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賃貸事例 1102-R-0087
建物賃貸借契約における原状回復の時期

 建物賃貸借契約において、期間満了や中途解約の場合の原状回復は、当事者間に特約がない場合は、建物の明渡しまでに行わなければならないものなのか、それとも建物明渡し後に行うものなのか。

事実関係

 当社は賃貸の媒介業者であるが、建物賃貸借契約において、期間の満了や中途解約の場合の原状回復の時期について、貸主や他の媒介業者との間で意見が分れるときがある。

質問

 当社は、原状回復の時期は、本来は借主が期間満了や中途解約によって建物を明け渡さなければならない時期までであると考えているが、他の媒介業者の中には、まず借主が建物を明け渡したうえで、関係者が原状回復の内容や方法を協議し、そのうえで時期を決めるべきだとしている者がいるが、どちらの考え方が正しいのか。

回答

1.   結論
   原状回復の時期についての特約がなければ、契約期間の満了日あるいは中途解約によって建物を明け渡す時までに原状回復すべきものと解される。したがって、貴社の考え方の方が正しいのであるが、実際の工事を伴う明け渡しの場合には、貴社の考え方は現実的でないという問題があり、また、他の業者の考え方で行う場合にも、借主の建物の明渡しは、少なくとも原状回復についての建物の事前チェックや打合せができる程度の余裕をもった明渡しがなされることが望ましいであろうから、その点についての何らかの事前の取り決め(特約)が必要となろう。
2. 理由
   建物賃貸借契約が終了する場合の原状回復の時期については、民法に明確な規定はない。
 ただ、建物賃貸借契約が終了する際の原状回復に関する権利義務については、使用貸借が終了する際の原状回復に関する規定(民法第598条)が準用されており(民法第616条)、その使用貸借の規定によれば、借主の原状回復の権利は義務でもあると解されているので、本件の建物賃貸借契約の場合においても、借主が原状回復の義務を負担しないというような特約をしていない限り、借主は、賃貸借契約が終了する際に、その目的物に付属させた物を収去する義務(原状回復義務)を有するものと解される。
 したがって、借主が原状回復の義務を有する以上、その時期等についての特約がない限り、借主は契約が終了するまでに義務を履行すべきであると解されるが、【回答】の結論でも述べたとおり、実際の工事を伴う明け渡しの場合には、この原則論は現実的ではないという問題もあるので、実務の慣行等も考慮に入れながら、事前の特約なり話し合いによって処理していくということになろう。
   なお、現在業界で使われているいくつかの建物賃貸借契約書のひな型を見た場合に、市販のものはともかく、ある業界団体で作成された建物賃貸借契約書の中に、その点についての解釈と処理方法が定められているものがあり、今後の参考になると思われるので、その契約書の該当条項を以下に掲載しておくこととする。
標準建物賃貸借契約書(様式例)
 (明渡し及び明渡し時の修繕)
  第○ 条 乙は、明渡し日を10日前までに甲に通知の上、本契約が終了する日までに本物件を明け渡さなければならない。
   乙は、第○条の規定に基づき本契約が解除された場合にあっては、直ちに本物件を明け渡さなければならない。
   乙は、明渡しの際、貸与を受けた本物件の鍵を甲に返還し、複製した鍵は甲に引き渡さなければならない。
   本契約終了時に本物件等内に残置された乙の所有物があり、本物件を維持管理するために、緊急やむを得ない事情がある時は、乙がその時点でこれを放棄したものとみなし、甲はこれを必要な範囲で任意に処分し、その処分に要した費用を乙に請求することができる。
   本物件の明渡し時において、乙は、通常の使用に伴い生じた本物件の損耗を除き、本物件を原状回復しなければならない。
   甲及び乙は、前項に基づいて乙が行なう原状回復の内容及び方法について協議するものとする。
   乙が明渡しを遅延したときは、乙は、甲に対して、賃貸借契約が解除された日又は消滅した日の翌日から明渡し完了の日までの間の賃料の倍額に相当する損害金を支払わなければならない。

参照条文

  民法第598条(借主による収去)
    借主は、借用物を原状に復して、これに附属させた物を収去することができる。
  民法第616条(使用貸借の規定の準用)
    第594条第1項、第597条第1項及び第598条の規定は、賃貸借について準用する。

監修者のコメント

 建物賃貸借の終了における借主の原状回復とは、その建物を貸主に返還すること、すなわち明渡すことである。この場合、「原状」とは国語的意味では「もとの状態」ということであるが、賃借した当時と全く同じ状態にして返さなければならないのではなく、特約がない限り、いわゆる自然損耗、経年変化によるものはそのまま返せば原状回復義務を履行したことになる。そこで、質問の「原状回復」という概念は、特約により一定の修復を借主が行わなければならないか、または自然損耗の範囲を超えた借主に責任(故意又は過失)のある毀損等がある場合を前提にしていると思われる。となると、それを行わなければならない時期は、前者すなわち特約がある場合は、まず特約の解釈によって決せられることである。しかし、時期を明確にした約定がないときは、明渡しまでに約定の原状回復をしなければならない、言い換えれば明渡時期には原状回復した建物を返還しなければならないと解すべきであろう。なぜなら、借主は明渡し時期以降は本来的にその建物の占有権原がないからである。これに対し、後者すなわち借主に責任のあるものの修補等は、理論上は損害賠償の代替としての義務的行為であるから、もともといつまでにしなければならないというものではなく、明渡し期限後に原状回復工事を行うのであれば、その工事のための占有分について賃料相当の損害額を支払わなければならないということになる。
 ただ、少なくとも質問の中にあった「まず借主が建物を明け渡したうえで、関係者が原状回復の内容や方法を協議し、そのうえで時期を決めるべきだ」という考え方は一般論としてはムリで、それを借主が主張することは特段の事情がない限り困難と解される。

より詳しく学ぶための関連リンク

・“スコア”テキスト丸ごと公開! 「原状回復義務」

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