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売買事例 1102-B-0128掲載日:2011年2月
手付解除期限までの間の中間金支払義務違反と手付解除
手付解除期限までの間に中間金の支払期日を定めた場合、買主が中間金を支払わなかったときは、売主は約定に基づく違約金の支払いを請求できるのか、それとも買主は手付放棄だけで契約を解除することができるのか。このような問題に、媒介業者はどのように対応したらよいか。
事実関係
当社は媒介業者であるが、このたび媒介する土地の売主(建築業者)から、契約に使う売買契約書のひな型を見せて欲しいと言われたので、協会のひな型を見せたところ、「この契約書には、意味のわからないところがある。」と言われた。 そこで、その意味のわからない箇所を聞いたところ、その箇所は、次の手付解除の条項と、違約の場合の違約金請求条項のところで、その両者の関係がよくわからないという。 |
(手付解除) | |
第○条 | 売主は、買主に受領済の手付金の倍額を支払い、また買主は、売主に支払済の手付金を放棄して、それぞれこの契約を解除することができる。 |
2 | .前項による解除は、下記の事項のいずれかが早く到来したとき以降はできないものとする。 ① 相手方がこの契約の履行に着手したとき ② 標記の期限(G=手付解除の期限)を徒過したとき |
(契約違反による解除) | ||
第○条 | 売主または買主がこの契約に定める債務を履行しないとき、その相手方は、自己の債務の履行を提供し、かつ、相当の期間を定めて催告したうえで、この契約を解除することができる。 | |
2 | .前項の契約解除に伴う損害賠償は、標記の違約金(H)によるものとする。 | |
3 | .違約金の支払いは、次の通り、遅滞なくこれを行う。 | |
① | 売主の債務不履行により買主が解除したときは、売主は、受領済の金員に違約金を付加して買主に支払う。 | |
② | 買主の債務不履行により売主が解除したときは、売主は、受領済の金員から違約金を控除した残額をすみやかに無利息で買主に返還する。この場合において、違約金の額が支払済の金員を上回るときは、買主は、売主にその差額を支払うものとする。 |
質問
売主からの質問の内容は、「売主と買主が、標記の手付解除の期限(G)までの間に中間金の支払期日を定めた場合で、買主がその支払期日までに中間金の支払いをしなかったときは、売主は違約金の請求ができるのか、それとも買主は手付放棄で契約を解除することができるのか」というものである。もちろん、質問の前提は、手付の額の方が違約金の額より少ない場合を想定しての質問である。 | |
1. | このような質問に対し、媒介業者としてはどのように回答したらよいか。 |
2. | もし、このような売主からの質問がなく、契約の当事者が中間金の支払期日を手付解除期限内に定めたときは、買主は、中間金の支払期日に中間金を支払わずに、期日を過ぎてからも手付解除ができるのか。 |
回答
⑴ | 質問1.について ― そのような法的解釈についてのトラブルが生じるので、手付解除の期限より中間金の支払期日が後にくるように定めるか、手付金の額と違約金の額を同額にしておくなどの方法が望ましい旨を売主に伝えたらよい。 そして、もし売主と買主が、どうしてもその重複する期間内に中間金の支払期日を定めるとか、手付金の額と違約金の額を同額にしないというのであれば、その場合には、「契約当事者の一方が、標記手付解除の期限(G)内に違約をしたにもかかわらず、その違約をした者が、相手方より先に手付を放棄し、または倍返しをしてこの契約を解除したときは、その相手方は違約者に対し違約金を請求することができない。」と定めておけばよい。 |
⑵ | 質問2.について ―(最終的には、個別事案ごとに裁判所が判断することではあるが、)買主からの手付解除の方が、売主からの契約解除の意思表示よりも早くなされれば、買主は手付解除ができるが、売主からの契約解除の方が早ければもはや買主からの手付解除はできないと解する考え方もあるが、本件の質問は、買主が手付解除をする前に、その支払期日が到来する中間金の支払義務を履行しなくても手付解除ができるのかということであるから、本件の場合には、買主の契約違反により売主にはすでに買主に対する違約金支払請求権が発生していることになる。したがって、このようなケースの場合にも買主からの手付解除を認めた場合には、すでに発生している売主の違約金支払請求権の行使を侵害することになるので、果たしてそのような買主の権利行使(解除権の行使)が認められるのかどうかは容易に判断し難いところである(後記【参照条文】参照)。 |
参照条文
○ 民法第415条(債務不履行による損害賠償) | ||
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行することができなくなったときも、同様とする | ||
○ 民法第420条(賠償額の予定) | ||
① | 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。 | |
② | 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。 | |
③ | 違約金は、賠償額の予定を推定する。 | |
○ 民法第541条(履行遅滞等による解除権) | ||
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行を催告し、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。 | ||
○ 民法第545条(解除の効果) | ||
①② (略) | ||
③ 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。 |
監修者のコメント
本ケースの契約条項のように中間金の支払期日を手付解除期限内に定めたときは、買主が中間金を支払った以上、買主の履行の着手に当たるので手付解除期限内であっても、約定上、売主からは手付倍返しでも解除することはできない。その限りにおいては、そのような契約条項は意味があるが、中間金が支払期日に支払われずに過ぎた場合にどうなるのかという難しい問題になる。質問2.の「買主は、中間金の支払期日に中間金を支払わずに、期日を過ぎてからも手付解除ができるのか」という問題は、見解が分かれてもおかしくない大変難しい問題である。手付解除期限を決めた点を重くみれば、そのような場合でも手付解除期限内である以上、買主は手付解除ができるという考え方も成り立ち得る。しかし、中間金の支払期日を決めた以上、その不払いは「履行遅滞」であるから、売主は催告のうえ、契約解除をして違約金の請求ができると解される。そして、解除された以上、回答のとおりもはや買主からの手付解除はできなくなる。手付解除の対象である契約もすでに消滅しているからである。いずれにせよ、中間金の支払期日より、手付解除期限を遅く定めることは適切ではない。