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2304-B-0318
未完成物件の売買において売主(宅建業者)の「履行の着手」の時期を特約することの可否

 宅建業者が売主で宅建業者以外の者が買主となる未完成物件の売買で、売主(宅建業者)の「履行の着手」の時期を、建物完成後に実施する「内覧会」の時期と特約したい。

事実関係

 当社はデベロッパーであるが、当社がいわゆる青田で分譲する建売住宅や分譲マンションについて、買主とのトラブルを防止するために、売主(当社)の「履行の着手」の時期を契約書上に明記したうえで、売買契約を締結したいと考えている。「履行の着手」の時期は、建物完成後に実施する「内覧会」の時期と特約したいが、「内覧会」の際に、手直し箇所が多すぎて、買主が「手付解除」を申し出ることが想定される。
 また、建物工事の進捗状況により、オプション工事(一部設計変更工事)が「内覧会」の実施時期までに完了できないことが予想されるが、売主としては、「内覧会」の実施をもって、売買契約についての履行に着手したこととしたい。
 もちろん売買契約の締結にあたっては、手付を、売買代金の20%相当額以下に設定することにしている。

質 問

1.  売主(当社)の「履行の着手」の時期を契約書上に明記することは、宅建業法に抵触するか。
2.  売主(当社)の「履行の着手」の時期を、建物の完成後に行う、いわゆる「内覧会」の実施の時期と特約したときは、その特約は宅建業法第39条第3項に抵触するか。
3.  買主が、前記2.の特約をしたが、「内覧会」の際に手直し箇所があまりに多いため、手付放棄で契約を解除すると申し出た場合、その手付解除は認められるか。
4.  当社(売主)が、建物の建築中に買主からオプション工事(一部設計変更工事)を引き受けた場合に、その工事の完成が「内覧会」の実施までに間に合わなかったときは、当社は、その「内覧会」の実施をもって、売買契約についての履行に着手したことになるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 「履行の着手」の時期を契約書に明記すること自体は、宅建業法に抵触しない。しかし、その具体的な内容が、法の定める「履行の着手」と認められるものになっていない場合には、その特約は、民法第557条に定めるものより買主に不利な特約として、無効とされる(宅地建物取引業法第39条第3項)。
 質問2.について ― 断定はできないが、抵触しないと解される可能性はある。ただし、着手の時期を「内覧会」の実施の時期とするということで、売買契約の締結日に、その予定日としての具体的な期日だけを契約書に記載した場合には、「手付解除の期限」を定めたものとして、その期日の定めが無効とされる可能性がある。
 質問3.について ― 手直し箇所の内容いかんにもよるが、基本的には、「内覧会」の実施後の手付解除はかなり難しいと考えられる。
 質問4.について ― 建物本体の工事が完成しているのであれば、履行の着手があったとされる可能性はある。しかし、その設計変更が、建物本体の完成に影響を与えるものである場合には、その設計変更工事の完成をもって、履行の着手があったとされる可能性が高い。
2.  理 由
⑵について
 民法は、売買契約において、売主が履行に着手するまでは、買主は手付を放棄して売買契約を解除することができる旨を定めている(民法第557条)。そしてそれを受けて、宅地建物取引業法は、その第39条第3項において、宅建業者が売主で宅建業者以外の者が買主となる売買契約においては、その民法第557条の規定より買主に不利となる特約を定めたときは、その特約は無効とするとしている。すなわち、宅地建物取引業法は、宅建業者が売主で宅建業者以外の者が買主となる売買契約においては、売主(宅建業者)が履行に着手するまでは、買主がいつでも手付解除ができるようにしておかなければならないとしているのである。
 然らば、「履行の着手」とはどのようなことをいうのであろうか。その点について最高裁は、「履行の着手とは、債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識できる形で、履行行為の一部を行ったり、履行の提供に不可欠な前提行為をした場合を指す」としている(最判昭和40年11月24日民集19巻8号2019頁)。
 それでは、実際の取引において、具体的にどのような行為が行われたときに、売主に履行の着手があったということになるのであろうか。
 本件の売主(宅建業者)は、売主の「履行の着手」の時期を建物本体が完成した後の「内覧会」の実施の時期としており、したがって、この特約は、買主にとっては、かなりの期間、契約の見直しをすることができるといえ、他方売主にとっては、「建物の完成」という履行の提供に不可欠な前提行為を行ってきており、この時点以降での契約の解除は売主にとって酷であると考えることができるので、この「内覧会」の実施時期を「履行の着手」の時期とする当事者間の合意は、それなりの合理的な根拠があり、有効なものと判断される可能性があると考えることができよう。
について
 買主が「内覧会」に出席したということは、売主の「履行の提供」のための準備行為に対し、買主がこれを受け入れるという意思を表示したということになるし、そのための「建物の完成」や「内覧会」の実施が売主の履行の提供に不可欠な前提行為になると解されるからである。
について
 (略)

参照条文

 民法第557条(手付)
   買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
   (略)
 宅地建物取引業法第39条(手付の額の制限等)
   宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して、代金の10分の2を超える額の手付を受領することができない。
   宅地建物取引業者が、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して手付を受領したときは、その手付がいかなる性質のものであっても、買主はその手付を放棄して、当該宅地建物取引業者はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
   前項の規定に反する特約で、買主に不利なものは、無効とする。

監修者のコメント

 本件の「内覧会」を「履行の着手」とみてよいかという問題は、裁判において争われてもよい難しい問題である。「履行の着手」の概念については、回答が引用している昭和40年の最高裁がその判断基準を打ち出しているが、最高裁はその後、別の事案で、履行の着手にあたるかどうかの判断にあたっては、「当該行為の態様、債務の内容、履行期が定められた趣旨・目的等諸般の事情を総合判断して決すべきである。」と述べている(平成5年3月16日判決)が、いずれにせよ抽象的である。
 本ケースの「内覧会」の時期とすることが、解約手付による解除の時期制限として買主に不公平かどうかの観点からみる限り、回答のとおり、ギリギリ認められると解され、そうすると宅建業法にも抵触しないと解される。
 ただ、「内覧会」と決めるのは、曖昧で紛争を生じさせる余地がある。なぜなら、内覧会は一時点ではなく、開始から終了まで時間的な幅があり、内覧会当日の手付解除が認められるかどうか争われる余地があるからである。この点、「内覧会が終了した時」を「履行の着手」とみるとすることにより、より有効な特約の方向に近づけるのではないかと考える。

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