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2212-B-0313
抵当不動産を競落した買受人は、無断で入居している転使用借人に対し、競落物件の引渡しを求めることができるか。

 当社は、再販売目的で一戸建を競売で取得したが、前所有者が賃貸していて、実際に入居しているのは、前所有者に無断で転借している転借人であった。当社は、転借人に即時の明渡しを求めたが、転借人は6か月の明渡猶予があると主張して退去に応じない。

事実関係

 当社は宅建業者であるが、販売用不動産にする目的で、一戸建を競売により落札した。 裁判所による競落物件の売却許可決定後、競落代金全額は3か月前に所定金融機関に納付済みである。競落した建物は、前所有者が賃貸していて賃借人との間で賃貸借契約を締結していた。しかし、実際は、賃借人が、姻戚関係にある者に無償で住まわせていた。賃借人は、貸主であった前賃貸人の承諾を得ずに、その転使用借人を1年以上占有させている。賃借人が前所有者との間で賃貸借契約を締結した時には、当該物件には前所有者を債務者とする抵当権が設定されていた。
 当社は、無償で占有している転借人に対して、退去を申し入れたが、転借人は、転借人の貸主である賃借人には、一定期間の明渡猶予があり、自分も明渡しが猶予されると主張して、猶予期間内は入居を継続する予定であるとして退去に応じない。賃借人に対しても、転借人を退去させるように要請したが、賃借人には、明渡しの猶予期間が保証されており、転借人に代わって賃借人自身が入居して、転借人は、履行補助者として同居させると言っている。
 当社としては、当該物件を再販売する予定であり、リフォーム工事も実施したいと考えているため、一刻も早く転借人を退去させたい。転借人が退去を承諾しないのであれば、裁判所に対して、競落した物件の引渡命令を求めることも考えている。

質 問

 抵当権に劣後して賃貸借契約を締結した賃借人が賃貸人の承諾を得ないで転借した転使用借人は、競売物件の明渡猶予の保護の対象になるか。

回 答

1.  結 論
 賃貸人の承諾のない転使用借人には明渡しの猶予は認められないと解する。
2.  理 由
 賃貸借契約のある抵当不動産が競売になった場合、抵当権設定以前に賃貸借契約が結ばれ、賃借人が引渡しを受けているときは、その賃借権は抵当権に優先し、賃借人は引き続き占有することができるが、抵当権設定後に賃借権を取得した賃借人は、競売手続の開始前から使用又は収益をしており、6か月間の引渡猶予によりその期間の占有を保護され、競売物件を買受人に引き渡すことを要しない(民法第395条第1項)。転借人の場合も明渡猶予の保護の対象になるかに関しては、賃貸人が前所有者の承諾を得ている転借人は、賃貸借あるいは使用貸借であっても、適法に占有している転借人は賃借人と同様、保護される。裁判例でも「建物の売却以前に前所有者(抵当権設定者)が建物の明渡しを求めることができない地位にあった転借人は、競売による売却によって突然退去を求められることになるため前所有者からの賃借人と同様に同条項の保護の対象とする必要があり、賃借人の賃借権を基礎とする占有者として同項の保護を受けることができる」と判断している(【参照判例】参照)。しかし、前所有者である賃貸人の承諾を得ないでした賃借人と転借人間の転貸借契約は、賃借人の違反行為であり、賃貸人は、賃貸人が所有していたときには契約を解除して(同法第612条)、転借人に明渡しを要求することができ、競落物件の買受人も転借人に明渡しを要求することが可能である。賃借人の背信行為により占有していた転借人は、「前所有者が明渡しを求めることができた転借人」として、「常に明渡請求を覚悟しておかなければならない立場にあったのであるから、明渡猶予の保護の対象とはならないというべき」と判示している。また、賃借人に明渡猶予があったとしても、「賃借人の無断転貸行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情」がある場合でない限り、賃貸人は、賃貸借契約を解除することができるし(民法第612条)、解除をしなくとも転借人に対して賃借物の返還を求めることができるとされている(最高裁昭和26年5月31日)。すなわち、民法は、転借人について、賃貸人との関係では、賃借人の賃借権が保護されるからといってそれを基礎とする転借権も当然に保護されるとする立場を採っていない」とし、相談ケースのような無断短期借人(使用借人)は、明渡猶予の保護対象でないと解している(【参照判例】参照)。
 これらの判断により、裁判所は、代金を納付した買受人の申立てにより、債務者または不動産の占有者に対し、競落物件の引渡しを命ずることができる(民事執行法第83条)。

参照条文

 民法第395条(抵当建物使用者の引渡しの猶予)
   抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から6箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
     競売手続の開始前から使用又は収益をする者
     (略)
   (略)
 同法第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
   賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
   賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
 民事執行法第83条(引渡命令)
   執行裁判所は、代金を納付した買受人の申立てにより、債務者又は不動産の占有者に対し、不動産を買受人に引き渡すべき旨を命ずることができる。ただし、事件の記録上買受人に対抗することができる権原により占有していると認められる者に対しては、この限りでない。
   買受人は、代金を納付した日から6月(買受けの時に民法第395条第1項に規定する抵当建物使用者が占有していた建物の買受人にあっては、9月)を経過したときは、前項の申立てをすることができない。
  ~⑤ (略)

参照判例

 東京高裁平成20年4月25日 判タ1279号333頁(要旨) 
 民法第395条第1項の建物明渡猶予制度は、短期賃貸借制度を廃止する一方、競売による建物の売却によって突然生活・営業の本拠から退去を求められることにより被る不利益を避けるため、抵当権者に対抗することができない賃貸借に基づき抵当建物を占有する者に対し、一律に一定期間の明渡しの猶予を認めるものである。そうすると、建物の売却以前に前所有者(抵当権設定者)が建物の明渡しを求めることができない地位にあった転借人は、競売による売却によって突然退去を求められることになるため前所有者からの賃借人と同様に同条項の保護の対象とする必要があり、賃借人の賃借権を基礎とする占有者として同項の保護を受けることができるというべきであるが、前所有者が明渡しを求めることができた転借人については、常に明渡請求を覚悟しておかなければならない立場にあったのであるから、上記の趣旨に照らして同条項の保護の対象とはならないというべきである。前所有者が明渡しを求めることができた転借人についてまで同条項の保護の対象とすることは、同条項の改正以前にも保護されていなかった者に新たに明渡猶予の利益を与えることになり、抵当物件の価値を低下させることになるので、同条項の改正の趣旨にも沿わない。
 ところで、賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用収益をさせた場合には、「賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情」がある場合でない限り、賃貸人は、賃貸借契約を解除することができるし(民法第612条)、解除をしなくとも転借人に対して賃借物の返還を求めることができるとされている(最高裁昭和26年5月31日)。すなわち、民法は、転借人について、賃貸人との関係では、賃借人の賃借権が保護されるからといってそれを基礎とする転借権も当然に保護されるとする立場を採っていないのである。

監修者のコメント

 本相談ケースの占有者(無断転使用借人)が、法律的に自らの主張が正しいと信じているのか、それとも正しくないと知りながら明渡しを拒んでいるのかは、分からないが、このようなケースはしばしばあることである。法律的な結論と理由は、回答のとおりであり、見解が分かれる問題ではないので、参照判例などを示して、その占有者の主張が誤りであることを教示し、損害賠償責任を負うこともあり得ることを説明することが必要であろう。

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