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売買事例 1102-B-0129掲載日:2011年2月
媒介契約における媒介業者と依頼者の成約義務
当社は売主と媒介契約を締結し、条件に合う買主を見付けたが、売主と連絡がとれず、あと2日で期間が満了する。このような場合、期間が満了しても、後日に更新の覚書を締結すれば、引き続き媒介業務ができるか。もし、売主と連絡がとれても、売主が今回の買主とは契約しないと言った場合は、売主に対し、これまでにかかった費用の償還を請求できるか。媒介業者が売主の条件に合った買主を見付けた場合には、売主には売買契約を締結する義務があるのではないか。
事実関係
当社は3か月程前に売主との間で専任媒介契約を締結し、明日その媒介契約の期間が満了するが、売主とは何回電話をしても連絡がとれない。しかし、当社には約定の「媒介価額」で買い受けるという買主がいるので、何としてでも商談を進めたい。
なお、この売主との間には、1か月程前に約定の「媒介価額」を若干下回る希望価額の買主との間で商談が行われたことがあるが、そのときは残念ながら成約に至らず、売主からは、「これからは満額回答の買主でなければ、契約はしない。」と言われていた。したがって、今回の買主との間では条件が一致しているので、成約に至るものと確信している。
質問
1. | このまま媒介契約の有効期間が切れてしまった場合でも、当社は、後日に売主(依頼者)との間で更新の覚書を締結すれば、宅建業法上問題なく媒介業務を行うことができると思うが、どうか。 |
2. | もし、今日・明日中に売主と連絡がとれたにもかかわらず、売主が今回の買主との間の商談を断った場合には、その行為は売主(依頼者)による媒介契約期間中の「乙(業者)の責めに帰すことができない事由による解除」になると思うので、当社は少なくとも売主(依頼者)に対し、それまでにかかった費用(媒介契約の履行のために要した費用)の償還を請求することができると思うが、どうか(標準専任媒介契約約款第13条)。 |
3. | もし、今日・明日中に売主と連絡がとれた場合に、売主は前回の商談のときに、「これからは満額回答の買主でなければ、契約はしない。」と当社に言っていたのだから、売主は、当社が今回客付けした満額回答の買主との間で売買契約を締結する義務があると思うが、どうか。 |
回答
1. 結論 | |||
⑴ | 質問1.について ― 依頼者からの更新の申出があり、かつ、その覚書に従前の媒介契約書の写しが添付されているなど、その覚書の内容が宅建業法第34条の2の規定の要件を満たすものであれば、業法上問題なく媒介行為を行うことができる。 | ||
⑵ | 質問2.について ― 売主が商談を断った際に、売主が「(本日)貴社との媒介契約を解除する。」と言ったのなら、その可能性はあるが、そのようなことを言わずに、単に「(今回の買主とは)商談をしない。」と言ったのであれば、媒介契約の解除の意思表示とみることは難しい。したがって、今回のケースでそのまま時間切れになれば、媒介契約は終了したことになり、貴社は売主(依頼者)に対し、約定(約款)に基づく「媒介契約の履行のために要した費用」の償還を請求することは難しいと考えざるを得ない。 | ||
⑶ | 質問3.について ― 売主(依頼者)には、今回の買主との間で売買契約を締結する義務はない。その買主が満額回答の買主であってもなくても同じである。 |
2. 理由 | ||
⑴について 標準専任媒介契約約款第14条によれば、媒介契約を更新しようとするときは、「有効期間の満了に際し、その旨を依頼者が媒介業者に文書で申し出る」ことになっており、その更新がなされたときに専任媒介契約の内容について当事者間で「別段の合意がなされなかったときは、従前の契約と同一内容の契約が成立したものとみなす。」と定められている。 したがって、そのような媒介契約上の手続を経ずに媒介契約の有効期間が満了してしまった場合には、いかに遡って更新契約(覚書)を締結するといっても、その契約(覚書)の内容が宅建業法第34条の2の規定の要件を満たしているものでない限り、貴社に対しその後も「宅建業法上問題なく媒介業務を行うことができる」と言うことはできない。 |
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⑵について (略) |
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⑶について 媒介契約というのは、依頼者が媒介業者に対し、自分の希望する条件に合う取引の相手方を見付けて欲しいと依頼し、媒介業者がその依頼者の条件に合う相手方を見付け、取引の仲立ちをするという契約である。そしてその結果、取引が成立すれば、媒介業者は依頼者に対し、媒介報酬を請求することができるという法律関係になる。 しかし、依頼者には、媒介業者が見付けてきた相手方と必ず取引をしなければならないという義務はなく、また、媒介業者においても、一定の媒介契約上の義務(注)は負うが、必ず取引を成立させなければならないという義務はない。したがって、今回の売主のような行動に出る依頼者がいても、その依頼者に対し、契約の締結を強制することはできないのである。 ただ、この依頼者が媒介契約の期間満了を待って、他の業者の媒介で今回の買主との間で売買契約を締結しようと考えていたり、直接契約を締結しようとしているのであれば、その依頼者に対しては、結果として相応のペナルティ等の請求は可能である(標準専任媒介契約約款第10条、第11条)。 |
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(注) | この媒介業者の媒介契約上の義務は、媒介契約を標準媒介契約約款を用いて締結した場合の指定流通機構への登録や依頼者への報告義務などである。 |
参照条文
○ 標準専任媒介契約約款第10条(直接取引) | |||
専任媒介契約の有効期間内又は有効期間の満了後2年以内に、甲が乙の紹介によって知った相手方と乙を排除して目的物件の売買又は交換の契約を締結したときは、乙は、甲に対して、契約の成立に寄与した割合に応じた相当額の報酬を請求することができます。 | |||
○ 同専任媒介契約約款第11条(違約金の請求) | |||
甲は、専任媒介契約の有効期間内に、乙以外の宅地建物取引業者に目的物件の売買又は交換の媒介又は代理を依頼することはできません。甲がこれに違反し、売買又は交換の契約を成立させたときは、乙は、甲に対して、約定報酬額に相当する金額(この媒介に係る消費税額及び地方消費税額の合計額に相当する額を除きます。)の違約金の支払を請求することができます。 | |||
○ 同専任媒介契約約款第13条(費用償還の請求) | |||
① | 専任媒介契約の有効期間内において、甲が自ら発見した相手方と目的物件の売買若しくは交換の契約を締結したとき、又は乙の責めに帰すことができない事由によって専任媒介契約が解除されたときは、乙は、甲に対して、専任媒介契約の履行のために要した費用の償還を請求することができます。 | ||
② | 前項の費用の額は、約定報酬額を超えることはできません。 | ||
○ 同専任媒介契約約款第14条(更新) | |||
① | 専任媒介契約の有効期間は、甲及び乙の合意に基づき、更新することができます。 | ||
② | 有効期間の更新をしようとするときは、有効期間の満了に際して甲から乙に対し文書でその旨を申し出るものとします。 | ||
③ | 前2項の規定による有効期間の更新に当たり、甲乙間で専任媒介契約の内容について別段の合意がなされなかったときは、従前の契約と同一内容の契約が成立したものとみなします。 | ||
○ 宅地建物取引業法第34条の2(媒介契約) | |||
① | 宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換の媒介の契約(以下この条において「媒介契約」という。)を締結したときは、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならない。 | ||
一 | 当該宅地の所在、地番その他当該宅地を特定するために必要な表示又は当該建物の所在、種類、構造その他当該建物を特定するために必要な表示 | ||
二 | 当該宅地又は建物を売買すべき価額又はその評価額 | ||
三 | 当該宅地又は建物について、依頼者が他の宅地建物取引業者に重ねて売買又は交換の媒介又は代理を依頼することの許否及びこれを許す場合の他の宅地建物取引業者を明示する義務の存否に関する事項 | ||
四 | 媒介契約の有効期間及び解除に関する事項 | ||
五 | 当該宅地又は建物の第5項に規定する指定流通機構への登録に関する事項 | ||
六 | 報酬に関する事項 | ||
七 | その他国土交通省令で定める事項 | ||
②~⑨ (略) |
監修者のコメント
媒介契約の期間が満了すれば、依頼者からの更新申出がない限り、媒介契約関係はなくなる。また、媒介契約の期間中であっても、依頼者は媒介業者から紹介された相手方当事者との契約を締結しなければならない義務はない。その相手方と売買契約を締結すべきかどうかの判断は、代金額のみならず、他の諸々の契約条件も考慮対象でもあるし、相手方の職業、資金力あるいは面談した相手方の態度、人品骨柄を問題としたとしても必ずしも不当とはいえない。ただ、本ケースの売主の「契約をしない」という真意が、業者を排除して直接取引をしようとか、期間満了を待って他の業者の仲介によって、その相手方と売買契約をしようというように、依頼者の意図が不当な場合には、相応の媒介報酬の請求ができる。したがって、回答のとおりの結論であっても、ずるい依頼者に利得させることにはならない。