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ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
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また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

2406-B-0334
土地賃貸借契約に無条件譲渡承諾が約定されている場合、借地権付建物売買における地主の介入権行使の可否。

 土地賃貸人の無条件に譲渡を承諾する特約があるにもかかわらず、賃貸人は借地人の借地権付建物の譲渡を認めないという。借地人は裁判所に代諾の申立てを行ったが、賃貸人は自らが買取る要求を申立てた。

事実関係

 当社は、媒介業者である。自宅建物を所有している借地権者の借地人から、借地権付建物の売却の媒介を依頼された。借地権設定者である土地の貸主と借地権者である借地人との間で締結した土地賃貸借契約の借地期間は30年であるが、現時点で残存期間は10年である。借地人は、借地権付建物を売却して出身地に戻ることにしている。土地賃貸借契約書には、借地人が借地権を譲渡する場合、賃貸人は条件を付けないで承諾する旨の特約が付されている。借地人は、挨拶がてら賃貸人に自宅を売却する旨を伝えたところ、賃貸人から借地権を第三者に譲渡することを拒絶された。賃貸人から譲渡を断られたため、借地人は、裁判所に対し賃貸人の承諾に代わる許可を求める申立てをした。賃借人の申立て期間中に、賃貸人は、裁判所に借地人から借地権と建物を自らに譲渡するよう要求した。借地人は、賃貸借契約書に無条件の譲渡承諾を約定しているにもかかわらず、賃貸人自らが譲受けするよう申立てたことに憤慨している。
 当社は、買主もほぼ決まっていることもあり、賃貸人に対し、借地人が予定している相場の承諾料を提示し、借地人が借地権付建物を第三者へ譲渡することを認めるよう交渉したが、賃貸人は、借地人が借地権を譲渡する場合、第三者に譲渡することを認める裁判所の許可決定に優先して、賃貸人自らに譲渡するよう要求できる、いわゆる介入権があると主張して第三者への譲渡は承諾しないと明言している。

質 問

1.  土地賃貸契約書に、賃貸人の無条件譲渡承諾特約が約定されている場合でも、借地人は賃貸人の譲渡承諾または裁判所の許可を得る必要があるか。
2.  無条件承諾特約が約定されている場合、賃貸人に自らが借地権を買取ることを要求する権利があるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 無条件譲渡承諾特約が約定されていれば、借地人は賃貸人の承諾を得ることなく、第三者への譲渡ができる。また、特段の事情がない限り、裁判所は賃貸人の介入権を認めることはない。
 質問2.について ― 無条件譲渡承諾特約が約定されているときは、貸主には借地権を自らが買取ることを要求する権利はないと解する。
2.  理 由
⑵について
 建物の所有を目的とする土地の賃借権を借地権と言い、借地権者である借地人は借地借家法により様々な保護を受けることになる。借地上に建物を建築し、借地人の都合により借地権及び建物を第三者に譲渡または転貸することが可能である。ただし、第三者に譲渡及び転貸するときは、借地権設定者である賃貸人の承諾を得る必要があり、加えて、法律上の規定はないが、借地人は、賃貸人に承諾料を支払うのが慣習となっている。賃貸人の承諾を得ずに借地人が借地権の譲渡等をして第三者に使用収益させたときは、賃貸人は、契約の解除ができる(民法第612条)。賃貸人が、譲渡の承諾を拒否した場合、借地人は賃貸人の承諾に代わる許可を裁判所に求める申立て(代諾許可申立てともいう)をすることができる。裁判所は、借地人の譲渡承諾申立てに応じ、特段の事情がなければ、賃貸人の承諾に代わる許可を与えることができる(借地借家法第19条第1項)。土地賃貸借は、賃貸人が賃料収入を得ることが目的であり、新借地人の賃料支払い能力や属性、承諾料等に問題がなければ、裁判所が許可しない理由はない。なお、許可後、借地人が建物を6か月以内に譲渡しないときは代諾の効力を失う(同法第59条)ので注意が必要である。
 賃貸人が、借地人の譲渡を認めない理由は、新借地人の属性等以外に、自らが借地権を買い取る希望のあることが多い。土地の第三者への賃貸の解消である。自らまたは家族等が使用したり、より収益性を高めるための有効活用を目論んでいることもある。賃貸人は、借地人が第三者への譲渡の承諾を求めてきたときに、自らが買取ることを交渉することもできるが、価格面等で双方が折り合わない場合は、借地人は裁判所に賃貸人の承諾に代わる許可を求めることになるが、裁判所が借地人の譲渡を許可すると、賃貸人の自らの利活用が妨げられてしまう。賃貸人自らが使用したい等の場合に、賃貸人が自ら買取ることを申立てることのできる権利が認められている。この権利を「介入権」という。賃貸人から介入権の申立てがあったときは、裁判所は、相当の対価を定めて、借地人が賃貸人に譲渡することを命ずることができる(同法第19条第3項)。
 相談ケースのように、土地の賃貸借契約時に、賃貸人は借地人が第三者に借地権付建物を譲渡することを無条件に認めていたにもかかわらず、その後の賃貸人の事情等により第三者への譲渡を拒絶することが認められるのであろうか。裁判例では、借地権譲渡について「建物所有者である借地権者は、借地権の譲渡又は借地の転貸が制限されると、事実上、自己が所有し重要な財産である建物及び借地権の譲渡が不可能になり、他方、賃貸人にとって、借地権の譲渡又は借地の転貸が行われたからといって、必ずしもそれが不利益になるとは限らない」と借地権譲渡は賃貸人の不利益にはならず、そのため裁判所の代諾制度を「譲渡又は転貸が賃貸人に不利となるおそれがないときは、裁判所が賃貸人の承諾に代わる許可を与え得ることとしたもの」とし、介入権については、「借地人の無断譲渡が解除原因となる(賃貸人は第三者への借地権の譲渡又は借地の転貸を阻止し得る)ことから、賃貸人がこれに対抗して第三者への借地権の譲渡又は借地の転貸を阻止し、自己に対し優先して建物の譲渡及び借地権の譲渡又は借地の転貸をするよう求めることができる」ようにしたものであると意義を示している。そして、「あらかじめ借地権の譲渡又は借地の転貸についての承諾がされ、当該譲渡又は転貸が民法612条によって制限されず、賃貸借契約の解除原因ともならないような場合には、賃貸人は、第三者への賃借権の譲渡又は借地の転貸を阻止することはできず、借地借家法19条1項の申立てに対する対抗手段を認める必要はない」と、賃貸人の介入権を認めなかった(【参照判例】参照)。
 媒介業者は、借地権付建物の売却依頼を受けるときには、土地賃貸借契約書に譲渡承諾に関する特約の有無の確認が必須であり、特段の約定がなければ賃貸人に承諾を求めることになる。賃貸人が譲渡承諾を認めないときは、借地人は裁判所に代諾の申立てをすることになるが、賃貸人の介入権を想定しておく必要がある。賃貸人の無条件譲渡承諾が約定されていれば、譲渡承諾を認めていることであり、改めて賃貸人の承諾を得ることなく売買の媒介を進めることが可能である。

参照条文

 民法第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
   賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
   賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
 借地借家法第19条(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可)
   借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。
   裁判所は、前項の裁判をするには、賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならない。
   第1項の申立てがあった場合において、裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡又は転貸を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は、同項の規定にかかわらず、相当の対価及び転貸の条件を定めて、これを命ずることができる。この裁判においては、当事者双方に対し、その義務を同時に履行すべきことを命ずることができる。
  ~⑦ (略)
 同法第59条(譲渡又は転貸の許可の裁判の失効)
   第19条第1項(同条第7項において準用する場合を含む。)の規定による裁判は、その効力を生じた後6月以内に借地権者が建物の譲渡をしないときは、その効力を失う。ただし、この期間は、その裁判において伸長し、又は短縮することができる。

参照判例

 東京高裁平成30年10月24日 判タ1464号40頁(要旨) 
 民法612条によれば、賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、賃借権の譲渡又は賃借物の転貸をすることができず、賃借人がこれに違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、賃貸借契約の解除をすることができるところ、建物の所有を目的とする土地の賃貸借の場合には、建物所有者である借地権者は、借地権の譲渡又は借地の転貸が制限されると、事実上、自己が所有し重要な財産である建物及び借地権の譲渡が不可能になり、他方、賃貸人にとって、借地権の譲渡又は借地の転貸が行われたからといって、必ずしもそれが不利益になるとは限らない。そこで、借地借家法19条1項は、賃貸人が借地権の譲渡又は借地の転貸を承諾せず、当該譲渡又は転貸に基づき第三者に借地の使用又は収益をさせることが賃貸借契約の解除原因になる場合であっても、当該譲渡又は転貸が賃貸人に不利となるおそれがないときは、裁判所が賃貸人の承諾に代わる許可を与え得ることとしたものである。
 これに対し、同条3項は、上記のとおり、本来は賃貸人の承諾のない借地権の譲渡又は借地の転貸が禁止され、これに基づいて第三者に借地の使用又は収益をさせることが賃貸借契約の解除原因となる(賃貸人は第三者への借地権の譲渡又は借地の転貸を阻止し得る)にもかかわらず、賃貸人の承諾のない借地権の譲渡又は借地の転貸について同条1項の申立てがされた場合に、賃貸人がこれに対抗して第三者への借地権の譲渡又は借地の転貸を阻止し、自己に対し優先して建物の譲渡及び借地権の譲渡又は借地の転貸をするよう求めることができるとしたものである。このように、同条3項の申立ては、賃貸人が第三者への借地権の譲渡又は借地の転貸を阻止し得ることを前提とした対抗手段として認められたものであるから、あらかじめ借地権の譲渡又は借地の転貸についての承諾がされ、当該譲渡又は転貸が民法612条によって制限されず、賃貸借契約の解除原因ともならないような場合には、賃貸人は、第三者への賃借権の譲渡又は借地の転貸を阻止することはできず、借地借家法19条1項の申立てに対する対抗手段を認める必要はない。したがって、上記のような場合には、同条3項の申立ては、形式的要件を備えていても、棄却されると解するのが相当である。
 そもそも賃貸人の承諾がある場合は、同条1項の「借地権設定者がその借地権の譲渡又は転貸を承諾しないときは」との要件を欠くのであるから、同項の申立ての利益がなく、同項の申立てを却下すべき(その場合、当然同条3項の申立ても申立ての利益を失うから却下することになる。)ともいえるが、承諾の存在に争いがあるなどの理由で賃借人が同条1項の申立てをする場合には、権利関係を明確にし紛争を防止するために申立ては適法と解されているにすぎないことからすれば、賃貸人の承諾が認められる場合は、同条3項の申立てを認める余地はないというべきである。
 これを本件についてみると、本件借地権には本件無条件承諾特約が付され、賃貸人は、相手方に対し、あらかじめ本件借地権の譲渡又は本件土地の転貸につき無条件の承諾をしているのであって、本件賃借権の譲渡は民法612条によって制限されず、本件賃貸借契約の解除原因にもならないから、借地借家法19条3項に基づく賃貸人の申立ては、棄却されることになる。

監修者のコメント

 賃貸人が借地権の譲渡又は賃借物の転貸について、あらかじめ無条件での承諾を約しているときは、介入権の行使もできないとする本件相談の回答の解説及び参照判例の考え方は、おそらく異論を見ないであろう。
 この相談ケースの賃貸人のように、自ら合意したことを後日平気で反故にするような主張をする例がしばしば見受けられる。そのような中には何ら悪意はなく、素直な感情に基づくものもある。したがって、違法とか不当な合意でない約定を反故にする行為は、それにより相手方に無用な出費を余儀なくさせれば、債務不履行ないし不法行為を構成し、損害賠償責任が発生する旨を教示し、初期の段階において説得することが望ましい。

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