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2410-B-0337
他の区分所有者に影響を及ぼさない場合でも専用庭へ物置を設置することはできないのか。

 当社の媒介でマンションを購入した買主が専用庭に物置を設置し、用法違反であるため管理組合から撤去の要請を受けたが、買主は撤去を拒んでいる。

事実関係

 当社は、売買の媒介業者である。当社の媒介でマンションの1階の居室を購入した買主が無断で専用庭に物置を設置しているため、当該マンションの管理組合理事長から、当社が売買契約の際に管理規約等を説明したのかとの問い合わせがあった。当社は、重要事項説明の際に、買主に管理規約および使用細則等を提示し、専有部分と共用部分について説明するとともに、専用使用できるバルコニーや専用庭の使用制限についても説明した。特に当該マンションに関しては、専用庭使用細則があり、「家屋、倉庫、物置、サンルーム、ビニールハウス、縁側、遊戯施設、その他工作物の設置又は築造」や「その他専用庭の通常の用法以外の使用」は禁止事項となっていることも説明した。
 組合理事長は、買主に物置の撤去を要請しているが、買主は、他の組合役員がかつて所有建物の専用庭に物置を設置していたのに、自分に撤去を求めるのはおかしいと言っているとのこと。物置を設置していた役員は、他の区分所有者から指摘を受け、現在は撤去している。また、買主は、他の入居者の迷惑にならない限り、専用庭をどのように使用しても問題なく、撤去を求めるのは権利の濫用と主張しているようだ。

質 問

1.  管理組合が、管理規約や使用細則等で専用使用権のある区分所有者の専用庭の使用方法を制限することは権利の濫用にならないのか。
2.  専用庭の使用方法が他の区分所有者に影響や迷惑を及ぼさなくても、使用を制限されるのか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 他の区分所有者の権利の侵害や利用に支障を来すことがなくても、専用庭の使用を制限することは権利の濫用に該当しない。
 質問2.について ― 管理規約及び各使用細則等の定めは、区分所有者がそれぞれ従うべき規範であり、現実の支障が存在しなくても、規則違反行為である。
2.  理 由
⑵について
 分譲マンションは、共用部分と専有部分で構成されている。共用部分は区分所有者全員のものであり、建物本体や建物等の敷地が該当する。廊下、エントランス、バルコニーや窓、玄関ドアも建物の一部であり、共用部分である(区分所有法第2条、第4条)。専有部分は建物内の区分された独立した住宅、店舗、事務所等で、いわば床、壁、天井等の躯体(鉄筋コンクリート等)で囲まれた空間部分と言ってもよい。共用部分の修繕等は管理規約で定めるように区分所有者で構成される管理組合決議によるが、専有部分の改装や修繕等は区分所有者の自由である。このため、室内のクロス張替え等の内装については区分所有者が組合の許可を得ることなくできるが、玄関ドアを塗り直すには管理組合の許可なしに区分所有者が手を加えることができない。
 区分所有者の部屋に接続したベランダや専用庭があるが、ベランダ、専用庭も共用部分であり、その区分所有者が専用で使用できる権利があることが通常である。使用できる権利、使用の制限や使用方法については、管理規約又は使用細則で定められる(同法第30条・第31条)ことが一般的である。特に、バルコニーは火災等の緊急時の避難通路として使用することがあり、避難に支障があるものを設置することが制限または禁止されている。ベランダは洗濯物を干すことが想定され、物干し竿や洗濯物干し用の折りたたみ角ハンガー(ピンチハンガー)等を設置することは許されているであろう。ただし、高層マンション等では強風で洗濯物が飛ばされ、周辺に落下する恐れを回避するために洗濯物をベランダに干すことを禁止しているところがある。また、ベランダに置いたものに子供が乗って転落する事故も起こっており、許可された設置物でも注意が必要である。
 専用庭は、使用することが認められている区分所有者が一定の範囲で自由に使用できるものの、規約等で設置物や使用方法が制限されているのが通常である。専用庭の利用方法として、ガーデニングや家庭菜園、椅子やテーブルを設置して食事やリラックスの場、大きい洗濯物や布団の干場などが考えられる。事例ケースの使用細則では、物置等工作物の設置又は築造及び通常の用法以外の使用を禁止しているが、前述の利用方法については特段制限されていない。ただし、禁止されていないと言っても花火やバーベキューといった火気を扱うことは用法以外の使用として禁止事項に該当する場合があるので、事前の確認を要するであろう。
 管理組合が、専用使用権のある区分所有者に対し、規約等で専用庭への物置等の設置を制限することや設置した専用使用権者に撤去を要求することが、権利の濫用に当たるかについて、「規約及び本件各使用細則の定めは、区分所有者がそれぞれ従うべき規範である」と前置きし、「他の区分所有者が同様の規則違反行為を行っていたとしても、設置した区分所有者の専用庭の使用状況は、他の区分所有者の権利を侵害することはなく、非常時の避難に支障を来すことはないことも、権利の濫用の主張の理由として挙げるが、現実の支障が存在しないことは、区分所有者規則行為違反行為が免責される理由とはならない」と、管理組合が、物置を設置した区分所有者に対する撤去要求を容認した裁判例がある(【参照判例①】参照)。
 また、区分所有者が賃貸した部屋に接するベランダに、賃借人が物置を設置したことに対し、賃貸人が撤去を求めた裁判例で、賃借人の専用使用権を認めつつも、「バルコニーは建築構造上躯体の一部であり、管理上も共用部分と考えるのが一般的であるから、居室の居住者の専用使用権が認められるとしても、建物の居住者等の、緊急時の避難を妨げ、もしくは建物自体の維持、管理を妨げ、老朽化の原因となり、あるいは建物の美観を害するような利用は、その性質に照らしても予定されていないもの」とし、「この物置の設置により、物置と床あるいは外壁との隙間に落ち葉等のごみが溜まり、排水の妨げとなるなど建物の老朽化を促す一因ともなりうること、防水工事自体は不可能ではないが、本件物置のような重量の物に対応させるには、より高度の工事が必要となり、賃貸人に予想外の出費を強いることになること、また、外観の点でも、本件建物はオフィス街に立地するので、住宅地以上にバルコニーに物を置かない等の配慮をし、美観を保つことが賃貸物件としての価値の維持に必要であることが認められる」と建物の老朽化、予想外の出費、美観を損ねる等を理由として、賃借人に対し、設置した物置の撤去を命じた裁判例がある(【参照判例②】参照)。
 区分所有マンションの所有者や居住者は、建物等が共有というだけでなく、多くの区分所有者や入居者の共同生活の場であり、管理規約や使用細則に使用方法や制限が明記されているか否かに関わらず、住まい方や使用方法に留意することが肝要である。特に制限が明文化されていれば、他の区分所有者の生活に支障をきたすことがなくても、規約等を遵守することが求められている。媒介業者も、マンション売買において、買主に規約および各使用細則を手交するのみでなく、共同生活を維持し、規律を乱すことのないよう十分な説明と理解を求めることを心掛けたい。

参照条文

 民法第3条(基本原則)
  ・② (略)
   権利の濫用は、これを許さない。
 建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)第1条(建物の区分所有)
   一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。
 同法律(同法)第2条(定義)
   この法律において「区分所有権」とは、前条に規定する建物の部分(第4条第2項の規定により共用部分とされたものを除く。)を目的とする所有権をいう。
   (略)
   この法律において「専有部分」とは、区分所有権の目的たる建物の部分をいう。
   この法律において「共用部分」とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び第4条第2項の規定により共用部分とされた附属の建物をいう。
  ・⑥ (略)
 同法律(同法)第4条(共用部分)
   数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的とならないものとする。
   (略)
 同法律(同法)第6条(区分所有者の権利義務等)
   区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
   (略)
   第1項の規定は、区分所有者以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)に準用する。
   (略)
 同法律(同法)第30条(規約事項)
   建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。
   (略)
   前二項に規定する規約は、専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。
  ・⑤ (略)
 同法律(同法)第31条(規約の設定、変更及び廃止)
   規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議によってする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
   (略)
 同法律(同法)第57条(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
   区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
  ~④ (略)

参照判例①

 東京地裁平成25年3月5日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 本件規約及び本件各使用細則の定めは、区分所有者がそれぞれ従うべき規範であるから、区分所有者A以外の者が同様の規則違反行為を行っていたとしても、区分所有者Aの規則違反行為が免責されるものではない。そして、本件専用庭使用細則〇条の定めは、区分所有者の共同の利益を増進し、良好な住環境を確保することを目的とする本件規約に基づいて定められた使用細則の規定であり、その内容に不合理な点は認められず、これを区分所有者Aに適用することについても、管理組合の理事らの上記規則違反行為の事実を踏まえても、管理組合が区分所有者Aを狙い撃ちにして、区分所有者Aを著しく不平等に扱う目的で行ったとまで認めることはできず、他にこれを認めるには足りる証拠はない。
 区分所有者Aは、区分所有者Aの専用庭の使用状況は、他の区分所有者の権利を侵害することはなく、非常時の避難に支障を来すことはないことも、権利の濫用の主張の理由として挙げるが、区分所有者Aが主張するような現実の支障が存在しないことは、区分所有者Aの規則行為違反行為が免責される理由とはならないものと解される。

参照判例②

 東京地裁平成3年11月19日 判時1420号82頁(要旨)
 マンション等の居室の賃貸借において、構造上、当該目的物たる居室の専用的な利用に供されるバルコニーがこれに接続している場合には、居室のみについて賃貸借契約が締結されたときでも、特に反対の意思表示がない限り、バルコニーについても居室の利用権と同一期限の専用使用権が設定されたと認めるのが相当である。(中略)
 賃貸人は賃借人に対し、賃貸借契約締結の際、これに付随して、本件バルコニーについて黙示的に専用使用権を設定していたと認めるのが相当である。
 しかしながら、バルコニーは建築構造上躯体の一部であり、管理上も共用部分と考えるのが一般的であるから、居室の居住者の専用使用権が認められるとしても、建物の居住者等の、緊急時の避難を妨げ、もしくは建物自体の維持、管理を妨げ、老朽化の原因となり、あるいは建物の美観を害するような利用は、その性質に照らしても予定されていないものと解するのが相当である。
 本件物置は、人の背丈程度の高さを有するものであり、取り外して移動させるには相当な時間と労力が必要であること、さらに、この物置の設置により、物置と床あるいは外壁との隙間に落ち葉等のごみが溜まり、排水の妨げとなるなど建物の老朽化を促す一因ともなりうること、防水工事自体は不可能ではないが、本件物置のような重量の物に対応させるには、より高度の工事が必要となり、賃貸人に予想外の出費を強いることになること、また、外観の点でも、本件建物はオフィス街に立地するので、住宅地以上にバルコニーに物を置かない等の配慮をし、美観を保つことが賃貸物件としての価値の維持に必要であることが認められる。
 そうだとすると、本件物置の設置は、本件バルコニーの性質に照らして通常の利用の範囲を超えているものというべきである。

監修者のコメント

 マンションの管理規約や使用細則等を守らない区分所有者が、しばしば存在するが、これらの者は、自分の身勝手な理屈を立てて、本事例のような「権利の濫用」だとか、最近流行りの「価値観の多様性」などを主張し、独善的見解であることに気づかず、正しい主張だと思っていることが多い。本事例でも物置の設置が「他の入居者の迷惑にならない」と考えているようであるが、正しくなく、たとえ大きくない物置でも、その隣接専用庭の通風、日照に影響を及ぼし、隣人が草花を育てていれば迷惑このうえない。要するに、使用細則等の決まりは、多くのトラブル事例に照らして考えられた合理的な根拠を有するものである。しかし、本事例の区分所有者のような管理規約や使用細則を平気で守らない人間の現出を皆無にすることはできない。
 したがって、このようなトラブルを少しでも減らすために、仲介をする宅建業者に求められることは【回答】の最後に強調されているとおり、媒介に際して、管理規約や使用細則を「よく読んでおくように」と言って手渡しするのではなく、大事な部分は十分に説明し、理解させることである。本事例の買主は媒介業者から十分な説明を受けていたようであるが、もし説明を受けていなければ、「権利の濫用」という理屈でなく、「仲介業者から、資料をもらっただけ」「仲介業者から十分な説明を受けていない」などという理由を根拠としたものと思われる。

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