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2502-R-0286掲載日:2025年2月
建物賃貸借契約締結前の貸主不在中の借主の入居と契約成立の時期
建物賃貸借契約の媒介活動中に、入居希望者から、現住居の明渡しとの関係で、すぐに賃貸物件に入居したいという申し出がなされた。しかし、貸主が長期旅行中で、入居審査も終っていないし、賃貸借契約書への記名押印も終っていない。
このような状況の中で、貸主は旅行先から、当社にその対応を一任すると言っているが、当社がどのような対応をとれば、契約上問題なく借主を入居させることができるか。その場合、建物賃貸借契約はいつ成立したといえるか。
事実関係
当社は建物賃貸借の媒介業者であるが、媒介活動を行っている最中に、入居希望者から、今住んでいる住居をすぐに明け渡さなければならないので、すぐに賃貸物件に入居したいと言ってきた。
しかし、貸主は長期旅行中で、電話でその対応を「任せる」と言ってくれてはいるが、いかに貸主から「任せる」と言われても、貸主が入居審査もしていないし、建物賃貸借契約書への記名押印もしていないので、果して入居させてもよいものかどうか心配である。
質 問
1. | 貸主が、借主の入居の可否の判断を当社に一任している場合、最小限どのような条件が調えば、当社が借主に鍵を引渡しても問題ないか。 |
2. | この場合、貸主からの当社への入居の可否の判断の一任と、その判断に基づく貸主からの入居の承諾があれば、その時に建物賃貸借契約が成立したと解釈してよいか。 |
回 答
1. | 結 論 | ||
⑴ | 質問1.について ― 借主との間においては、最小限重要事項の説明、建物賃貸借契約書への署名押印の取り付け、入居審査用書類の取り付けおよびその審査代理ならびに所定の賃料・敷金等の貸主口座への振込み入金の確認を条件にし、貸主との間においては、最小限本件賃貸借契約関係書類(申込み書類)の代理受領権限およびその審査権限と、本件先行入居の可否の判断の一任および鍵の交付に関する貸主からの代理権限授与の委任状を貸主から郵送してもらうことを条件に、鍵の引渡しをすべきであろう。 | ||
⑵ | 質問2.について ― 貸主からの貴社への一任とか承諾というより、その一任・承諾を受けた貴社が、前記⑴のすべての書類の代理審査を完了し、賃料等の入金を確認した後、貴社から借主へ鍵を引渡した時に建物賃貸借契約が成立したと解すべきである。したがって、その建物賃貸借契約書への契約締結日および始期の記入は、鍵の交付日と一致させるのが適当であろう。 | ||
2. | 理 由 | ||
⑴ | ⑵について 建物賃貸借契約が成立したといえるためには、必ずしも契約書が作成されていなければならないものではないが、少なくとも後日の契約の成立をめぐるトラブルを避けるためには、借主からの契約の申込みの証しとして提出された建物賃貸借契約書に借主の署名押印がなされていることが望ましく、これに所要の賃料等の支払いが伴えば、その申込みは確固たるものになると解される。 他方、貸主側の契約の申込みに対する承諾という点については、最小限貴社にその申込みに対する受領・審査権限と目的物(建物)の引渡し権限があれば、契約の内容は契約書によって明らかになっており、所要の賃料等もすでに貸主の口座に入金されていることからも、その目的物の引渡し(鍵の交付)をもって建物賃貸借契約が代理人を通して成立したと認めることができるからである。 |
参照条文
○ | 民法第99条(代理行為の要件及び効果) | ||
① | 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。 | ||
② | (略) | ||
○ | 民法第100条(本人のためにすることを示さない意思表示) | ||
代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第1項の規定を準用する。 |
監修者のコメント
建物賃貸借契約がいつ成立したことになるかは、契約自由の原則の範囲の問題で、当事者の合意でいつにしてもよい。
本ケースについての媒介業者の対応としては、回答のとおりに進めることが適切であるが、本ケースのようなときに、問題となるのは、あとになって貸主が「そのような人と判っていれば貸さなかった」というクレームがつくことである。したがって、たとえ「任せる」と言われていても、少なくとも借主予定者の年齢、職業、年収、家族構成については、貸主に告げておく必要がある。