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2312-B-0327
外国人が契約当事者の売買契約を外国語に翻訳した契約書で行うことの是非

 最近、国内不動産における外国人顧客の取引が増加しているが、当社も取引に関与することが予想されるが、外国語の取引関連書面の準備や通訳者をどうすべきか思案している。

事実関係

 当社は、売買・賃貸の媒介業者である。最近、同業者から外国人の不動産取引が増えていると聞かされている。今まで、当社では顧客が外国人の取引を行ったことがない。早晩、取り扱うことが予測されるため、国際語である英文の売買及び賃貸借の重要事項説明書や契約書等を準備しておきたいと考えている。しかし、当社担当者は英語による日常会話程度はできるが、重要事項説明や契約書等の内容を相手に理解させるほどの語学力はない。取引する際は、通訳者を介することになるが、どのように準備したらよいのか悩んでいる。
 当社が依頼した通訳者を介して取引が成立した後に、通訳者の語学力が不十分のため契約内容を理解できなかったと外国人の契約者から苦情を受けないかも気がかりである。苦情程度であれば対処の仕様もあろうが、契約内容の認識・理解度や国民性、慣習違いを起因としてトラブルに発展し、顧客から訴えられて裁判沙汰になったり、当社の業務の進め方の責任を問われ、債務不履行等で損害賠償請求されることは避けたい。

質 問

1.  外国人と不動産取引する場合、通訳者を介さないことを想定し、英文等の外国語の重要事項説明書や契約書等を備えておくべきか。
2.  通訳者を必要とする外国人との取引の際、媒介業者が通訳者を手配するのか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 不動産取引は日本語で行えばよく、外国語の重要事項説明書や契約書等を必ずしも備える必要はない。
 質問2.について ― 原則、外国人の取引当事者が通訳者を手配すべきと考える。
2.  理 由
⑵について
 近年、国際化の進展やインバウンド需要の高まりにより、外国人と接する機会が飛躍的に伸びている。外国人個人や外国法人が不動産の購入や売却、賃貸借の当事者になるケースや不動産を所有する外国人からの管理委託が今後増加することが予想される。外国人顧客と取引のなかった宅建業者も、外国人顧客と売買や賃貸借取引に接することが日常的になると見込まれる。
 外国人が取引当事者であっても、国内に所在する宅地・建物の売買契約もしくは賃貸借契約の締結等の法律行為は、日本の法律が適用される(法の適用に関する通則法第8条第3項)。したがって、重要事項の説明・同説明書の交付(宅地建物取引業法第35条)、売買契約成立時の書面交付(同法第37条)等は宅建業法に則る必要がある。もし、売買契約及び賃貸借契約等に起因して外国人顧客と紛争となり裁判になった場合、日本における裁判はすべて日本語に準拠するので、重要事項説明書や契約書等の書面は日本語であることが要求される。外国語訳の書面の要否について、マンション分譲業者が、外国人買主に同行した通訳者を介して日本語で説明した重要事項内容に認識の相違があり、外国人買主が十分な説明を受けていないと主張して損害賠償を請求した裁判で、「宅地建物取引業法においては、日本語を理解しない外国人に対して重要事項説明を外国語で行うべきことまでは規定されていない」と外国語で説明する法的義務はないとしたものがある(【参照判例】参照)。宅建業者が、外国人との取引にあたり、外国語訳の書面を用意している場合があるが、その書面は、外国人顧客の理解を得るための参考訳として交付すべきでものである。
 外国人顧客が不動産取引に際して、宅建業者が通訳者を用意するケースや顧客自らが通訳者を伴う場合があるが、取引内容や宅建業者の説明に相互の間に理解の齟齬が生じ、紛争になったときの責任の帰属が問題になることがある。宅建業者が、自ら通訳したり、外国人顧客の承諾のない通訳者を用意した場合は、宅建業者が責を負う可能性が高いであろう。外国人顧客が通訳者を同行させる場合がある。顧客が個人のときは、通訳者は日本人である配偶者や兄弟、勤務先の同僚、友人、あるいは日本語の堪能な外国人の知人等が考えられる。法人の場合は、日本人もしくは日本語の堪能な外国人の従業員ということもあろう。不動産取引の通訳は専門性が高いことから、同行した通訳者の語学力や理解力等の通訳力は重要な要素である。「買主が外国人である場合に、日本語を理解できず自ら通訳を同行して重要事項説明を受ける事態も生じ得るところ、宅地建物取引業者においては、当該通訳の資質や翻訳内容の正確性、さらには通訳内容が買主に理解できる説明がされているか否かを判断することは困難である。(中略)重要事項説明を受ける買主においては、その手段の選択やその選択結果としての通訳の正確性等に関して、その危険については自ら引き受けるべきもの」として、顧客自らが、契約等の内容を理解する責任を負うと判示している(【参照判例】参照)。通訳者を業者が用意するか、顧客自ら委託するかにかかわらず、通訳者を介する場合は、顧客自らが理解できるよう通訳者を選択する義務があることになる。
 したがって、外国人顧客が自ら責任を負うことを認識させる必要がある。『後日の紛争を避ける意味で、通訳をする者にも重要事項説明書や契約書等の書類に通訳者として署名・押印(サイン)してもらう、または、あらかじめ顧客である外国人から、通訳者に通訳させる旨の委任状を受領しておくことが重要』という当センターの考え方注)を国土交通省が不動産事業者のための国際対応マニュアルで紹介しているので参考にされたい。
 注)当センター・ホームページ不動産相談事例(売買事例0703—B—0006)

≪参考≫
 国土交通省は、外国人との取引が増加していることに鑑み、外国人との土地・建物取引のトラブル防止を目的とした『不動産事業者のための国際対応マニュアル』及び『外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン』を公表している(後記参照)。同マニュアルは、特に 外国人との取引の経験が少ない不動産事業者が、取引対応時において参照することができる基礎的な資料となっている。同ガイドラインは、賃貸借契約の実務や慣習等が解説され、参考資料として、外国語の賃貸借契約の際の重要事項説明書、賃貸借契約書を始め、賃貸借契約に至るまでの入居申込書やチェックシート等の付帯書類が示されている。言語は、日本語、英語、中国語、韓国語、スペイン語、ポルトガル語の主要言語を始め、ベトナム語、ネパール語など14カ国語を掲載している。外国人との取引に備え、宅建業者は一読することをお勧めする。

参照条文

 法の適用に関する通則法第7条(当事者による準拠法の選択)
   法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。
 同通則法第8条(当事者による準拠法の選択がない場合)
   前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。
   (略)
   第1項の場合において、不動産を目的物とする法律行為については、前項の規定にかかわらず、その不動産の所在地法を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する。
 宅地建物取引業法第35条(重要事項の説明等)
   宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第5号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。
  〜⑨ (略)
 同法第37条(書面の交付)
   宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換に関し、自ら当事者として契約を締結したときはその相手方に、当事者を代理して契約を締結したときはその相手方及び代理を依頼した者に、その媒介により契約が成立したときは当該契約の各当事者に、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。
  〜⑤ (略)

参照判例

 東京地裁令和3年3月11日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 買主が外国人である場合に、日本語を理解できず自ら通訳を同行して重要事項説明を受ける事態も生じ得るところ、宅地建物取引業者においては、当該通訳の資質や翻訳内容の正確性、さらには通訳内容が買主に理解できる説明がされているか否かを判断することは困難であるといわざるを得ない。そうすると、重要事項説明を受ける買主においては、その手段の選択やその選択結果としての通訳の正確性等に関して、その危険については自ら引き受けるべきものと解するのが相当である。
 その上で、宅地建物取引業法においては、日本語を理解しない外国人に対して重要事項説明を外国語で行うべきことまでは規定されておらず、これが法的義務であると解することもできない。
 以上によれば、本件においては媒介業者担当者が買主依頼の通訳を通じて買主らに重要事項説明を行った以上、重要事項説明の内容や程度を充足しているものと認められ、情報提供として欠けるところはなく、何ら義務違反を認めることはできない。

≪参考マニュアル等≫
『不動産事業者のための国際対応マニュアル』
 国土交通省土地・建設産業局国際課 平成29年8月発行
https://www.mlit.go.jp/common/001201742.pdf
〔構成〕
売買取引業務、外国人所有不動産の管理、外国人による入居、外国人との取引に役立つ資料集、不動産用語・表現の参考英訳集
『外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン(令和3年12月版)』
 国土交通省住宅局
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000017.html
〔構成〕
外国人の民間賃貸住宅への入居について、実務対応Q&A、外国人の住まいに関する情報提供事例、住宅セーフティネット制度の活用
資料編=希望条件チェックシート、入居審査必要書類チェックシート、入居の約束チェックシート
各国語契約書等見本(入居申込書、重要事項説明書、賃貸住宅標準契約書、定期住宅標準契約書)<日本語、英語、中国語、韓国語、スペイン語、ポルトガル語、ベトナム語、ネパール語、タイ語、インドネシア語、ミャンマー語、カンボジア語、タガログ語、モンゴル語の14カ国語

監修者のコメント

 本相談は、外国人が買主や借主になる取引を念頭においているものと想定されるが、回答にあるとおり、その外国語の通訳能力が高い人でも、契約関係の用語や重要事項説明における専門用語に通暁している人は必ずしも多くはないので、通訳の人の日本語の質問には、基礎的なことから丁寧に説明することが肝要である。

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