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2502-R-0285掲載日:2025年2月
中古住宅のブレーカーの故障に対する修繕費用の負担者
築20年以上が経過した戸建住宅の賃貸借契約において、借主が契約アンペア以内の電気製品を使っているにもかかわらず、ブレーカーが落ちるという故障が生じた。この賃貸借契約においては、「電気・ガス・水道等の設備の維持修繕は大修繕以外は借主が行う。」という特約がある。
このような場合、このブレーカーの故障に対する修繕費用は誰が負担すべきか。ブレーカーを交換する場合には、「大修繕」になるか。そもそも「小修繕」か「大修繕」かは、誰がどのような基準で判断するのか。その前提となる点検費用は、誰が負担することになるか。
事実関係
築20年以上が経過している戸建住宅の賃貸借契約において、「賃貸借物件の電気・ガス・水道等の設備の維持修繕は、大修繕以外は借主が行う。」という特約がある。
このような特約がある建物賃貸借契約において、借主が契約アンペア以内の電気製品を使っているにもかかわらず、ブレーカーがすぐに落ちるという故障が生じた。貸主はこの故障に対し、その修繕は借主が行うべきだと主張し、借主は貸主が行うべきだと主張している。
質 問
1. | この場合の修繕は、誰が行うべきものか。 |
2. | そもそもこの「修繕を誰々が行う」という意味は、その「費用を誰々が負担する」ということだと思うが、そのとおりの考え方でよいか。もしよいとした場合、その修繕の範囲をどこまで行うか、場合によっては設備そのものを取り替えることもあると思うが、その判断は特約がない場合には誰がするのか。貸主がするのか、借主がするのか、それとも協議して定めるのか。 |
3. | 前記2.の質問に関連し、もしブレーカーそのものを取り替える必要があると判断される場合には、それは「修繕」ではなく、「交換」ということになるので、貸主が行うべき「大修繕」になると思うが、どうか。 |
4. | 修繕業務を行う場合、小修繕、大修繕のいかんにかかわらず、ケースによっては事前に配線関係のショートの可能性を点検する必要があるが、その点検費用は修繕費用に入るのか。入らないとした場合、その点検費用は誰が負担するのか。入るとした場合、その費用は「小修繕」に係る費用か、それとも「大修繕」に係る費用か。 |
回 答
1. | 結 論 | ||
⑴ | 質問1.について ― 故障の原因と修繕の内容により、修繕すべき者が異なる。 | ||
⑵ | 質問2.について ― 通常、「修繕は誰々が行う」という意味は、その「費用は誰々が負担する」ということと同義であると解されるが、その修繕の範囲や設備の交換の要否についての判断は、誰が判断するというものではなく、客観的に判断するものである。 | ||
⑶ | 質問3.について ― 修繕というより、設備の交換であるから、質問のとおり貸主が交換するのが妥当であろう。 | ||
⑷ | 質問4.について ― ショートの可能性があるか否かの点検費用は、「修繕費用」に入る。そしてその費用は、点検の結果、ブレーカー設備の調整ないし部品(いわゆる消耗品)の交換程度で修理できるものであれば「小修繕」に係る費用に含まれ、それ以上の修理を要するものであれば「大修繕」に係る費用に含まれるという考え方で区分し、あとは当事者の話し合いで解決すべきものと解される。 なおその際、ブレーカー設備の経年劣化が著しい場合には、仮に修理自体は「小修繕」に係る修理であったとしても、借主の入居期間を勘案し、費用の負担割合を話し合うとか、点検費用を貸主が負担するといった話し合いがなされることが望ましいであろう。 |
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2. | 理 由 | ||
⑴ | 〜⑷について 建物賃貸借契約における設備の修繕義務に関する考え方については、国土交通省が定めたいわゆる「原状回復に関するガイドライン」の中に参考となるべき事項が盛り込まれているが、修繕義務についての基本は、あくまでも借主の故意・過失等によるもの以外は、貸主が負うのが原則である(民法第606条)。 しかし、この民法の規定は任意規定であるから、当事者の話し合いにより、本件のようないわゆる「大修繕」は貸主が行い、それ以外の「小修繕」は借主が行うという特約を設けることは、その具体的な区分の内容が妥当なものである限り、何ら問題はない(民法第1条第2項、第90条、消費者契約法第10条)。したがって、本件の回答にあるように、その修理の内容がブレーカーの調整や消耗品の交換程度で済むようなものであれば、特別な事情がない限り、「小修繕」として借主にその費用を負担させることになったとしても、その区分けが妥当なものとして認められようが、ブレーカーそのものを交換するというような修理であれば、もはやこれは「小修繕」ではなく、「大修繕」として貸主がその費用を負担するというのが適当であろう。 なおその際、配線のショートの可能性についての点検費用が発生する場合には、仮にその修理の結果が「小修繕」として済んだとしても、ブレーカーが落ちた原因がブレーカーそのものの経年劣化によるものと認められる場合には、たとえば借主が何年も前からそこに住んでいるというような事情でもない限り、その点検費用は貸主が負担するというような方向で話し合いがなされることが望ましいといえるであろう。 |
参照条文
○ | 民法第1条(基本原則) | ||
① | (略) | ||
② | 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。 | ||
③ | (略) | ||
○ | 民法第90条(公序良俗) | ||
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。 | |||
○ | 民法第606条(賃貸物の修繕等) | ||
① | 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。 | ||
② | (略) | ||
○ | 消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効) | ||
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。 |
監修者のコメント
大修繕、小修繕の区分は、さらに中修繕という概念もあるくらいで、法律に定めがあるわけではないので、具体的な判断は大変難しい。契約の趣旨、賃料の額、修繕に要する費用その他の事情を総合的に斟酌して決定せざるを得ない。
本件のブレーカーの「交換」は、約定の「……設備の維持修繕」の概念には含まれないと解するのが素直であろう。
また、「誰が判断するのか」ということについては、当事者の誰かが判断するという問題ではなく、「客観的に」判断するということである。折り合いがつかなければ、最終的には裁判所に客観的判断を求めるしかない。