら解体撤去する費用を負担する特約で買うというのである。
一方、売主が具体的な交渉過程において通常の撤去費用より高額になることを知っていたとか、費用の点はともかく10mに及ぶ基礎杭があることを知っていたというような場合は、売買契約上の付随義務として、そのことを告知説明すべき信義則上の義務があるということもできる。
なお、媒介業者の責任については、ビルの基礎杭の内容について一般的な調査説明義務があるとはいえないが、容易に知り得たか否か、売主に説明を求めたか、買主からの照会に杜撰な回答をしたかなど具体的な対応によって判断せざるを得ない問題であって、質問の事実関係だけでは結論は出せないと思われる。
より詳しく学ぶための関連リンク
・“スコア”テキスト丸ごと公開! 「瑕疵担保責任(瑕疵担保責任の期間と内容)」
・“スコア”テキスト丸ごと公開! 「地盤と基礎」