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2302-R-0258掲載日:2023年2月
居住用建物賃貸借における借主からの中途解約に対するペナルティ
賃貸物件のオーナーから、借主の中途解約を防止するための方策を検討するよう要請されることがあるが、契約書に中途解約を禁止する条項を定めることはできるか。中途解約を制限する方策として、ペナルティ条項を定めることはどうか。
事実関係
当社は媒介業者兼管理業者であるが、賃貸物件のオーナーから、「借主の中途解約が多いので、何とか契約期間中は解約できないようにすることはできないか」という申入れがなされることがある。
質 問
1. | 居住用の建物賃貸借契約において、借主からの中途解約を禁止する条項を定めることはできるか。 |
2. | 借主からの中途解約を禁止した場合、どのような問題が生じるか。 |
3. | 借主が禁止条項に違反して、勝手に建物を明け渡した場合、契約はどうなるか。 |
4. | 借主からの中途解約を制限するために、たとえば2年契約の場合に、1年以内の解約の場合にはそのペナルティとして、賃料の6か月分相当額の損害金を定めることはできるか。1年超2年以内の解約の場合に、そのペナルティを賃料の3か月分相当額とすることはどうか。 |
5. | 賃貸借契約書に中途解約についての条項を全く定めなかった場合、借主は中途解約ができるのか。 |
回 答
1. | 結 論 | ||
⑴ | 質問1.について ― 中途解約を禁止する条項を定めることはできる。 | ||
⑵ | 質問2.について ― 中途解約を禁止した場合は、借主が現れなくなるか、現れたとしても、そのほとんどは禁止条項の削除・修正を求めてくると考えられる。 | ||
⑶ | 質問3.について ― 借主が建物を明け渡したとしても、期間を定めた契約の場合には、原則として契約は期間が満了するまで存続する(期間を定めない場合―たとえば、法定更新されたような場合―には、借主からの3か月前の予告をもって契約は終了する(民法第617条第2項第2号))。したがって、借主としては、残存期間が長い場合には、勝手に建物を明け渡すようなことをしないで、ある程度のペナルティを支払ってでも、話し合いで契約を終了させるようにすべきであろう(合意解約)。 | ||
⑷ | 質問4.について ― 1年以内の解約の場合のペナルティ6か月分という損害金の定めは、消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)の規定との関係で、その無効を主張される可能性があるが、1年超2年以内の解約の場合のペナルティ3か月分という損害金の定めは、次の入居者が決まるまでの損害金として妥当な範囲内の定めと考えられる。ただ、この場合にあっても、このペナルティの3か月分が、中途解約に伴う原状回復等の費用とは別個の違約金であることを事前に十分説明しておかないと、トラブルになる可能性があるので、注意が必要である。 | ||
⑸ | 質問5.について ― 中途解約についての定めがないということは、中途解約についての特約がないということであるから、期間を定めた契約の場合には、その契約期間内は借主からの申入れであっても、中途解約をすることはできない。したがって、この場合も、上記⑶のケースと同じように、借主としてはある程度のペナルティを支払ってでも、合意で契約を終了させるしかないということになろう(解除契約)。 なお、貸主があくまでも中途解約を認めないため、合意解約が成立せず、やむを得ず借主が建物を明け渡した場合に、貸主が次の入居者を募集しないまま期間満了まで賃料を請求することができるかどうかについては、ケースによっては、信義則上、権利の濫用とされる可能性もあろう(民法第1条) |
参照条文
○ | 民法第1条(基本原則) | ||
① | (略) | ||
② | 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。 | ||
③ | 権利の濫用は、これを許さない。 | ||
○ | 民法第617条(期間の定めのない賃貸借の解約申入れ) | ||
① | 当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。 | ||
一 | 土地の賃貸借 1年 | ||
二 | 建物の賃貸借 3か月 | ||
三 | (略) | ||
② | (略) | ||
○ | 消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効) | ||
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。 |
監修者のコメント
契約期間を定めた賃貸借においては、借主はその契約期間中は、自由に解約することはできない。ただ、借主がいろいろな事情でその物件を賃借する必要がなくなった場合にまで、当初の契約期間中は絶対に借り続けなければならないというのも不合理である。そこで、世上多くの賃貸借では、借主から1か月とか2か月の予告期間をもって中途解約できる旨の特約をし、そのことが契約書に明記されていることが多い。しかし、その中途解約は、あくまでも契約当事者間の「特約」によってできるものであるから、その旨の「特約」がなければ、借主は契約期間中は中途解約ができない。したがって、質問の中途解約を禁止する条項を定めることができるか、という点については、当然定めることができるが、わざわざ禁止する条項を定めなくても、法理論上、中途解約ができる旨の条項を設けない限り、借主は中途解約ができない。それゆえに、定期建物賃貸借においては、借主保護の見地から、一定の場合には1か月の予告期間で中途解約ができる旨を法律で保障したのであり(借地借家法第38条第7項)、それは本来であればできないからである。
なお、中途解約のペナルティを設けることと消費者契約法第10条との関係は、一応回答のように言うこともできるが、まだ確立した判例がないので難しい問題であるが、敷金償却(敷引き)や更新料の支払特約に関する近時の最高裁判決から推測すると、回答のように3か月分程度の違約金は、それについて借主が十分に認識した上で契約を締結したといえるのであれば、有効な特約と解することができるであろう。