不動産相談

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ホームページに掲載しています不動産相談事例の「回答」「参照条文」「参照判例」「監修者のコメント」は、改正民法(令和2年4月1日施行)に依らず、旧民法で表示されているものが含まれております。適宜、改正民法を参照または読み替えていただくようお願いいたします。

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不動産のプロフェッショナル

ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
掲載にあたっては、プライバシーの保護のため、相談者等の氏名・企業名はすべて匿名にしてあります。
また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

2212-B-0314
財産分与の審判前に、建物名義人である元夫は、元妻に対して建物明渡しの請求ができるか。

 離婚した元夫は、本人名義のマンションの売却を考えている。そのマンションには元妻が離婚成立以後も居住している。元夫婦は裁判所において財産分与の審判中であるが、元夫は、マンション売却のために元妻を退去させたいと考えている。

事実関係

 当社は売買の媒介業者である。区分マンションの所有者から売却の相談があった。依頼者は、最近離婚している。所有者である元夫は、勤務先の関係で当該マンションには居住していないが、元妻と子が居住している。子の養育権と元夫の養育費支払いに関しては、別の裁判で決定されているが、現在、元妻は元夫に対して、財産分与を求めて審判中である。当該マンションは、元夫が、元妻との婚姻後に取得したものであるが、購入資金の大半は元夫が住宅ローンを組んで購入した。購入後に地価が下がり、不動産価格が下落したこともあり、マンションの当社の査定金額は、購入したときの価格を下回っており、ローン残高が査定価額を上回っている。依頼者は、売却価格を超える住宅ローン残額との差額も負担することで抵当権抹消が可能であるとして売却の意向が強い。当社は依頼者に、売却後は入居中の元妻と子は退去させる必要があることを伝えたが、元妻は、婚姻後に取得したマンションであり、自分にもマンションの共有持分があると主張していてマンションを明け渡すことを拒んでいるようだ。

質 問

1.  元夫が、婚姻後に自己の資金と住宅ローン融資を受けて購入したマンションでも、元妻に共有持分権があるのか。
2.  元夫は、元妻に対して、マンションの明渡しを求めることができるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 婚姻後に取得された財産は、離婚時の財産分与の対象となる実質的な共有財産に該当するが、財産分与手続前であり、当然に元妻が共有持分権を有するものでないと解する。
 質問2.について ― 財産分与の申立による係争中で、元妻に対して共有持分権が財産分与される可能性もあり、元夫の元妻に対する建物明渡請求が権利の濫用となる場合がある。
2.  理 由
⑵について
 婚姻した夫婦間の財産の帰属は、夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中に自己の名で得た財産は、その特有財産とされている。特有財産とは、夫婦の一方が単独で有する財産である(民法第762条第1項)。相談ケースのように、婚姻後に元夫が夫名義で自己資金に加え住宅ローンを借り入れてマンションを購入した場合、夫婦の一方が単独で有する財産である特有財産である。婚姻以前に元夫が取得していた財産は特別の事情がない限り、元夫の特有財産である。なお、婚姻後、マンション購入をする際、元妻が資金の一部を負担している場合に、元妻名義の共有登記をしていなくても、元妻も実質的に資金提供したとして夫婦の共有財産とみなされる場合がある。
 一方、元妻が資金負担していなくても、元妻からすると婚姻後に夫が取得した財産は、妻の協力があって取得できたとの思いを抱いていることもある。夫婦である間は特段の問題はないが、婚姻解消のときに夫婦の財産形成の寄与度、いわゆる妻の内助の功を主張するためしばしば財産の帰属が問題になることがある。婚姻解消には、夫が妻より先に死亡する場合と離婚する場合が考えられる。妻が夫の財産を相続するときは妻である配偶者の法定相続分の割合が多く規定されている。離婚の際は、元妻は元夫に対して財産の分与の請求ができる権利があり(同法第768条第1項)、財産分与の協議が当事者間で調わないときは、裁判所に処分の請求ができる。裁判所は、処分にあたり、婚姻時の夫婦間の協力も考慮することができ(同法第768条第2項、第3項)、元妻は、相続及び財産分与において、配偶者の権利が法律上保護されていると言える。
 財産分与の協議中や審判中は、元妻の共有持分権は確定しておらず、共有であるとの元妻の主張を断定することはできない。裁判例でも、「協議または審判によってはじめて具体的な権利性を有すると解するのが相当であることに加え、本件マンションの住宅ローンの負債額が、元夫及び元妻の総資産額の合計を上回っていると認められるから、審判中において、元妻が、本件マンションに対し、具体的な共有持分権を有しているとすることはできない」としながらも、「婚姻期間中に形成された財産関係の離婚に伴う清算は財産分与手続によるのが原則であるから、本件マンションの帰趨は財産分与手続で決せられるべきであり、このことは本件マンションの住宅ローンの負債額が、元夫及び元妻の総資産額の合計を上回っている場合であっても変わらない。このような意味で、元妻は、財産分与との関係で、本件マンションの潜在的持分を有している」と共有持分の権利が発生する可能性を示唆している。そして、財産の帰趨が決定していない段階で、元夫が妻に対してマンションの明渡しを求めることは、「元妻の潜在的持分を不当に害する行為と評価すべきであり、権利濫用に当たり許されない」と明渡しの請求を認めなかった。なお、元妻が離婚成立後に元夫のマンションに居住することは所有権侵害の不法行為であるとして、元妻は、賃料相当損害金の支払義務を負うとしている(【参照判例①】参照)
 なお、家庭裁判所は、婚姻中に夫婦が協力して得た不動産の財産分与の審判において、一方当事者に財産分与しないと判断した場合、その一方当事者に対して明渡しを命じた裁判例がある(【参照判例②】参照)。

参照条文

 民法第1条(基本原則)
  ・② (略)
 同法第249条(共有物の使用)
   各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
 同法第762条(夫婦間における財産の帰属)
   夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
   夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。
 同法第768条(財産分与)
   協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
   前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。
   前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
 家事事件手続法第154条(給付命令等)
   家庭裁判所は、夫婦間の協力扶助に関する処分の審判において、扶助の程度若しくは方法を定め、又はこれを変更することができる。
   家庭裁判所は、次に掲げる審判において、当事者(第二号の審判にあっては、夫又は妻)に対し、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
    ~三 (略)
     財産の分与に関する処分の審判
  ・④ (略)

参照判例①

 札幌地裁平成30年7月26日 判時2423号106頁(要旨)
 協議ないし審判前の財産分与請求権は、協議・審判によって具体的内容を決定されることを要する権利であり、協議または審判によってはじめて具体的な権利性を有すると解するのが相当であることに加え、本件マンションの住宅ローンの負債額が、元夫及び元妻の総資産額の合計を上回っていると認められるから、現時点において、元妻が、本件マンションに対し、具体的な共有持分権を有しているとすることはできない。(中略)
 婚姻期間中に形成された財産関係の離婚に伴う清算は財産分与手続によるのが原則であるから、本件マンションの帰趨は財産分与手続で決せられるべきであり、このことは本件マンションの住宅ローンの負債額が、元夫及び元妻の総資産額の合計を上回っている場合であっても変わらない。このような意味で、元妻は、財産分与との関係で、本件マンションの潜在的持分を有しているところ、当該部分はいまだ潜在的、未定的なものであっても財産分与の当事者間で十分に尊重されるべきである。よって、元夫が、近々財産分与申立事件の審判が下される見込みである中、同手続外で本件マンションの帰趨を決することを求めることは、元妻の潜在的持分を不当に害する行為と評価すべきであり、権利濫用に当たるというべきである。さらに、上記帰結が元夫に与える影響を検討しても、現在、元夫は、他所に居住しており本件マンションに居住する必要がないことや、元妻が元夫に賃料相当額を支払うことにより一定程度緩和されることに照らすと、元夫に酷な結果をもたらすことになるとは認められない。
 以上によれば、元夫の各種主張等を考慮しても、本件において、元夫が、元妻に対し、現時点において、本件マンションの明け渡しを求めることは、権利濫用にあたり許されない。
 元妻には、元夫との離婚成立以降、本件のマンションの占有権限がないから、元妻は、元夫に対し、本件マンションの所有権侵害の不法行為に基づき、遅くとも離婚成立の翌日から本件マンションの明渡済みまで、賃料相当損害金の支払義務を負う。
 これに対して、元妻は、元夫の賃料相当損害金の請求は権利濫用と主張するが、元夫に不当な目的は認められないことや、養育費に関する〇〇高等裁判所の決定は、その決定内容に照らせば、元妻及び子が本件マンションを無償で使用することまでを容認したものではないことを総合勘案すると、同請求が権利濫用であるとは言えない。

参照判例②

 最高裁令和2年8月6日(要旨)
 家庭裁判所は、財産分与の審判において、当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の不動産であって他方当事者が占有するものにつき、当該他方当事者 に分与しないものと判断した場合、その判断に沿った権利関係を実現するため必要と認めるときは、家事事件手続法154条2項4号に基づき、当該他方当事者に対し、当該一方当事者にこれを明け渡すよう命ずることができると解するのが相当である。

監修者のコメント

 本相談ケースは、マンション売却のための前提条件に関する質問であり、質問に対する一般的な回答としては、回答の「結論」「理由」のとおりである。ただ、離婚に伴う財産分与は、夫婦が婚姻中に形成した財産の清算だけでなく、一方配偶者の扶養の考慮、あるいは離婚の原因となった慰謝料的性格のものも含まれ、夫婦間の一切の事情を総合的に判断しなければならないので、100のケースがあれば100の違う結論になる可能性がある。したがって、媒介業者が一方配偶者から事情を聴いて、その事情を基礎に判断することは危険である。
 財産分与の審判において、マンションその他の財産の帰すうが確定してから媒介に関与することが、トラブル防止、取引の相手方保護の観点から適切である。

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