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また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

2406-R-0278
定期借家契約の満了後も賃貸人と賃借人との間で賃料を授受していた場合、賃貸人は賃借人に明け渡しを求めることができるか。

 定期借家契約期間が満期になったが、賃借人は退去せず、継続して店舗を使用している。賃貸人は建物使用料として従前の賃料相当額を請求し、2年間受領している。

事実関係

 当社は、賃貸の媒介業者である。ビルオーナーから当社が媒介した定期建物賃貸借契約(以下「定期借家契約」という。)の店舗賃借人を退去させたいと相談があった。契約は期間5年の定期借家契約で7年前に締結した。賃貸人は期間満了6か月前に内容証明郵便で定期借家契約が終了することを賃借人に対し通知した。同時に賃貸人は再契約の意向がある旨を賃借人に伝えた。しかし、賃借人からの回答がなく、賃貸人は、再度、再契約する意思があるかを確認したものの、賃借人からは再契約を締結するか退去するかの明確な回答がないまま期間満了後も2年間継続して入居している。賃借人が店舗を占有しているため、賃貸人は、賃借人に使用料として従前の賃料相当額の支払いを請求し、毎月受領している。賃貸人は、定期借家契約の終了通知をしており、契約は終了していると認識している。
 賃借人は入居中、店舗入口前に看板を置くなど他のテナントに迷惑をかける行為をすることもあったが、賃貸人の看板撤去を申し入れに賃借人は謝罪の上撤去した。賃貸人は、今後も同じような違反行為があるのではないかと懸念しており、賃借人を退去させたいと考えている。

質 問

 定期借家契約は期間満了で終了しており、賃貸人は、賃借人を退去させることができるか。

回 答

1.  結 論
 定期借家契約は終了しているものの、長期間にわたり賃料が授受されているとすれば、黙示的に新たに普通賃貸借契約が締結されていると解する場合がある。
2.  理 由
 定期借家契約は、契約締結までに賃貸人が賃借人に対し、契約の更新がなく期間の満了によって賃貸借が終了する旨を記載した書面を交付して説明することにより成立する(借地借家法第38条第3項)。また、契約の終了は、契約期間が1年以上の契約のときは、期間満了の1年前から6か月前までの間に賃貸人は賃借人に対して期間満了により賃貸借が終了する旨の通知(以下、「終了通知」という。)をする必要がある(同法第38条第6項)。通知をしないときは、契約の終了を賃借人に対抗できない。通知期間経過後に通知をした場合、通知後6か月間は賃借人の明渡が猶予される。しかし、相談ケースは、賃貸人は、契約の終了を通知すると同時に、再契約をする意思の有無を問い質していたが、賃借人からの明確な回答を得られなかった。結論が確認できないままに、賃貸人は、名目はともかく、従前の賃料相当額を賃借人に請求し、賃借人が支払った賃料相当の金銭を2年間にわたり受領している。
 裁判例では、「借地借家法38条1項は、定期借家契約において、借地借家法第26条に基づく更新がないこととする旨の定めを置くことできる旨規定するにとどまり、民法第619条に基づく新たな賃貸借契約の成立(賃貸借の更新の推定)を排除していない」と解釈し、賃貸人は、賃借人の使用継続に異議もなく、賃料を受領しているような場合は、定期借家契約は終了しているが、「黙示的に新たな普通建物賃貸借契約が締結されたものと解す」と判示している。つまり、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する更新の要素を援用している。さらに、賃料を長期にわたって賃貸人が受領している場合、定期借家契約の終了通知をしたとしても、「賃貸人がいつでも明渡請求できるとすることは、建物を使用継続する賃借人の地位をいたずらに不安定にするものであって、定期借家制度がそのような運用を予定しているとは解し難い」と判断している(【参照判例①】参照)。
 黙示的な普通賃貸借契約が成立したとみなされたときの賃貸借契約は、期間に関しての合意をしていないことから、期間の定めのない賃貸借契約となり、賃貸人の契約の解約を申入れは、6か月前までに通知することにより解約が可能(同法第26条)となるが、正当事由が必要である(同法第28条)。ちなみに、賃借人からの解約は申入れ後3か月に契約は終了する(民法第617条)。
 なお、定期借家契約が期間満了となり、再契約の合意は得ていたが、契約条件が折り合わず、再契約の調印ができなかったが2年間にわたり従前の賃料が授受されていた相談ケースと同様の裁判例において、「定期建物賃貸借契約は,契約の更新はなく,期間の満了とともに契約が確定的に終了することを内容とする契約であるから,その性質上,黙示の更新を認めることはできず,また,黙示の更新によって,同契約が普通建物賃貸借契約に転換することを肯定することはできないものと解するのが相当である」と黙示的な更新も普通賃貸借契約への転換を認めないとする前述の裁判例の判断と一見真逆の裁判例がある(【参照判例②】参照)。しかし、これは、終了通知なく契約期間が満了したからといって直ちに黙示の更新が認められるわけではないというものであって参照判例①と何ら矛盾するものではない。
 賃貸人、賃借人の間で、契約の終了と継続しているとの争いや見解の相違が生じた場合、媒介業者が契約継続や解約成立の判断について相談を受けても軽々に結論を出すべきでない。契約に至った経緯や定期借家契約の成立および終了通知の正当性、当事者の事情等を勘案して裁判所が判断することとなる。

参照条文

 民法第601条(賃貸借)
   賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
 民法第617条(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ)
   当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。
     (略)
     建物の賃貸借 3箇月
     (略)
   (略)
 同法第619条(賃貸借の更新の推定等)
   賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第617条の規定により解約の申入れをすることができる。
 借地借家法第26条(建物賃貸借契約の更新等)
   建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
   前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とする。
   (略)
 同法第27条(解約による建物賃貸借の終了)
   建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から6月を経過することによって終了する。
   前条第2項及び第3項の規定は、建物の賃貸借が解約の申入れによって終了した場合に準用する。
 同法第28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
   建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
 同法第38条(定期建物賃貸借)
   期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第30条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第29条第1項の規定を適用しない。
   (略)
   第1項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。
   (略)
   建物の賃貸人が第3項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。
   第1項の規定による建物の賃貸借において、期間が1年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の1年前から6月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から6月を経過した後は、この限りでない。
  〜⑨ (略)

参照判例①

 東京地裁平成29年11月22日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 賃貸人は、賃借人に対し、本件定期借家契約の賃貸期間満了の1年前から6か月前までの間である平成〇〇年〇月〇〇日に本件通知をしており、これによって、本件定期借家契約は平成〇〇年〇月〇〇日をもって期間満了により終了したというべきである。
 借地借家法第38条第1項は、定期借家契約において、借地借家法第26条に基づく更新がないこととする旨の定めを置くことができる旨規定するにとどまり、民法第619条に基づく新たな賃貸借契約の成立を排除していない。そして、定期借家契約の終了通知をした場合において、賃貸人がいつでも明渡請求できるとすることは、建物を使用継続する賃借人の地位をいたずらに不安定にするものであって、定期借家制度がそのような運用を予定しているとは解し難い。以上に照らし、期間満了後も賃借人が建物の使用を継続し、賃貸人も異議なく賃料を受領しているような場合には、黙示的に新たな普通建物賃貸借契約が締結されたものと解すべきである。

参照判例②

 東京地裁平成22年10月7日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 定期建物賃貸借契約は、契約の更新はなく、期間の満了とともに契約が確定的に終了することを内容とする契約であるから、その性質上、黙示の更新を認めることはできず、また、黙示の更新によって、同契約が普通建物賃貸借契約に転換することを肯定することはできないものと解するのが相当である。

監修者のコメント

 定期借家契約において、期間満了の1年前から6か月前までの終了通知を出し忘れて期間満了の時期が到来してしまった場合については、期間満了時に普通借家契約に転換するという極めて少数の学説があるが、一般的ではない。その場合でも、直ちに通知をすれば通知到達後6か月を経過することにより定期借家契約の終了を対抗できるというのが多くの見解である。ただ、だからと言って、期間満了後、かなり経ってから、終了通知を出して、「ハイ終わりました」ということを認めたのでは、参照判例①が言うように、賃借人に酷である。そこで、期間満了後、一定の期間を経過したときは、黙示的に普通借家契約が締結されたものと解すべきという裁判例①の解釈が登場し、今のところこれに反する裁判例はない。では、その「一定期間」というのはどれくらいの長さをいうのかが問題であるが、これはその後の当事者の接触度、賃料の支払状況、賃貸人の言動その他の事情を総合してケースバイケースで判断しなければならない。
 本相談ケースは、期間満了後2年間も賃料を請求し、受領していたというのであるから、その結論に異論はないと解される。

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