不動産相談

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不動産のプロフェッショナル

ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
掲載にあたっては、プライバシーの保護のため、相談者等の氏名・企業名はすべて匿名にしてあります。
また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

2402-R-0273
土地の賃借人が借地権を第三者に無断譲渡したときは、賃貸人は常に契約を解除することができるか。

 当社は賃貸の管理業者である。土地を相続した相続人が賃借人を確認したところ、借地権者であった当初の賃借人が死亡しており、賃貸人に無断で借地権がその甥に譲渡されていた。

事実関係

 当社は、不動産媒介業兼管理会社である。複数の不動産の管理を委託されていた地主が亡くなり、相続を受けた地主の長女から相談があった。長女が相続した不動産は、店舗併用住宅を目的に賃貸している土地である。長女は遠方に居住しているため、相続を機に、賃貸人の変更及び賃料の新振込先等を通知するために賃借人宅を訪れた。店舗併用住宅に居住している賃借人は、土地賃貸借契約書に記載されている賃借人ではなかった。建物の登記情報を確認したところ、賃貸借契約書上の賃借人から、第三者の名義に所有権移転がされていた。長女は、建物の名義人である建物を使用している者から経緯を聞いたところ、当初の賃借人は、現在の建物の名義人の叔父であった。
 甥によると、長年、甥は、叔父の店舗併用住宅に同居して店舗を手伝っていたが、最近、叔父が亡くなり、叔父の相続人である従兄弟に相談したところ、甥が引き続き店舗を経営することを望んでおり、従兄弟から建物と土地の賃借権が譲渡されたとのことであった。甥は店舗を引き継ぎ、建物を自分名義にした。
 賃貸人であった長女の親は、生前、叔父の建物に甥が同居していることは知っていたようである。しかし、長女は、相続権のある従兄弟が使用するならともかく、従兄弟が、地主である長女の承諾なしに借地権を甥に譲渡し、無断で使用していることに納得していない。

質 問

 借地権者が借地権設定者の承諾なしに第三者に借地権を譲渡した場合、常に借地契約を解除することができるか。

回 答

1.  結 論
 借地権の無断譲渡が賃貸人に対する背信行為と認めるに足らない特段の事情があるときは、賃貸人は契約解除ができない場合がある。
2.  理 由
 賃貸借契約は、賃貸人と賃借人当事者の信頼を基礎とする継続的法律関係とされており、賃借人が賃貸人に無断で第三者に賃借権の譲渡や転貸して使用収益させることを禁止している。賃借権の譲渡は賃貸人と賃借人との間の賃貸借関係を断つことであり、転貸は賃貸人と賃借人との関係を保持したまま、転借人に使用収益させることである。賃借人が、賃貸人の承諾を得ずに第三者に譲渡・転貸をしたときは、原則として、賃貸人は契約を解除することができる(民法第612条)。
 土地の賃貸借は一般的に長期間にわたるため、賃借人の事情が変更になる場合も考えられ、法律上、賃貸人の承諾があれば賃借権という財産権の譲渡・転貸を可能にしている。また、賃借人の賃借権の譲渡・転貸を賃貸人が承諾しないときは、借地権設定者の賃貸人に不利となるおそれがなければ、裁判所は、賃貸人の承諾に代わる許可をすることができる(借地借家法第19条第1項)。賃借人の無断譲渡・転貸は、当事者関係のいわゆる信頼関係の破壊となり、賃借人の行為は、賃貸人に対する背信行為として、賃貸人に賃貸借契約の法定解除権が生じるのである。
 しかしながら、賃借人の行為が当事者間の信頼関係の破壊にまで至らないかぎり、当然に賃貸人の解除権が認められるものではない。判例によれば、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで譲渡・転貸した場合でも、「背信的行為と認めるに足らない特段の事情ある場合に関しては民法第612条の適用が排除される」とし、賃貸人の解除権の発生を否定したものがある(【参照判例①】参照)。外形的に賃借人の名義が代わっていても、実質的に賃借人に変更がない場合などがその例である。賃借人と譲受人が親族であったり、事業の継続・維持等のための譲渡・転貸の場合には、「特段の事情」として、認められる可能性が高い。相談ケースは、甥が、亡くなった叔父と同居し、長年にわたり店舗を手伝っており、叔父が亡くなった後は、本来はその相続人である叔父の子である甥の従兄弟が引き継ぐのであるが、その従兄弟から借地権と建物を譲渡されたものである。確かに、亡賃貸人の土地を相続した現賃貸人である長女の承諾は得ていないが、「当該行為を理由として賃貸人に解除を認めることは、賃貸人の正当な利益保護の範囲を超え、かえって当事者間に正義衡平の観念と背馳する結果を招来する場合も存し得る」として特段の事情を認めた裁判例が当てはまる事例である(【参照判例①】参照)。
 夫が死亡し、その内縁の妻が夫の相続人から商売をしていた建物と借地権を賃貸人の承諾を得ないで譲り受けた事案について、「法律上借地権の譲渡があったにせよ、事実上は従来の借地関係の継続であって、右借地権の譲渡をもって土地賃貸人との間の信頼関係を破壊するものとはいえない」として、賃借権の解除ができないとした裁判例もある(【参照判例②】参照)。
 特段の事情があるか否かについての判断は、事案ごとに総合的に判断されるが、譲受人が賃借人との関係性のない第三者の場合は原則として認められないであろう。

参照条文

 民法第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
   賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
   賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
 借地借家法第19条(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可)
   借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。
   裁判所は、前項の裁判をするには、賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならない。
   第1項の申立てがあった場合において、裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡又は転貸を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は、同項の規定にかかわらず、相当の対価及び転貸の条件を定めて、これを命ずることができる。この裁判においては、当事者双方に対し、その義務を同時に履行すべきことを命ずることができる。
  〜⑦ (略)

参照判例①

 最高裁昭和28年9月25日 判タ34号45頁(要旨)
 賃借人が賃貸人の承諾なく賃借権を譲渡し又は転貸するごときは、通常の場合、賃貸人をして賃貸借を解除せしめるに足る背信的行為と認むべきことは当然であるが、およそ社会の事象は複雑であるから、賃借人が賃貸人の承諾なく賃借権を譲渡し又は転貸した場合であっても、何等か特段の事情があるため必ずしもこれを右のごとき程度における背信的行為とはなすに足らず、むしろ賃借人の当該行為を理由として賃貸人に解除を認めることは、賃貸人の正当な利益保護の範囲を超え、かえって当事者間に正義衡平の観念と背馳する結果を招来する場合も存し得ることは、何人も否定しえないところであろう。しからば、民法第612条は、賃借人の背信的行為に対し賃貸人の利益を保護せんとする立法趣旨そのものの当然の帰結として、背信的行為と認めるに足らない特段の事情ある場合に関しては同条の適用が排除されるものと解せざるを得ない。

参照判例②

 最高裁昭和39年6月30日 判タ164号94頁(要旨)
 内縁の妻と夫は事実上の夫婦として同棲し、協働して鮨屋を経営していたが、夫死亡後、内縁の妻は夫の相続人らから建物とともに借地権の譲渡を受け、引きつづき本件土地を使用し、本件建物で鮨屋営業を継続しており、賃貸人も、内縁の妻が本件建物に夫と同棲して事実上の夫婦として生活していたことを了知していた旨の事実を確定の上、このような場合は、法律上借地権の譲渡があったにせよ、事実上は従来の借地関係の継続であって、右借地権の譲渡をもって土地賃貸人との間の信頼関係を破壊するものとはいえないのであるから、賃貸人は、右譲渡を承諾しないことを理由として、本件借地契約を解除することは許されず、従ってまた譲受人である内縁の妻は、賃貸人の承諾がなくても、これがあったと同様に、譲受を賃貸人に対抗でき、内縁の妻の本件土地の占有を不法占拠とすることはできない。(中略)
 本件借地権譲渡は、これについて賃貸人の承諾が得られなかったにせよ、従来の判例にいわゆる「賃貸人に対する背信行為と認めるに足らない特段の事情がある場合」に当たるものと解すべく、従って賃貸人は民法第612条第2項による賃借権の解除をすることができないものであり、また、このような場合は、賃貸人は、借地権譲受人である内縁の妻に対し、その譲受について承諾のないことを主張することが許されず、その結果として内縁の妻は、賃貸人の承諾があったと同様に、借地権の譲受をもって賃貸人に対抗できるものと解するのが相当である。

監修者のコメント

 賃貸借契約を解除しうる「背信行為」に該当するかどうかは、事案の事実を総合的に検討して判断しなければならないが、本相談ケースは、回答のとおり、「背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある」と認められ、解除はできないであろう。
 なお、最高裁が「背信的行為と認めるに足らない特別の事情がある場合」と、回りくどい表現をしているのは、立証責任との関係である。もっと直截に「背信的行為と認められる場合」は、契約を解除できるといえば良さそうであるが、そうすると解除を主張する賃貸人側が、賃借人側の背信的行為を立証(証明)しなければならないことになってしまい公平の観点から問題だからである。本来、賃貸人の承諾が必要な賃借権の譲渡をその承諾なしに行った以上、賃借人側に、自分の行為は背信的行為とは言えないということの立証(証明)責任を負わせることが合理的だといえる。そこで、争点に関する立証(証明)責任は、賃借人側にあるとするために「背信的行為と認めるに足らない特段の事情」があるときは解除できないとして、背信的行為でないことは賃借人側が立証(証明)せよ、としているのである。

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