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ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
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2408-B-0336
マンション内での楽器演奏を制限する使用細則の変更は一部の区分所有者の権利に「特別の影響を及ぼすべき」事項に該当するか。

 買主が楽器演奏の制限がない区分マンションを購入したが、影響を受ける買主らの日常的に演奏する区分所有者の同意を得ることなく、組合総会で演奏時間の制限を設ける使用細則が決議された。

事実関係

 当社は、媒介業者である。2年前に区分所有マンションの売買の媒介をした。買主の子は高校生1年生で音楽大学の入学を目指していた。専攻楽器はピアノである。楽器の実技が入学試験科目にあり自宅で演奏練習を必要がある。買主は、マンション購入にあたり、楽器演奏の制限のない物件を探していた。当社は、いくつかのマンションを選び、それぞれの管理規約および使用細則を確認した。また、買主が購入を決めた現在のマンションの管理組合に楽器演奏に関する取り決めや規約等の変更があるかを確認したが、その時点では特に制限を設ける等の議案は確認されなかった。買主にその旨を説明し売買契約を締結した。しかし、1年前から管理組合に楽器演奏の苦情が寄せられたことから、組合の理事会で演奏時間を制限する協議を始めた。楽器演奏をしている入居者は、買主の子以外にも複数いて、中には副業でレストランなどでピアノ演奏している者もいるようだ。
 管理組合の総会に楽器演奏時間を午前8時から午後8時までとする使用細則変更の議案が上程され、過半数の賛成で議決された。細則変更の議案に反対している買主を始めとした楽器演奏をしている入居者は、規約に類する細則の変更であり、決議には4分の3の賛成決議が必要であり、過半数の賛成での決議は無効であると異議を唱えている。さらに、区分所有者に特別の影響を及ぼすときは不利益を受ける演奏する者の承諾を得る必要があるにもかかわらず、制限を設けることについての事前の打診もなかったと総会決議の無効を主張している。

質 問

1.  区分所有法は規約の変更は議決権の4分の3の賛成で決議するとなっているが、規約に定められた規約の一種である使用細則を変更する際の決議は議決権の過半数で可能なのか。
2.  使用細則を変更等する場合、不利益を被る区分所有者の承認を得る必要はないのか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 規約で細則事項の変更を議決権の過半数の賛成で決議することを定めることが可能で、決議は有効である。
 質問2.について ― 使用細則の変更においても、規約の変更と同様に、一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得る必要がある場合がある。
2.  理 由
について
 区分所有マンションは入居者の共同生活の場である。入居者にはそれぞれライフスタイルがあるものの、各入居者が快適な居住環境を確保するためには、具体的な住まい方のルールを定めておくことが重要である。そのルールは、区分所有法に規定されているほか、管理規約に定める規定による。共用部分及び専有部分の通常の用法の具体的内容は使用細則で定めることが多い。使用細則で定めることが考えられる事項としては、動物の飼育やピアノ等の演奏に関する事項等の使用方法も含まれる(マンション標準管理規約コメント第18条関係)。
 管理組合の集会の通常の議事は、法律または規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決することができる(区分所有法第39条)が、規約の設定、変更及び廃止は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数によるとしている(同法第31条第1項前段)。規約の一種である使用細則の決議はどちらによるのであろうか。
 「本件細則が本件規約に基づき定められた附属規程であることは明らかである。ここで、区分所有法上、楽器の演奏可能時間のような専有部分の使用に関する事項を規約で定めることは認められている一方で(区分所有法第30条第1項)、上記事項につき規約によらなければ定めることができない旨を規定した条文は存在しないことからすれば、区分所有法は上記事項をどのような方法により定めるかについては区分所有者の団体の私的自治に委ねていると解すべきである。そうすると、区分所有法は、本件のように、規約に基づいて定められた細則により上記事項を定めることについても許容しているというべきである。そして、本件細則は規約そのものではなく、本件規約上も本件細則の変更につき決議要件を加重する規定は存在しないことが認められるから、本件総会決議の要件は出席組合員の過半数で足りる」と楽器演奏の制限については規約で定めることも、管理組合の私的自治の観点から細則で定めることができるとした裁判例がある。細則は規約そのものでなく決議要件を特段規約で定めていない限り過半数の賛成で変更が可能で、決議の有効性を認めている(【参照判例①】参照)。
について
 区分所有法第31条1項後段は、区分所有者間の利害を調整するため、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならないと定めている。裁判例で、特別の影響を及ぼすべきときを、「規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうもの」として、「本件のように、直接に規約の設定、変更等によることなく、規約の定めに基づき、集会決議により細則の変更をもって専有部分の楽器の演奏可能時間が制限された場合においては、同法第31条第1項後段の規定を類推適用して区分所有者間の利害の調整を図るのが相当である」とした最高裁判例(【参照判例②】参照)を引用し、使用細則の変更についても、同法同条同項後段を類推適用して、「楽器の演奏時間に関し何らかのルールを策定すること自体の必要性は認められるものの、楽器の演奏可能時間を一律に午前10時から午後8時までと定める本件総会決議に合理性があるとはいえず、本件総会決議により決議に反対の区分所有者が受ける不利益も大きいといえる。その不利益の程度は同区分所有者の受忍すべき限度を超えるというべきである。したがって、本件総会決議は同区分所有者に『特別の影響を及ぼすべきとき』に当たるというべきであり、同区分所有者の承諾を得なければならない。しかしながら、本件においては本件総会決議について同区分所有者の承諾を得ていないことは明らかであるから、本件総会決議は無効であるといわざるを得ない」と、不利益を受ける区分所有者の同意を得ていない細則の変更決議を無効と判示したものがある(【参照判例①】参照)。

参照条文

 建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)第30条(規約事項)
   建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。
   一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものは、区分所有者全員の規約に定めがある場合を除いて、これを共用すべき区分所有者の規約で定めることができる。
   前二項に規定する規約は、専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。
  ・⑤ (略)
 同法律(同法)第31条(規約の設定、変更及び廃止)
   規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議によってする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
   (略)
 同法律(同法)第39条(議事)
   集会の議事は、この法律又は規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決する。
   (略)
 マンション標準管理規約(国土交通省公表)第18条(使用細則)
   対象物件の使用については、別に使用細則を定めるものとする。
 マンション標準管理規約コメント第18条関係
   使用細則で定めることが考えられる事項としては、動物の飼育やピアノ等の演奏に関する事項等専有部分の使用方法に関する規制や、駐車場、倉庫等の使用方法、使用料、置き配を認める際のルール等敷地、共用部分の使用方法や対価等に関する事項等が挙げられ、このうち専有部分の使用に関するものは、その基本的な事項は規約で定めるべき事項である。また、マンション内における感染症の感染拡大のおそれが高いと認められた場合において、使用細則を根拠として、居住者による共用部分等の使用を一時的に停止・制限することは可能であると考えられる。なお、使用細則を定める方法としては、これらの事項を一つの使用細則として定める方法と事項ごとに個別の細則として定める方法とがある。
   (略)

参照判例①

 東京地裁令和2年6月2日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 本件細則が本件規約に基づき定められた附属規程であることは明らかである。ここで、区分所有法上、楽器の演奏可能時間のような専有部分の使用に関する事項を規約で定めることは認められている一方で(区分所有法30条1項)、上記事項につき規約によらなければ定めることができない旨を規定した条文は存在しないことからすれば、区分所有法は上記事項をどのような方法により定めるかについては区分所有者の団体の私的自治に委ねていると解すべきである。そうすると、区分所有法は、本件のように、規約に基づいて定められた細則により上記事項を定めることについても許容しているというべきである。そして、本件細則は規約そのものではなく、本件規約上も本件細則の変更につき決議要件を加重する規定は存在しないことが認められるから、本件総会決議の要件は出席組合員の過半数で足りるというべきである。したがって、本件総会決議は区分所有法31条前段に違反するものではなく、決議に反対の区分所有者の主張には理由がない。(中略)
 区分所有法31条1項後段は、区分所有者間の利害を調整するため、「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」と定めているところ、上記「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される。そして、本件のように、直接に規約の設定、変更等によることなく、規約の定めに基づき、集会決議により細則の変更をもって専有部分の楽器の演奏可能時間が制限された場合においては、同法31条1項後段の規定を類推適用して区分所有者間の利害の調整を図るのが相当である(【参照判例②】参照)。(中略)
 楽器の演奏可能時間が午後8時までに制限されると原告にとっては平日の演奏が大幅に制約される結果となると認められること、一般に、楽器の演奏の上達のためには日々の練習が重要であることにも鑑みれば、本件総会決議によって原告らの受ける不利益は大きいというべきである。
 そうすると、本件においては、楽器の演奏時間に関し何らかのルールを策定すること自体の必要性は認められるものの、楽器の演奏可能時間を一律に午前10時から午後8時までと定める本件総会決議に合理性があるとはいえず、本件総会決議により原告らが受ける不利益も大きいといえる。そして、これまでに述べたところからすれば、その不利益の程度は原告の受忍すべき限度を超えるというべきである。したがって、本件総会決議は原告に「特別の影響を及ぼすべきとき」に当たるというべきであり、原告の承諾を得なければならない(区分所有法第31条第1項後段類推適用)。しかしながら、本件においては本件総会決議について原告の承諾を得ていないことは明らかであるから、本件総会決議は無効であるといわざるを得ない。

参照判例②

 最高裁平成10年10月30日 判タ991号288頁(要旨)
 直接に規約の設定、変更等によることなく、規約の定めに基づき、集会決議により管理費等に関する細則の制定をもって使用料が増額された場合においては、区分所有法第31条一項後段の規定を類推適用して区分所有者間の利害の調整を図るのが相当である。

監修者のコメント

 規約の設定・変更について、その影響を受ける区分所有者の承諾が必要か否かの問題は、大変難しい問題である。なぜなら、承諾の要否の基準である「特別の影響を及ぼすべきとき」という概念自体、極めて抽象的であって、人の価値観や生活感によって、さまざまだからである。その概念を巡って比較的有名な事案は、犬猫などのペット飼育に関し、それを禁止する規約改正に当たって現にペットを飼っている区分所有者の承諾が必要かどうかの問題である。いくつかの裁判例では、マンションにおける動物の飼育は、一般に他の区分所有者に有形無形の影響を及ぼす行為であり、これを一律に禁止する規約改正も無効とは言えないという判断が主流である(代表例:東京高裁平成6年8月4日判決)。これらの裁判例も、その判断基準は、規約設定・改正の必要性と影響の及ぶ区分所有者の不利益との比較衡量であって、それまで家族同様に可愛がっていたペットを飼えなくなるという不利益という後者より、規約改正の必要性という前者を重視した結果である。したがって、同じ動物でも盲導犬や介護犬の場合は、生活に不可欠であるということから反対の結論になる。このように、その比較衡量は具体的な事案ごとに検討しなければならない。
 本件の回答例にある参照判例の結論は、当該規約(細則)の変更には楽器演奏をする区分所有者の承諾が必要としているが、それは「楽器」のいかんに関わらず「一律に午前10時から午後8時まで」と決めてしまっているからと解せられる。その判決でも「楽器の演奏時間に関し、何らかのルールを策定すること自体の必要性は認められる」と言っているように、楽器の演奏を規約や使用細則で禁止できないと早合点してはならない。同じ楽器でもピアノとハーモニカでは他の区分所有者への迷惑の程度は異なるし、またトランペットと篠笛でも明らかに異なる。そして、演奏を制限する時間を午後9時から午前6時までとする場合は、おそらく合理的で「特別の影響を及ぼすとき」には当たらないとされるであろう。要するに、キメ細かな使用細則が検討されなければならないと思われる。

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