不動産相談

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不動産のプロフェッショナル

ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
掲載にあたっては、プライバシーの保護のため、相談者等の氏名・企業名はすべて匿名にしてあります。
また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

2306-R-0265
区分所有マンションの賃貸借契約の際に、媒介業者及び賃貸人は、マンションの大規模修繕工事があることを賃借人に説明する義務があるか。

 当社が媒介した区分所有マンションの賃借人が入居後に建物の大規模修繕のあることを知った。

事実関係

 当社は賃貸の媒介業者である。当社は、築10年の区分所有マンションの一室の賃貸借の媒介をした。賃借人の入居後、管理組合からマンションの大規模修繕工事の施工予定が決定した旨の通知を受けたと、賃借人から当社に連絡があった。工事は、外壁の塗装や防水、ベランダ等の鉄部の塗り直し等である。分譲後初めての大規模修繕であるが、工事の際、外壁修繕のための工事用足場を組み、シートでマンション全体を覆う。工事期間は、2か月後の着工から工事完了まで1か月半の予定である。
 賃借人は、夫婦と幼い子2人の4人家族であり、修繕工事が開始されれば採光や通風が阻害されるが、さらに臭気や騒音による健康被害が引き起こされるのではないかと不安視しており、退去も考えているようだ。
 当社は、賃貸借契約時に賃貸人から工事予定があることを聞いていなかったが、賃貸人に確認すると契約前に管理組合から具体的な時期は未定であるが、近々工事が行われることや工事内容に関して管理組合から通知を受けていたことを認めている。賃借人は、賃借期間中に工事が行われることを知っていたら、他のマンションを選択していたと言いもらしており、工事を知らずに賃貸借契約したのは錯誤であり、契約は無効であると主張している。また、賃貸人に対して、通常の居住を妨げる事柄のあることを事前に賃借人に告知せず契約締結したことは不法行為に当たり、当社に対しても、大規模工事があることを調査説明する義務があったとして双方に損害賠償請求すると明言している。

質 問

1.  賃貸人は、大規模修繕工事をすることを賃借人に対して説明する義務があるか。
2.  媒介業者は、賃貸借契約の媒介に際し、賃借人に大規模工事があることを重要事項として調査説明する義務があるか。
3.  賃借人が、大規模修繕工事の施工を知らずに賃貸借契約をしたことは錯誤に該当するか。

回 答

1.  結 論
 質問1.2.について ― 大規模工事は入居者である賃借人の生活に制約が及ぶことが想定され、具体的に工事が予定されている場合、賃貸人、媒介業者は、賃借人に対して、告知、説明する義務がある。
 質問3.について ― 賃借人の賃借する動機が大規模工事と両立し得ないような動機が表示されていない限り、錯誤には該当しない。
2.  理 由
⑵について
 分譲マンションは建物の維持、劣化を防ぐため、定期的に建物修繕を行っている。ベランダ等の鉄部の防錆や塗装の小規模、短期間の工事から、陸屋根等の防水工事や外壁補修、給排水管工事など長期間に及ぶ大規模工事がある。工事は建物の経年変化のメンテナンスだけでなく、建物の安全性の確保や資産価値の向上につながる。
 工事は、マンションの入居者の生活の制約を強いる場合がある。大規模工事では、工事期間が数か月から1年以上に及ぶこともある。工事に際しては、建物を足場で囲み、工事による飛散防止の防塵幕を建物周囲にめぐらすことも多い。足場は工事関係者が作業をするが、足場や防塵幕により室内への採光や通風が阻害される。外壁の塗料の吹き付けの際には臭いの発生、塗料等の飛散により窓開けができず、また、ベランダに洗濯物が干せない等、ベランダの使用が制限されることが一般的である。工事内容により、騒音・振動も生じるであろう。賃借人が入居期間中に工事が施工されることを知らないで入居すれば、通常は使用できることが制限されることは予想外であろう。マンションの修繕工事は、建物が対象であり、専有部分内に工事は及ばないものの、利用の一部が制限されることは否めない。入居者に幼い子や体質が過敏な者がいる場合は、健康被害の危惧を抱くこともある。
 賃借人が、入居期間中に大規模修繕工事が行われることが賃貸借契約前に明らかであれば契約締結をしないという判断もあり、賃借人の意思決定に重要な事項であると言える。裁判例では、賃貸人の説明義務に関し、「賃貸人は、賃借人に対し、大規模修繕工事の施工が具体的に計画されている場合には、その旨を説明すべき信義則上の義務を負う」とし、媒介業者に対しても、「宅地建物取引業法上定められている重要事項説明義務は、消費者保護という政策的見地から定められている業法上の義務であって、重要事項説明の対象とされていないからといって、直ちに信義則上の義務まで否定されるものではない」と宅建業者の説明義務を認めている。また、賃貸人、媒介業者は「大規模修繕工事が計画されていることを全く説明しないのは、借主に対し、信義則上の義務を怠ったものとして、不法行為責任(民法第709条)を負う」としている(【参照判例】参照)。
 なお、賃借人の錯誤の当否に関し、「通常の一般人の基準に照らせば、大規模修繕工事が行われることを知っていれば契約を締結しないことが通常であるとまではいえない。したがって、大規模修繕工事の有無に関する錯誤は、賃貸借契約の締結に際し、大規模修繕工事とは両立し得ないような動機が表示されていない限り、要素の錯誤(同法第95条)には当たらない」としている(【参照判例】参照)。
 宅建業者は、区分所有マンションの賃貸借の媒介を行うときは、所有者である賃貸人、管理組合または管理会社に、大規模修繕工事に限らず入居者の利用に制約を及ぼすような工事等が予定されているかを確認すべきであろう。特に、築年数の経過した建物は大規模修繕工事の可能性を十分留意して確認の必要性があるだろう。工事の予定が判明したときは、重要事項説明書に工事期間、工事内容等を具体的に記載して説明するか、管理組合の総会や役員会議事録や管理組合または工事施工会社からの工事に関する通知等があるときは、それらを示して説明することが望ましい。なお、工事の調査説明義務は、区分マンションに限らず、1棟賃貸マンションや賃貸ビルも同様である。

参照条文

 民法第1条(基本原則)
   (略)
   権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
   (略)
 同法第95条(錯誤)
   意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
     意思表示に対応する意思を欠く錯誤
     表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
   前項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
  ・④ (略)
 同法第709条(不法行為による損害賠償)
   故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

参照判例

 東京地裁平成31年2月6日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 マンションの大規模修繕工事とは、一般に、十数年に一度行われるマンションの外壁、防水、配管等の品質維持のための工事であり、その対象はマンション全体に及び、期間も2、3か月に及ぶものである(公知の事実)。本件マンションにおいて予定されていた大規模修繕工事も、その工期は2か月強に及ぶものであった。また、工事期間中はマンションの外壁全体に足場が組まれ、採光、通風等が相当程度制限されるとともに、騒音、振動、悪臭等が発生する工事も一定程度行われるものであるから、日常の生活にも一定の制約が及ぶものである。
 このように考えると、マンションの一室の賃貸借契約を締結しようとする者は、賃貸期間中に大規模修繕工事が行われることを知った場合には、その賃借目的によっては、契約の締結を断念して他物件を選択することもあり得るし、仮に契約を締結する意思そのものは失われないとしても、賃料の減額交渉をしたり、入居時期を調整するなど、締結しようとする賃貸借契約の内容に影響する意思決定を行うことがあり得るのであって、大規模修繕工事が行われるという事実は、賃貸借契約を締結しようとする者の意思決定に関わる重要な情報であるということができる。したがって、マンションの一室の賃貸借契約の締結に当たっては、賃貸人になろうとする者は、賃借人になろうとする者に対し、大規模修繕工事の施工が具体的に計画されている場合には、その旨を説明すべき信義則上の義務を負うと解するのが相当である。(中略)
 しかるに、貸主らは、借主に対し、大規模修繕工事が計画されていることを全く説明しなかったのであるから、借主に対し、信義則上の義務を怠ったものとして、不法行為責任を負うというべきである。(中略)
 賃貸人らは、大規模修繕工事の実施の有無は重要事項説明の対象とはされておらず、被告らに本件賃貸借契約締結前にこれを説明すべき義務はなかった旨主張する。
 しかしながら、宅地建物取引業法上定められている重要事項説明義務は、消費者保護という政策的見地から定められている業法上の義務であって、その対象とされていないからといって、直ちに信義則上の義務まで否定されるものではない。また、マンションの一室を賃借しようとする者は、これを購入しようとする者と異なり、通常は、当該マンションの資産価値には関心がなく、住環境や利便性等を重んじるものであり、複数の選択肢の中から、自らの希望に最も適合する物件を選ぶのが通常であるから、賃貸期間内に住環境に影響を与えるような大規模修繕工事が行われるか否かは、物件の選択に際し重要な情報になり得るというべきである。
 大規模修繕工事の有無が、賃貸借契約を締結しようとする者の物件選択上の意思決定に影響を与える重要な情報になり得るとしても、大規模修繕工事が、原則として賃貸借契約の対象である専有部分に及ぶものではなく、期間も限定的であって、居住の利便性に重大な影響を与えるものとまではいえないし、賃借人に何らかの経済的負担を及ぼすものでもないことからすれば、通常の一般人の基準に照らせば、大規模修繕工事が行われることを知っていれば契約を締結しないことが通常であるとまではいえない。したがって、大規模修繕工事の有無に関する錯誤は、賃貸借契約の締結に際し、大規模修繕工事とは両立し得ないような動機が表示されていない限り、民法95条の要素の錯誤には当たらないというべきである。

監修者のコメント

 大規模修繕工事は、その内容は千差万別であるが、居住環境に大きな影響を及ぼす。マンションの区分所有者にとっては、資産価値の維持、増加をもたらすというそれなりのメリットがあるが、賃借人にとっては殆どメリットはなく、生活環境の悪化をもたらすデメリットのみと言っても過言ではない。本ケースのような事例では賃借人を早く見付けたいためにあえて言わない不誠実な賃貸人も見受けられる。仮に故意に隠すつもりはなくても、契約締結をするかどうかの重要な判断事由であるから、たとえ、今すぐでなくても工事の予定が決まっていることを知っている以上、信義則上の告知説明義務があるというべきである。なお、マンション賃貸の媒介業者としては、この調査確認をしなかった点に問題があると言わざるを得ない。媒介業者の行うべき業務の参考となるケースである。

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