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2404-R-0276
建物賃貸借の更新時に賃借人が更新事務手数料を支払う約定における法定更新の場合の支払いの要否

 賃貸人の賃貸借契約が期間満了になったが、賃借人と合意更新できず法定更新となった。賃貸借契約書に法定更新の場合でも賃借人は更新事務手数料を支払う約定になっているが、賃借人は支払いを拒否している。

事実関係

 当社は、宅建業者である。売買及び賃貸借の媒介業務に加え、当社所有物件の賃貸も行っている。この度、当社所有の賃貸マンションの契約期間が満期2か月前となったので、賃借人に対し賃貸借契約更新の案内文と更新契約書案を郵送で送った。事前に賃借人に賃料変更(値上げ)を打診し、賃借人もほぼ了解を示していたので更新契約書に新賃料を記載しておいた。案内文には、継続して入居の意思があるかの確認及び更新手続の連絡をする旨を記載した。案内文等が賃借人に到達した頃に当社が賃借人に連絡したところ、契約を継続する意思は確認できたが、新賃料は納得がいかないと更新契約書への署名捺印を拒否された。
 当社は、賃借人と合意更新できないのであれば、法定更新となるのはやむを得ないと判断し、更新契約書の作成は見送った。期間満了の1か月後、賃貸借契約書で約定している更新事務手数料の支払いを請求した。契約書には、更新諸費用として合意更新の場合の新賃料1か月分相当の更新料及び合意更新、法定更新に関わらず新賃料の0.5か月分相当の更新事務手数料の支払い及び支払いを怠った場合に年14.6%の割合による遅延損害金が発生する旨を定めている。賃貸人である当社は賃借人に対し約定の更新事務手数料(約定賃料の0.5か月分相当)を支払うよう請求したが、、賃借人は、法定更新になる場合、更新契約書は作成されず、賃貸人は、更新事務手数料に見合った更新事務の労力、費用はかかっていないと主張し、支払いを拒否された。さらに、更新事務手数料の遅延損害金条項は、信義則に反し、消費者の利益を一方的に害するものであり、消費者契約法により無効であると主張している。

質 問

1.  法定更新となった場合でも賃借人が賃貸人に更新事務手数料を支払う約定は有効か。
2.  賃借人が賃貸人に支払いを約定している更新事務手数料が遅延したときの遅延損害金支払い条項は消費者契約法に抵触し無効か。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 法定更新の場合においても、賃借人が更新事務手数料支払う約定は有効であり、賃借人は支払う義務がある。
 質問2.について ― 消費者契約法に抵触せず、遅延損害金の請求が可能である。
2.  理 由
⑵について
 一般的に、賃貸借契約の更新事務は、媒介した宅建業者や賃貸管理業者が賃貸人または賃借人から依頼されて行う。賃貸人及び賃借人の一方または双方と更新事務手数料の支払いを約定していれば当然に請求が可能である。合意更新であれば支払い義務者は事務手数料支払いを妥当と判断するであろう。しかしながら、賃貸借契約の当事者である賃貸人と賃借人との間で更新合意に至らず、賃借人が契約の継続を望んでいる場合は、法定更新となり、賃借人は継続して賃借物を使用できるが、法定更新に至ったときは、法定更新を合意する旨の意思表示は不要であり、期間の定めのない賃貸借契約として従前の契約と同一の条件で契約を更新されたとみなされる(借地借家法第26条第1項)。賃借人が保護される規定となっている。
 法定更新の成立に際しては、特段の事務手続はないが、法定更新の場合においても更新事務手数料の支払義務が生じる旨が規定された書面が締結されていれば、支払い義務は免れない。更新事務を依頼されているのが媒介業者または管理会社の契約当事者以外の場合には、請求者と支払い義務者が明確であるが、相談ケースのように、宅建業者が賃貸借契約の当事者である賃貸人の場合の請求の可否が争点になることがある。裁判例では、「合意更新であるか法定更新であるかを問わず、本件賃貸借契約を更新する場合には、更新料及び更新事務手数料を支払う旨を、一義的かつ具体的に規定された契約書を取り交わすことにより合意していれば支払い義務は免れない」としている。加えて、賃貸人は合意書等の文書等の作成を行っておらず、事務に生じる費用は不明であり、賃借人が事務手数料を支払うのは不合理とする賃借人の主張に対し、「本件更新事務手数料は、契約更新に伴う手数料としての性質に加え、賃料の補充や権利金の補充あるいは更新承諾の対価等の性質も複合的に有する」ものと、更新事務手数料という名目の性格だけではないとし、「本件更新事務手数料の性質にも照らすと、賃借人は、法定更新の場合においても、賃貸人が契約更新に伴って一定の事務作業を現に行ったかにかかわらず、賃貸人に対して本件更新事務手数料を支払う義務を負う」と解している(【参照判例】参照)。
 なお、更新事務手数料の条項が消費者契約法に抵触するかについて、「本件更新事務手数料条項は、消費者契約法第10条にいう民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものには当たらないし、暴利行為に該当しない」としている(【参照判例】参照)。
 媒介業者が期間の定めのある賃貸借契約の媒介をするときは、合意更新条項のみならず、法定更新に至った場合でも、賃借人は賃貸人に更新料を支払う旨や、当事者の一方または双方との間で更新事務手数料支払いの約定をするときは、法定更新の場合も支払う旨の約定をしておく必要があろう。当然、法定更新のときは更新事務手数料を請求しない約定も可能である。

参照条文

 民法第1条(基本原則)
   (略)
   権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
   (略)
 借地借家法第26条(建物賃貸借契約の更新等)
   建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
   前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とする。
   (略)
 消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
   消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

参照判例

 東京地裁令和3年1月21日 判時2519号52頁(要旨) 
 賃貸人及び賃借人は、合意更新であるか法定更新であるかを問わず、本件賃貸借契約を更新する場合には、上記金額の更新料及び更新事務手数料を支払う旨を、一義的かつ具体的に規定された契約書を取り交わすことにより合意したものと認められる。そして、賃貸人及び賃借人が本件合意更新の際に取り交わした更新契約書には、期間満了後に更なる合意更新を行う場合、賃借人が賃貸人に対して更新料として新賃料の1か月分を支払い、更新事務手数料として新賃料の0.5か月分を支払う旨が記載されていることに加え、賃借人は、法定更新の場合であっても、期間満了後もなお継続して本件物件を賃借する場合、更新料の支払義務がある旨や更新契約書に記載のない事項については原契約のとおりとする旨が記載されており、賃貸人及び賃借人は、本件合意更新において、本件更新事務手数料条項の支払義務に関する合意内容を含め、本件更新料等条項の内容を引き継ぐ旨を明示的に合意している。
 このように、本件賃貸借契約及び本件合意更新は、更新料及び更新事務手数料の支払義務が法定更新の場合においても生じる旨が一義的かつ具体的に規定された書面を取り交わすことにより締結されたといえる。
 次に、本件更新料等条項により賃借人が支払義務を負う更新料及び更新事務手数料の額及びその約定の遅延損害金の割合については、いずれも、本件賃貸借契約の賃料額や賃貸借契約が更新される期間(本件合意更新においては、契約期間が2年間更新されている。)に照らして高額に過ぎるという事情は認められない。
 上記の各事情を総合考慮すると、本件更新事務手数料条項は、消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないし、暴利行為にも該当しないと解するのが相当である。
 したがって、賃借人は、賃貸人に対し、本件法定更新に際し、本件更新事務手数料条項に基づき、約定遅延損害金も含め、更新事務手数料の支払義務を負うといえる。
 (中略)賃借人は、本件賃貸借契約における更新事務手数料について、法定更新の場合、いかなる事務について生じる費用であるかが不明であるから、本件更新事務手数料の請求は認められないなどと主張する。
 しかしながら、本件更新事務手数料は、法定更新の場合においても契約の更新に伴って一定の事務手続が発生し得ることを前提として、契約更新に伴う手数料として支払われるものであると考えられ、また、本件更新事務手数料は、上記の契約更新に伴う手数料としての性質に加え、賃料の補充や権利金の補充あるいは更新承諾の対価等の性質も複合的に有するものと解される。上記の本件更新事務手数料の性質にも照らすと、賃借人は、法定更新の場合においても、賃貸人が契約更新に伴って一定の事務作業を現に行ったかにかかわらず、賃貸人に対して本件更新事務手数料を支払う義務を負うと解するのが相当である。

監修者のコメント

 賃貸借契約期間の満了により、契約が更新される際に、賃借人が賃貸人に一定額を支払う「更新料」や更新事務を行う宅建業者に多くのケースで賃借人が支払う「更新事務手数料」または「更新手数料」が問題となるが、後者の問題について紛糾する殆どのケースは、賃貸人と賃借人の間に宅建業者が関与する場合である。ところが相談ケースと掲記の参照判例は、そうではなく、両当事者の間に立つ宅建業者は存在せず、賃貸人自らが宅建業者であるのに更新事務手数料を請求するケースである。参照判例が「本件更新事務手数料は、契約更新に伴う手数料としての性格に加え、賃料の補充や権利金の補充あるいは更新承諾の対価等の性格も複合的に有するものと解される」と述べているのは、更新事務手数料ではなく「更新料」の支払特約について争われた平成23年7月15日の最高裁判決において更新料の複合的性質から導いて「更新料」が有効だという結論づけの際の説示をそのまま援用していることに注意されたい。本相談ケースは、賃貸人である宅建業者が更新事務手数料を取得するので賃貸人が取得する更新料の論理をもって来て根拠づけをしている。要するに、多くのケースである両当事者の間に宅建業者が立って更新事務を行う事案では、参照判例のその論理は当てはまらないのである。
 また、本相談ケースでは、合意更新、法定更新を問わず、更新事務手数料を支払わなければならないと明確に約定されていたので、「回答」の理由と結論は首肯されるが、これが単に「更新に当たっては更新事務手数料を支払わなければならない」となっていたときには、問題なく同じ結論になるのかというと必ずしもそうではない。なぜなら、更新事務手数料でなく、更新料についてであるが、その特約は、合意更新のときの約定であって、法定更新のときには適用されないという下級審判例が少なからずあるからである。したがって、どのような更新でも更新事務手数料をもらう場合は、相談ケースのように「法定更新、合意更新のいずれの場合でも更新事務手数料を支払う」と二義を許さない約定をすべきである。

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