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2408-R-0280
事務所の賃借人である法人が株式を譲渡した場合、賃貸人の承諾を得なければ賃借権の無断譲渡になるか。

 管理しているビルの賃借人の法人が株式を全部譲渡し、経営者のみならず役員を含む全従業員が入れ替わるという。事務所も新法人が借主として継続して賃借する。

事実関係

 当社は、賃貸借の媒介及び管理会社である。当社が事務所の賃貸借の媒介をした長年賃借している法人から、次年度に第三者に所有株式の全部を譲渡し、役員、従業員ともに入れ替わると通知があった。賃借している法人は、小規模の輸入代理業者である。株式を譲渡する理由は、株式を所有している代表者が高齢になったものの、後継者がいないためである。譲渡先は、同業の法人であるが、好条件で経営の引継ぎができると判断したようだ。株式は、その法人の代表者に譲渡し、使用している事務所の賃貸借契約も引き継がれると言っている。
 賃貸人であるビルオーナーに報告したところ、賃貸人は、株式から役員及び従業員にいたるまで入れ代わるのでは、賃貸借契約の当事者が変更になるのと同様であり、賃借権(賃貸借契約)の譲渡は認めないと主張している。賃貸人は、法人賃借人の入居の際には、代表者と面談し、法人の業態や過去の実績、代表者の人間性等を勘案して賃貸するかを判断しており、株式を第三者に譲渡し、賃借権が引き継がれた場合、賃借人としてふさわしいかの判断ができず、賃料滞納や使用方法に問題が生じないかなどの不安を払拭できないとも言っている。

質 問

1.  賃借人の法人が株式譲渡により経営権が第三者に交代し、賃貸人の同意なしに賃借権が引き継がれるのは賃借権の無断譲渡になるのではないか。
2.  経営権の交代により賃借権が引き継がれる場合に、賃貸人から賃貸借契約を解除する方法があるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 株式譲渡により経営権が交代した場合でも、法人格は同一性があるため賃借権に影響がなく、賃借権の譲渡に該当しない。
 質問2.について ― 賃貸借契約で法人賃借人の株式譲渡や役員の実質的な経営者変更があったときは、契約解除をすることができる旨の特約があれば、賃貸人からの解除が可能である。
2.  理 由
⑵について
 賃貸借契約において、賃借人は、賃貸人の承諾なしに賃借権の譲渡又は賃借物を転貸することができず、違反したときは、賃貸人は契約解除ができることになっている(民法第612条)。賃借人である法人が、株式を第三者に譲渡し株主である経営者が交代し、役員を含む従業者もすべて入れ替わったときに、賃借権を引き継ぐことが賃借権の譲渡に当たるか否かが問題になる。賃借権の譲渡になるのであれば、賃借権譲渡は賃貸人の同意がなければ無断譲渡となり賃貸人から契約解除することが可能である。
 最高裁は「賃借人が法人である場合において、法人の構成員や機関に変動が生じても、法人格の同一性が失われるものではないから、賃借権の譲渡には当たらないと解すべき」と、法人格そのものは変わらず、法人格の同一性が保たれている限り、賃借権を引き継ぐことは賃借権の譲渡に当たらないとしている(【参照判例】参照)。上場会社や未上場会社等の大規模会社の株主や役員に大幅な変更があっても、法人としての変化があるとは認識はせず、その法人の賃借権に影響を及ぼすとは考えないであろう。反面、小規模会社の場合は、経営者等の変更は、業績に与える影響が大きい場合があり、新経営者の業績維持や賃料不払い等の賃貸人の不安や懸念はもっともと言える。しかし、経営権の変更による賃貸借契約の継続が、賃借権の譲渡に該当しないことについて、「特定の個人が経営の実権を握り、社員や役員が右個人及びその家族、知人等によって占められているような小規模で閉鎖的な有限会社が賃借人である場合についても基本的に変わるところはない」と法人の規模で法人格の区別はできず、同一性の法人格が維持されていれば、賃借権の譲渡でないと判示している(【参照判例】参照)。
 しかしながら、「賃借人に有限会社としての活動の実体がなく、その法人格が全く形骸化しているような場合はともかくとして」と例外があることを示唆し、「有限会社の経営者の交代の事実が、賃貸借契約における賃貸人・賃借人間の信頼関係を悪化させるものと評価され、その他の事情と相まって賃貸借契約解除の事由となり得るかどうかは、右事実が賃借権の譲渡に当たるかどうかとは別の問題である」(【参照判例】参照)と経営者交代が信頼関係の破壊が認められれば、賃貸人からの契約解除が容認されるとしているが、信頼関係の破壊は、賃借権譲渡の議論とは異なる一般的な法理である。
 一方、「会社との間で賃貸借契約を締結する際に、賃借人が賃貸人の承諾を得ずに役員や資本構成を変動させたときは契約を解除することができる旨の特約をするなどの措置を講ずることができる」と当初の賃貸借契約で経営者等の変動があった際に、賃貸人から契約解除できる特約を妨げるものでないと判示している(【参照判例】参照)。

参照条文

 民法第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
   賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
   賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。

参照判例

 最高裁平成8年10月14日 判タ925号176頁(要旨) 
 民法第612条は、賃借人は賃貸人の承諾がなければ賃借権を譲渡することができず、賃借人がこれに反して賃借物を第三者に使用又は収益させたときは、賃貸人は賃貸借契約を解除することができる旨を定めている。右にいう賃借権の譲渡が賃借人から第三者への賃借権の譲渡を意味することは同条の文理からも明らかであるところ、賃借人が法人である場合において、右法人の構成員や機関に変動が生じても、法人格の同一性が失われるものではないから、賃借権の譲渡には当たらないと解すべきである。そして、右の理は、特定の個人が経営の実権を握り、社員や役員が右個人及びその家族、知人等によって占められているような小規模で閉鎖的な有限会社が賃借人である場合についても基本的に変わるところはないのであり、右のような小規模で閉鎖的な有限会社において、持分の譲渡及び役員の交代により実質的な経営者が交代しても、同条にいう賃借権の譲渡には当たらないと解するのが相当である。しかしながら、、そのような事情が認められないのに右のような経営者の交代の事実をとらえて賃借権の譲渡に当たるとすることは、賃借人の法人格を無視するものであり、正当ではない。賃借人である有限会社の経営者の交代の事実が、賃貸借契約における賃貸人・賃借人間の信頼関係を悪化させるものと評価され、その他の事情と相まって賃貸借契約解除の事由となり得るかどうかは、右事実が賃借権の譲渡に当たるかどうかとは別の問題である。賃貸人としては、有限会社の経営者である個人の資力、信用や同人との信頼関係を重視する場合には、右個人を相手方として賃貸借契約を締結し、あるいは、会社との間で賃貸借契約を締結する際に、賃借人が賃貸人の承諾を得ずに役員や資本構成を変動させたときは契約を解除することができる旨の特約をするなどの措置を講ずることができるのであり、賃借権の譲渡の有無につき右のように解しても、賃貸人の利益を不当に損なうものとはいえない。

監修者のコメント

 本相談ケースの【回答】及び【理由】に付け加えるべきことはない。経営者の変更が賃貸人に不安、懸念をもたらすこともあり得るが、経営者が死亡して、その子が経営権を引き継いだからという一事で賃貸借契約を解除することはできないはずである。
 なお、どうしても本ケースの賃貸人のような心配を払拭するためには、参照判例の言うように会社と賃貸借契約を締結する際に、賃借人会社が役員や資本構成を変動するときは、賃貸人の承諾を要する旨と無承諾で行ったときは契約を解除する旨の特約をする方法があり、その特約は無効ではない。

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