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2302-R-0260掲載日:2023年2月
連帯保証人は、定期建物賃貸借契約期間終了後の明渡猶予期間中の賃借人の債務を保証する義務があるか。
賃貸人は、通知期間内の終了通知を失念し、賃借人は契約期間満了後も入居していたが、使用料を支払わずに行方不明になったため、連帯保証人に滞納使用料の支払いを求めたところ、当初の賃貸借契約期間後の支払い義務はないと支払いを拒否された。
事実関係
当社は、賃貸の媒介業者である。3年前に当社が媒介した定期建物賃貸借契約の賃貸人から相談があった。契約期間は3年であったが、賃貸人は、賃借人への期間満了の6か月前までの通知期間内の終了通知を失念し、満了日の2か月前に郵送により終了の通知をしたところ、賃借人から、通知が到達した日以降、6か月間は明渡猶予があるため、期間満了日の4か月後に退去する旨の連絡があった。賃貸人は、自身の落ち度であり、明渡猶予はやむを得ず、その間は賃料相当の使用料を賃借人が支払うことで双方が折り合った。しかし、当初期間の満了月までの賃料滞納はなかったが、猶予期間の2か月分の使用料が支払われず、賃貸人は賃借人が入居している部屋へ赴いて督促に行ったところ、賃借人は、すでに退去した様子であった。賃貸人は、賃借人の自宅及び勤務先に連絡したが、自宅はつながらず、勤務先はすでに退職しており、連絡が取れない状態となった。
賃貸人は、定期借家契約時の連帯保証人に連絡し、賃借人が2か月分の使用料を滞納し、連絡もつかないので、使用料の滞納分の支払いを請求したところ、保証人は、当初の契約期間満了後に賃借人が明渡猶予により入居していたことは知らなかった。保証人は、定期建物賃貸借契約は期間満了となっており、保証人の保証義務は、当初の賃貸借期間であり、その後の保証債務は対象でない主張し、賃借人の滞納使用料の支払いを拒否している。
質 問
連帯保証人は、賃借人の定期建物賃貸借契約終了後の賃料相当分の滞納使用料についても支払い義務があるか。
回 答
1. | 結 論 |
定期建物賃貸借契約の連帯保証人は、契約期間終了後の賃借人の債務を支払う義務はない。 | |
2. | 理 由 |
定期建物賃貸借契約は、更新がなく、当初約定の契約期間満了により、確定的に終了する(借地借家法第38条第1項、同第3項)ため、契約の終了に伴い、賃貸人と連帯保証人間の連帯保証契約も終了する。期間の定めのある普通賃貸借契約においては、「賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意されたものと解するのが相当」とした最高裁判例があり、更新後の賃借人の債務についても責任は免れないと解している(最高裁平成9年11月13日)。しかし、定期建物賃貸借契約では、期間満了後の保証人の保証は、賃貸人との間で新たな連帯保証契約の締結が必要となる。 定期建物賃貸借契約の期間満了後の賃借人の債務(賃料及び賃料相当分や原状回復費用負担等)には、次の3通りが考えられる。一つは、当初契約終了後の定期建物契約の再契約の場合である。賃貸人と賃借人との合意により、定期建物賃貸借の再契約または普通賃貸借契約が成立しても、賃貸人は、連帯保証人とは改めて連帯保証契約を結ぶ必要がある。新たな連帯保証契約がなければ、賃貸人は、連帯保証人に対して再契約や新規契約後の賃借人の賃料等の債務を請求することができない。第二に、相談ケースのように、賃貸人の過怠により通知期間内に終了通知をしなかったことによる賃借人の明渡猶予(同法第38条第6項但書)の際の賃料相当の賃借物使用料である。この場合の使用料は、賃貸人の事由に起因する明渡猶予中の賃借人の債務であり、賃借人の責めによる明渡遅延による損害金には該当せず、賃料を上回る金銭の要求はできないであろう。第三に、当初の定期建物賃貸借契約の期間の延長による賃料債務がある。賃貸人と賃借人との合意により、当初の契約期間を延長する場合がある。連帯保証人にとっては、契約当事者の延長は想定しておらず、保証人の保証は、期間満了で終了することになり、連帯保証の延長の合意や新たな保証契約がなければ、いわば無保証状態となってしまう。 定期建物賃貸借契約の期間満了後の再契約、明渡猶予期間中及び延長期間の保証人の保証継続の存否に関する裁判例はないようだが、国土交通省は、定期賃貸住宅標準契約書コメントで、同契約における期間満了後の賃借人の居住継続によって生ずる債務については連帯保証人の保証債務の対象でなく、また、再契約した場合には、新たな連帯保証契約の締結が必要である旨の記載がある(後掲、「定期賃貸住宅標準契約書コメント」参照)。賃貸の媒介あるいは管理業者は、当初の契約期間が終了し、再契約等、契約期間が変更、延長する場合には留意しておきたい。 |
参照条文
○ | 民法第446条(保証人の責任等) | ||
① | 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。 | ||
② | 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。 | ||
③ | (略) | ||
○ | 借地借家法第38条(定期建物賃貸借) | ||
① | 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第30条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第29条第1項の規定を適用しない。 | ||
② | (略) | ||
③ | 第1項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。 | ||
④ | ・⑤ (略) | ||
⑥ | 第1項の規定による建物の賃貸借において、期間が1年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の1年前から6か月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から6か月を経過した後は、この限りでない。 | ||
⑦ | 〜⑨ (略) | ||
○ | 国土交通省・定期賃貸住宅標準契約書コメント「第16条(連帯保証人)関係」 | ||
① | 連帯保証人が賃借人と連帯して負担すべき債務は、原則として本契約の期間内に生じる賃借人の債務であるが、本契約の期間が満了した後に賃借人が不法に居住を継続した場合における賃料相当額、損害賠償金等の賃借人の債務についても対象となるものである。他方、賃貸人が定期賃貸住宅標準契約書第2条第3項の通知(注)を怠った結果、本契約の期間が満了した後も賃借人が居住を継続することによって生じる債務については、賃貸人の原因で生じた債務まで連帯保証人に追加的に負担させることは適当でないため、連帯保証人の保証債務の対象としていない。 | ||
② | 再契約する場合においては、本契約は確定的に終了することから、新たな連帯保証契約の締結が必要となる。 (注) 定期賃貸住宅標準契約書第2条第3項「貸主は、第1項に規定する期間の満了の1年前から6月前までの間(以下「通知期間」という。)に借主に対し、期間の満了により賃貸借が終了する旨を書面によって通知するものとする。」 |
監修者のコメント
定期建物賃貸借契約において終了通知を出すのを失念していた場合、その通知到達から6か月までの間、賃貸借の期間が延長されると誤解する向きがある。例えば、期間満了の1か月前に終了通知をしたときは、契約期間が5か月間延長されると考えるのは誤りである。その5か月間は賃貸人は契約終了を理由とする明渡しを求めることができない、「終了を対抗」できないのであって、契約自体は当初の約定の時期に満了している。
したがって、連帯保証人の保証の趣旨からみても、回答のとおり、終了後の使用料については保証責任は負わない。公刊物で知る限り裁判例はないが、おそらく異論のない結論と思われる。