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売買事例 1106-B-0134
売主の履行遅滞に対する遅延損害金

 不動産の売買契約において、売主の履行遅滞に対し遅延損害金を定めることができるのか。できるとした場合、どのような基準で定めるのか。上限はあるのか。違約金を定める場合にも定めることができるのか。その相手方は、遅延損害金の支払いを受けたうえで、契約を解除し、違約金を請求することができるのか。

事実関係

 不動産の売買契約において、買主が代金の支払いを遅延した場合は、売主は買主に対し、原則として買主が支払うべき代金に対し民法第404条に定められている法定利率(年利5%)を乗じた金額を遅延損害金(遅延利息)として請求することができる(民法第419条)。そして、その請求は、当事者間に特約がなくても請求することができる。
 ところが、売主が物件の引渡し等の履行遅滞をした場合には、当事者間で違約金の定めをする以外に、遅延損害金の支払いを特約するケースはほとんどないし、民法にも規定がない。

質問

  •  買主の代金の支払遅延に対する遅延損害金(遅延利息)は、違約金を定める場合にも定めることができるのか。できるとした場合、その上限利率はあるのか。
  •  売主は、買主から遅延損害金の支払いを受けたうえで、契約を解除し、違約金の支払いを受けることができるのか。
  •  売主の履行遅滞に対する遅延損害金は、違約金を定める場合にも定めることができるのか。できるとした場合、その上限利率はあるのか。その上限利率は、何に乗じて算出するのか。
  •  買主は、売主から遅延損害金の支払いを受けたうえで、契約を解除し、違約金の支払いを受けることができるのか。
  •  そもそも売主に物件の引渡しなどの履行遅滞があっても、買主には当然には損害が発生しないと思うが、それでも特約をすれば、遅延損害金の請求ができるということか。もし、当事者が遅延損害金についての特約をしなかったときは、どうなるのか。

回答

  質問1.について ― 買主の代金の支払遅延に対する遅延損害金は、その額が妥当である限り、違約金を定める場合にも定めることができる。その場合の遅延損害金の上限利率は、消費者契約の場合には年利14.6%となるが(消費者契約法第9条第2号)、消費者同士あるいは事業者同士の契約の場合には、暴利にならない範囲でケースバイケースで定めることになる。
  質問2.について ― 違約金の請求について、契約を解除したうえで行使する旨の定めがあり、かつ、その際に遅延損害金の既払分を控除する等の定めがなければ、売主は、買主から遅延損害金の支払いを受けたうえで、契約を解除し、違約金の支払を受けることができる。
  質問3.について ― 売主の履行遅滞に対する遅延損害金は、その額が妥当である限り、違約金を定める場合にも定めることができる。その場合の上限利率に関する考え方は、上記質問1.の場合と同じであり、その利率を乗じるべき金額は、特約がなければ、契約時の売買代金相当額と解される。
  質問4.について ― 上記質問2.の場合と同様になっていれば、買主は、売主から遅延損害金の支払いを受けたうえで、契約を解除し、違約金の支払いを受けることができる。
  質問5.について ― 前段の質問については、必ずしもそうではなく、たとえば買い換えなどの場合には、家具などの保管料やホテルの宿泊料などの費用が損害として発生してくる場合があるので、「買主には当然には損害が発生しない」と考えるのは正しくない。
 したがって、当事者が遅延損害金や違約金を定めれば、それが損害賠償額の予定となるが(民法第420条)、もしそのような損害賠償額の予定をしなかったときは、賃料相当額の損害賠償の請求ができるという考え方と、現実に生じた損害賠償額の請求ができるという考え方がある。

参照条文

 民法第415条(債務不履行による損害賠償)
   債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
 民法第416条(損害賠償の範囲)
   債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
   特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
 民法第417条(損害賠償の方法)
   損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。
 民法第419条(金銭債務の特則)
   金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
   前項の損害賠償については、債権者は損害の証明をすることを要しない。
   前1項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。
 民法第420条(賠償額の予定)
   当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。
   賠償額の予定は、履行の請求は又は解除権の行使を妨げない。
   違約金は、賠償額の予定と推定する。
 消費者契約法第9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項の無効)
   次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
   一 (略)
   二 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が2以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年14.6パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分

監修者のコメント

 売主、買主いずれの債務についても、暴利行為(民法第90条)に当たらない限り、遅延損害金と違約金を別に定めることは、契約自由の原則の範ちゅうの問題であって、当事者が認識している限り有効である。
 ご質問の売主側の引渡し義務の遅延損害金は、1日当たり、いくらと定めるのが簡明で望ましい。
 違約金や遅延損害金の特約をしなかったときは、実損害を証明して請求することとなる。

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