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2410-R-0281
賃貸の申込書に記載された「申込金が手付金に振り替わる」という文言の有効性

 賃貸の媒介の際に受領する申込金について、「キャンセルしたときは返金できない。」とか、「貸主が承諾した後は手付金に振り替わり、返金できない。」という文言が記載されている申込書が散見される。

事実関係

 当社は不動産の賃貸借の媒介業者であるが、最近の同業者の動きを見ていると、申込書に、キャンセルの場合に申込金を没収する旨の文言を入れているものが散見される。このような没収文言は果して有効なのかどうか、むしろトラブルのもとになるのではないかと思うが、そもそも賃貸借の媒介の段階で、申込みの撤回(キャンセル)に対し、違約金の請求とか申込金の没収というようなことができるのかどうかよくわからない。
 なお、一般的な賃貸借の媒介において申込金を受領する場合は、一旦媒介業者が預り証を発行し、媒介業者の口座に入金した後、後日徴求する借主署名押印済みの賃貸借契約書等の一件書類と併せて敷金や賃料の前払い分を預かり、それと一緒に貸主の口座に振り込む等の方法により処理する。もちろん、敷金や賃料の前払い分についても、一旦は媒介業者が預り証を発行したうえで、後日貸主が発行する預り証や領収証と差し換えることになる。

質 問

1.  賃貸借の媒介の際に受領する申込金は、【事実関係】にあるように、一旦媒介業者が預かったうえで貸主に送金されるが、賃貸借契約の成立については、契約関係の一件書類が媒介業者を経由して貸主に送付され、貸主がその契約書類に署名押印し、その借主保管分が借主宛てに送付された時点で成立すると解されるので(民法第526条)、その契約成立までの間に申込金が貸主に送金されていれば、その申込金は契約の成立時点で、「手付金」ではなく、「賃料の一部」に振り替わると解釈できるが、そのように解釈しても問題ないか。
2.  申込書に、「この申込みを撤回した場合には、申込金は返還できません。ただし、賃貸借契約が成立するまでの間の撤回の場合には、この限りではありません。」と記載してあれば、その申込書は有効な申込書と解釈しても問題ないか。
3.  申込書に、「この申込金は、貸主があなたの申込みを承諾した後は返金できません。」とか、「この申込金は、貸主があなたの申込みを承諾した後は手付金に振り替わりますので、返金できません。」と記載されている場合には、問題ないのか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 原則として問題ない。
 質問2.について ― 原則として問題ない。
 質問3.について ― 問題ないとはいえない。
2.  理 由
について
 当事者間で、申込金は一旦返金するというような合意でもない限り、賃貸借契約が成立すれば、それまでに借主から支払われている申込金は賃料の一部に組み込まれると解釈する方が当事者の意思に合致するし、現に実務においても、そのように扱われているはずである。したがって、売買の場合と異なり、賃貸借では契約の成立時点に申込金が「手付金」に振り替わるというような合意が成立するとは考えられない。
について
 質問1.にあるようなかたちで、真に賃貸借契約が成立しているのであれば、その後の申込みの撤回(キャンセル)というのは、契約成立後の解約申入れにほかならないので、申込金をその場合の「違約金」として申し受ける(没収する)ということは、その旨の合意があり、かつその額が妥当である限り、法的には問題はない。
 ただ、その場合に、たとえば賃貸住宅標準契約書(国土交通省作成)にあるように、借主に貸主に対する1か月前の予告で解約権が留保されているような場合には、借主が即時に解約するということであれば、特段の定めがない限り、その借主が貸主に支払う1か月分の賃料ないし賃料相当額の中に、本件の違約金(申込金)が含まれていると解すべきであろう。
 また、本件の申込みに係る賃貸借契約が始期付の契約で、始期の到来前に契約が成立したというケースであれば、契約は成立しても、その契約の効力はまだ生じていないので、借主は、解約申入れにより貸主が実際に被った損害を賠償するということになろう(民法第415条、第709条)。
について
 前記⑵の場合と同様に、その申込書に書かれている「貸主があなたの申込みを承諾した後は」という文言の意味を、単に「貸主が承諾した後は」ということではなく、「貸主がその承諾の意思表示を借主に発した後は」という意味であるということを正しく理解しておかないと、まだ賃貸借契約が成立していないにもかかわらず、契約関係書類を預かっただけで、あるいは敷金や賃料の前払分を預かっただけで申込金が「手付金」に振り替わるというような誤解をしたり、強弁をするケースがあるということなのである。したがって、真に契約が成立した後のキャンセルであれば、申込金は、当事者間に特別な取り決めがない限り、すでに賃料の一部に組み込まれていると解されるので、前記⑵で説明したような中途解約あるいは始期到来前の解約としての取り扱いになるということである。
 なお、媒介業者が、契約が成立していないにもかかわらず、申込みの撤回に対し、申込金を「手付金」として没収するというような取り扱いをした場合には、宅建業法第47条の2(業務に関する禁止事項)の規定に基づく同法施行規則第16条の11第2号に抵触するほか、第65条第1項の規定に基づいて行政処分の対象にもなると解される。

参照条文

 民法第415条(債務不履行による損害賠償)
   債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
   (略)
 民法第709条(不法行為による損害賠償)
   故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
 宅地建物取引業法第47条の2(業務に関する禁止事項)
   宅地建物取引業者又はその代理人、使用人その他の従業者(以下この条において「宅地建物取引業者等」という。)は、宅地建物取引業に係る契約の締結の勧誘をするに際し、宅地建物取引業者の相手方等に対し、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供する行為をしてはならない。
   宅地建物取引業者等は、宅地建物取引業に係る契約を締結させ、又は宅地建物取引業に係る契約の申込みの撤回若しくは解除を妨げるため、宅地建物取引業者の相手方等を威迫してはならない。
   宅地建物取引業者等は、前2項に定めるもののほか、宅地建物取引業に係る契約の締結に関する行為又は申込みの撤回若しくは解除の妨げに関する行為であつて、第35条第1項第14号イに規定する宅地建物取引業者の相手方等の保護に欠けるものとして国土交通省令・内閣府令で定めるもの及びその他の宅地建物取引業者の相手方等の利益の保護に欠けるものとして国土交通省令で定めるものをしてはならない。
 宅地建物取引業法第65条(指示及び業務の停止)
   国土交通大臣又は都道府県知事は、その免許(第50条の2第1項の認可を含む。次項及び第70条第2項において同じ。)を受けた宅地建物取引業者が次の各号のいずれかに該当する場合又はこの法律の規定若しくは特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律(以下この条において「履行確保法」という。)第11条第1項若しくは第6項、第12条第1項、第13条、第15条第1項若しくは履行確保法第16条において読み替えて準用する履行確保法第7条第1項若しくは第2項若しくは第8条第1項若しくは第2項の規定に違反した場合においては、当該宅地建物取引業者に対して、必要な指示をすることができる。
     業務に関し取引の関係者に損害を与えたとき又は損害を与えるおそれが大であるとき。
     業務に関し取引の公正を害する行為をしたとき又は取引の公正を害するおそれが大であるとき。
     業務に関し他の法令(履行確保法及びこれに基づく命令を除く。)に違反し、宅地建物取引業者として不適当であると認められるとき。
     宅地建物取引士が、第68条又は第68条の2第1項の規定による処分を受けた場合において、宅地建物取引業者の責めに帰すべき理由があるとき。
  ~④ (略)
 同法施行規則第16条の11(法第47条の2第3項の国土交通省令で定める行為)
   法第47条の2第3項の国土交通省令で定める行為は、次に掲げるものとする。
   宅地建物取引業に係る契約の締結の勧誘をするに際し、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をすること。
     当該契約の目的物である宅地又は建物の将来の環境又は交通その他の利便について誤解させるべき断定的判断を提供すること。
     正当な理由なく、当該契約を締結するかどうかを判断するために必要な時間を与えることを拒むこと。
     当該勧誘に先立って宅地建物取引業者の商号又は名称及び当該勧誘を行う者の氏名並びに当該契約の締結について勧誘をする目的である旨を告げずに、勧誘を行うこと。
     宅地建物取引業者の相手方等が当該契約を締結しない旨の意思(当該勧誘を引き続き受けることを希望しない旨の意思を含む。)を表示したにもかかわらず、当該勧誘を継続すること。
     迷惑を覚えさせるような時間に電話し、又は訪問すること。
     深夜又は長時間の勧誘その他の私生活又は業務の平穏を害するような方法によりその者を困惑させること。
   宅地建物取引業者の相手方等が契約の申込みの撤回を行うに際し、既に受領した預り金を返還することを拒むこと。
   宅地建物取引業者の相手方等が手付を放棄して契約の解除を行うに際し、正当な理由なく、当該契約の解除を拒み、又は妨げること。

監修者のコメント

 「申込金」は、一般的に「手付金」ではない。したがって、契約成立前に申込みを撤回した場合は返還されるべきものである。ましてや、キャンセルの場合、貸主ではなく媒介業者がこれを没収するというのは、たとえ契約自由の原則があるとしても合理的根拠を見い出しえない。
 もっとも、貸主が当該借主の申込を承諾し、その意思が発せられあとは、賃貸借成立後のキャンセルであるから、申込金を返還しないという扱いは、回答の論理のとおり認められるであろう。
 なお、媒介業者が、契約が成立していないにもかかわらず、申込みの撤回に対し「手付金」として没収する行為は、ケースによっては宅建業法における禁止事項に該当する可能性がある(宅建業法第47条の2第3項、施行規則第16条の11第2号)。

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