不動産相談

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不動産のプロフェッショナル

ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
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2308-B-0323
隣地所有者に境界確認を依頼した際のいわゆるハンコ代の相場の如何

 当社は戸建売買の媒介をした。契約では売主は隣地所有者の境界確認の同意を得る約定である。同意が得られないと契約解除になり、売主は、買主に違約金を支払うことになる。売主は、隣地所有者に境界確認の同意を求めたところ、売主の窮状を知っていて法外な謝礼を要求してきた。

事実関係

 当社は、売買の媒介業者である。築古の戸建の売却を依頼された。依頼された物件は当社のホームページで売買物件として掲載し、ほどなくして買主が現れた。買主は自宅の建築を目的として購入する。買主は、建物は不要なので売主が建物を取り壊し、更地渡しを条件とした。当社は契約に向けて売主と交渉し、指値なしであれば売主が取り壊すことを承諾した。契約内容は、売買価格を2,500万円とし、手付金額は代金の10%、手付解除期日を3週間後、万一、当事者に違約があり、契約解除の場合の違約金を売買価格の20%とし、決済日は契約締結2か月後とすることで売主、買主の合意を得たので売買契約を締結した。
 当社は、契約前の調査により境界標がないことが判明していたので、売主に、隣家の立会いのもと境界を明らかにして境界標を設置する必要があることを伝え、売主も同意したので、契約書に、売主は、決済日までに境界標を設置するため隣家の境界の同意と境界標を設置する旨の約定をした。境界の同意には、隣地所有者と売主の署名捺印が必要である。売主は、隣家とはかなり前から懇意にしていたので隣家が境界確認に応じることに疑問をいだいていなかった。当社と売主で隣家を訪れ、売主が自宅を売却するために、境界の確認の同意が必要なことを説明し、境界位置の確認と確認書への捺印を求めたところ、双方の親の代に境界で揉めていたことがあり、簡単に応じてくれる気配ではなかった。隣家は、感情的なもつれを今でも引きずっているようだ。当社は、売主と相談し、いくばくかの金員を支払って解決を図ることにした。隣地所有者に、いわゆる判子代として10万円謝礼を支払うことを告げたところ拒否された。隣家は暗に250万円の要求をほのめかしている。
 隣家に訪問した折に、売主は契約内容を話しており、手付金による契約解除期日は徒過していることを隣地所有者は認識しており、このままだと売主は契約違反による違約金が発生することも承知している。売主は、違約になったときは違約金が代金の2割であることは負担であり、隣地所有者の要求金額はその半分であることから、本意ではないが、支払うことを考え始めた。

質 問

1.  不動産取引では、取引当事者が境界の確認のために近隣の立会いや承諾を求めることがあるが、承諾料として要求される、いわゆる「判子代(判付料)」の相場や算出基準はあるのか。
2.  要求された判子代が過大と思える金額であった場合、支払いを拒否できるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 相手方の境界確認書に署名捺印する行為に対し、謝礼として支払う金員の法的な根拠はなく、相場といったものはない。
 質問2.について ― 捺印を依頼した者の窮状に乗じて高額な金員を要求することは、公序良俗に反し無効であり、拒否することができる。
2.  理 由
⑵について
 人が生活するうえで、人間関係を円滑にするためあるいは感謝の意を示すために金銭をやり取りすることが少なからずある。不動産取引において、相談ケースのように隣地所有者に境界明示のための境界確認や確定測量図作成のために署名捺印を求めたり、敷地所有者が建物建築のための測量図作成、分筆する場合、また、私道に面している敷地所有者が私道を掘削する際に掘削等承諾書に私道所有者の署名捺印が必要になる場合も多い。通常、隣地所有者や私道所有者に署名捺印を求める場合、隣地所有者等は無償または少額の謝礼で署名捺印することが社会通念である。隣地所有者等が遠方で、立会いに時間をかけたり費用支出(足代等)があったり、多忙の中、時間を割いてもらった場合には相応の金員を支払うことも一般的であろう。しかし、近隣関係にトラブルが生じていたり、かつて揉め事があったなど、関係がよくないときは、署名捺印を拒否されたり、高額な金員を要求されることがある。
 署名捺印の謝礼としてのいわゆる判子代(判付料)の法的な根拠・規定に類するものはなく、署名捺印する者の請求権があるわけでもない。謝礼の相場や慣習もないとは言え、事案、事情、支払う者の資力などによりその額はさまざまである。判子代の性格は、謝礼に限らず、交通費、和解・解決金、承諾料、迷惑料、日当、支出費用、労力、等々の意味合いを含むこともある。
 境界確定を条件として不動産の売買契約をした売主が、かつて境界で揉めたことがある隣地所有者に署名捺印を求めたところ、隣地所有者が感情的対立の和解金を含んだ多額の判付料(売主の売買金額の10%)を要求した裁判において、「320万円という金額は、判付料の謝礼の趣旨としてはもとより、隣地所有者が感情を害した事情について謝罪し、よって紛争を解決する趣旨を考慮しても著しく高額であって、その目的と対比すると権衡を失している」と要求額と一般的に授受される判付料の不均衡を指摘し、売主は境界確定ができなければ契約解除になり違約金として代金の20%を支払うことになり、「売主の窮状に乗じて、その対応を窺いながら、本件和解金の引き上げを図った」として、「20万円を越える部分については、その支払の合理的根拠を見出し難く、公序良俗に反し無効であると解するのが相当」としたものがある(【参照判例】参照)。認められた金額は、判付料の基準額を示したものではないが、社会通念上の金額を超える金銭の要求は無効であるとしている。裁判により高額な判付料は公序良俗により無効(民法第90条)との判断であるが、売買契約締結後に高額の判付料を要求された場合、要求を拒否することはできるが、判付料の妥協には時間がかかることもあり、決済が差し迫っている段階では違約金の支払いがネックとなり要求額を支払ってしまうかもしれない。
 媒介業者としては、相手方から高額な判付料の要求があったときは、高額な要求額は、裁判上で認められないことがある旨を示し、妥当な判付料を協議することが肝要であろう。しかしながら、協議には時間がかかることがあり、決済日までの解決が難しいと言える。既存戸建てや土地の取引において、境界トラブルは解決に時間がかかることもある。売買の媒介をする際には、契約前に、売主に隣地所有者との境界や相隣関係の紛争や感情的な対立があるかを確認しておくとともに、隣地所有者の承諾が必要な場合は、契約前に売主が、隣地所有者から同意書を取得しておくなどの準備を助言する必要があろう。

参照条文

 民法第90条(公序良俗)
   公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

参照判例

 大阪地裁平成9年8月27日 判タ967号161頁(要旨)
 隣地所有者は詫び状をもらえれば境界確認書に押印してもよいと思っていたことを考え併せると、320万円という金額は、判付料の謝礼の趣旨としてはもとより、隣地所有者が感情を害した事情について謝罪し、よって紛争を解決する趣旨を考慮しても著しく高額であって、その目的と対比すると権衡を失していると評価せざるを得ない。
 また、認定した事実によれば、隣地所有者の交渉人は、隣地所有者から境界確認書に押印してもらえなければ買主に対し違約金640万円を支払わねばならないという売主の立場を熟知しており、売主の窮状に乗じて、その対応を窺いながら、本件和解金の引き上げを図った上、320万円の支払を受けたという事情を認めることができる。
 事実関係の検討によれば、本件和解金のうち、20万円を越える部分については、その支払の合理的根拠を見出し難く、公序良俗に反し無効であると解するのが相当である。

監修者のコメント

 本相談ケースは、土地の売買契約における売主の境界明示に関し、まったく問題が生じないことが明白でない限り、やってはいけない契約内容にした結果による相談である。境界に関する契約条項について、しばしば、売主は、「隣地所有者の同意を得て」とか「隣地所有者の立会いの下に」境界を明示するものとするというのがある。しかし、この場合、隣地所有者が同意しなかったり、隣地所有者が立ち会ってくれなかったときは、売主の債務不履行になってしまい、相談ケースがそうであるように、約定の違約金を支払わなければならない事態になる。かといって、隣地所有者に同意せよ、とか立ち会えといえる訳ではない。隣地所有者と事前の合意があれば別であるが、隣地所有者に同意や立会いの義務がある訳ではないからである。したがって、売主の境界明示義務を契約条項に定めることは通常であるが、隣地所有者の協力が絶対的に保証されていない限り、上記のような隣地所有者が絡む文言を付加すべきではない。もっとも、買主としては、隣地との境界について将来安心できるよう、隣地所有者の同意や立会いを求め、契約条項にその旨の文言を入れることを希望することも多い。その場合は、そのような文言を入れた上で、例えば、引渡しまでに、それが実現できなかったときは、「売主は本契約を解除することができる」旨の条項を入れ、債務不履行になることを回避できるようにすべきである。それにより、違約金条項の適用もないことになる。
 なお、相談ケースのように、法外な判子代の要求はもちろん拒否できるが、さりとて常識的に妥当な金額を支払うことを条件に境界確認に同意せよという請求権が認められる訳ではないことに注意されたい。相談ケースのように、既に起きてしまっているものについては、「回答2理由」にあるように協議・説得を目指すしかないであろう。

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