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2404-R-0275
無断転貸をしている借地人に対する賃貸人の契約解除権の時効

 当社が不動産管理をしている土地の地主が亡くなり、相続した長男から、無断転貸をしている土地賃借人との間の賃貸借契約の解除を相談されている。借地人が12年前から第三者に無断転貸していることが判明した。

事実関係

 当社は、不動産の媒介業者である。昨年、当社が不動産管理を受託している地主が、亡くなり、相続人である長男が不動産の多くを相続した。当社は、長男から相続不動産に関して相談を受けた。長男が相続した賃貸土地や貸家、賃貸マンションの契約関係を整理していたところ、店舗用地として賃貸している土地の一部を賃借人が第三者に無断で転貸していることが判明した。土地上には賃借人名義の建物があり雑貨店として営業しているが、賃貸土地上に店舗とは別の第三者名義の居住用建物があり、家族で住んでいる。その建物は賃借人の所有でないことは登記情報で確認したが、保存登記を12年前にしている。長男が賃借人に経緯を問いただすと、賃借人は、土地の一部を無断で第三者に転貸していることを認めた。賃借人と転借人との間では、契約書は交わさず、口頭で転貸を合意したとのことである。第三者といっても、長男の亡くなった父親や、賃借人とも同市内に昔から居住している顔見知りである。賃借人は、第三者の建物が建築された後も、父親から特に咎められることもなかったと言っている。
 長男は、他の貸地もあり、賃借人が賃貸人の承諾なしに、第三者に転貸されるのを心配している。なお、賃借人からの賃料は賃貸借契約の約定通り滞納もなく支払われているが、賃借人が第三者からどの程度の賃料を受領しているかについては不明である。

質 問

 現在の土地賃貸人である長男は、賃借人に対して、12年前の無断転貸を理由に土地賃貸借契約の解除及び明渡しを請求することができるか。

回 答

1.  結 論
 賃貸人が賃借人に対して、一定期間、契約解除を請求しないときは、賃貸人が解除できる権利は消滅時効にかかり、長男は、契約解除及び明渡しを求めることができない。
2.  理 由
 賃貸借契約では、賃借人は、賃貸人の承諾を得ないで、賃貸物を転貸することはできず、賃借人が第三者に転貸したときは、賃貸人は契約を解除することができるという賃借人の賃借権の譲渡及び転貸の制限がある(民法第612条)。賃借人の無断転貸を理由とする賃貸人の契約解除権は、賃借人の無断転貸という契約義務違反事由の発生を原因として、賃借人を相手方とする賃貸人の一方的な意思表示により賃貸借契約関係を終了させることができる権利であり(同法第540条)、形成権とされている。
 賃借人が重大な契約義務違反をしていれば賃貸人からの一方的な解約解除が可能であり、解除権は債権に準ずるものと解されていて、消滅時効の適用を認め、10年間行使しないときは、その債権は消滅する(同法第166条第1項第2号)。解除権の発生時期は、「右解除権は、転借人が、賃借人(転貸人)との間で締結した転貸借契約に基づき、当該土地について使用収益を開始した時から、その権利行使が可能となったものということができる」として、「その消滅時効は、右使用開始時から進行するものと解する」とした裁判例がある(【参照判例①】)。
 相談ケースは、賃借人は第三者に12年前に転貸借契約(口頭でも有効)をしており、転借人が使用収益を開始したのは登記情報の建物保存登記でも明らかであり、解除権の発生は、父親の生前の12年前と推測でき、解除権は時効により既に消滅したと考えるのが妥当であろう。
 また、第三者の建物建築後に父親は賃借人に対し、無断転貸に関して異議を述べることもなかった事実が伺われる。賃貸人である父親は、賃借人が第三者に転貸している事実を黙認又は追認していることも推測でき、転貸を黙認していたのであればそもそも解除権は存在しないことになる。
 なお、「時効による権利消滅の効果は、時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく、時効が援用されたときにはじめて確定的に生ずるものと解する(【参照判例②】)」としており、賃借人が賃貸人に対して消滅時効の援用(意思表示)をする必要があり、相手方に対し、明確に援用をする旨を伝えることで時効の利益を得ることができる。具体的な時効の援用方法は、直接、口頭でも有効だが、法的な効力を得るためには、確定日付が証明できる内容証明郵便で送付するのが一般的であろう。

参照条文

 民法第145条(時効の援用)
   時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
 同法第166条(債権等の消滅時効)
   債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
     債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
     権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
   債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。
   (略)
 同法第540条(解除権の行使)
   契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。
   前項の意思表示は、撤回することができない。
 同法第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
   賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
   賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。

参照判例①

 最高裁昭和62年10月8日 判タ662号72頁(要旨)
 賃貸土地の無断転貸を理由とする賃貸借契約の解除権は、賃借人の無断転貸という契約義務違反事由の発生を原因として、賃借人を相手方とする賃貸人の一方的な意思表示により賃貸借契約関係を終了させることができる形成権であるから、その消滅時効については、債権に準ずるものとして、民法第166条第1項第2号が適用され、その権利を行使することができる時から10年を経過したときは時効によって消滅するものと解すべきところ、右解除権は、転借人が、賃借人(転貸人)との間で締結した転貸借契約に基づき、当該土地について使用収益を開始した時から、その権利行使が可能となったものということができるから、その消滅時効は、右使用開始時から進行するものと解するのが相当である。

参照判例②

 最高裁昭和61年3月17日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 時効による権利消滅の効果は、当事者の意思をも考慮して生じさせることとしていることが明らかであるから、時効による権利消滅の効果は、時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく、時効が援用されたときにはじめて確定的に生ずるものと解するのが相当である。

監修者のコメント

 解除権のような形成権が消滅時効にかかるか否かについては争いがあるが、参照判例のように最高裁はこれを肯定する。実務としては、判例理論に従って考えることが妥当である。
 もっとも、本件相談ケースは、12年経っているが、まだ10年を経過せず、時効が問題とならない場合でも、第三者の建物が建築されたことは通常は外観上、たやすく認識できることであるから、長年にわたって父親から咎められることがなかったという賃借人の主張が立証(証明)されれば、転貸についての父親の黙示の承認が認定される可能性が高い。

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