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2212-B-0312掲載日:2022年12月
サブリース物件の売買に伴う入居者(転借人)の立場
サブリース中の物件の売買の媒介に際し、入居者(転借人)の1人から、「私達の権利(転借権)は、貸主(オーナー)が転貸借を承諾しているので、競売がなされた場合でも、競落人に対抗できる(そのまま住んでいられる)と考えているが、それは正しいか」という質問があった。その理由は、昭和8年の大審院の判例に、そのような記述があるからだというものである。その入居者(転借人)の言うことは、正しいか。
事実関係
当社は、このたびサブリース中の物件の売買の媒介をするが、入居者(転借人)の1人から、「私達の転貸借は、賃貸人(オーナー)が承諾している転貸借であるから、物件が競売された場合にも、その譲受人となる競落人に対抗できる(そのまま住んでいられる)転貸借だと考えているが、その考え方は正しいか」という質問があった。
そこで、その理由を聞いたところ、転借人は、「転貸借の当時に賃貸人(オーナー)の承諾を得れば、その賃貸借が第三者に対する対抗要件を備えている限り、転貸借について対抗要件を備えていなくても、賃借物の譲受人に対し転貸借の適法を主張できる」という大審院の判例(昭和8年7月7日)があるからだというのである。
質 問
この入居者(転借人)の考えていることは正しいか。
回 答
1. | 結 論 |
この入居者(転借人)が言っている「競落人に対抗できる」という意味が、今回の売買(オーナーチェンジ)によって「新たなオーナー(賃貸人)と金融機関との間で設定される新たな抵当権」の実行による競落人に対抗できるという意味であれば、現在すでに入居している転借人に対しては、正しいといえる。しかし、その抵当権の実行が、抵当権の移転などによる従前の抵当権の実行であったり、新たな抵当権の実行であっても、その新たな抵当権の登記のあとに入居した転借人に対しては、正しいとはいえない。 | |
2. | 理 由 |
大審院の判例で言っている「譲受人」には、通常の売買などによる「譲受人」のほか、抵当権の実行による「競落人」なども含まれる。したがって、賃借人(サブリース業者)に対抗できる抵当権者―すなわち賃借人(サブリース業者)が賃貸人(オーナー)との賃貸借契約に基づいて物件の引渡しを受けるより前に、抵当権の登記を経由した抵当権者―が申し立てた競売による競落人には転借権を対抗することはできない。なぜならば、転借権はあくまでも賃借権の範囲内で成り立つ権利であるから、賃借権が競売によって消滅してしまえば、転借権も消滅してしまうからである。 しかし、【回答】の結論で述べたとおり、今回の売買(オーナーチェンジ)によって従前の抵当権が抹消され、新たなオーナーと金融機関等との間で新たな抵当権が設定されるのであれば(それが通常であろうが)、その抵当権の登記の日より前に入居している現在の入居者(転借人)はすべて抵当権者に対抗できる転借人ということになる。 なお、本件のような入居者のいるサブリース物件のオーナーチェンジが行われた場合には、特段の事情がない限り、旧オーナーとサブリース業者との間の賃貸借契約がそのまま新オーナーに引き継がれるので(後記【参照判例】参照)、オーナーが代わったからといって、賃貸借契約書や転貸借契約書を新たに書き替えるという必要は、当然には生じない。 |
参照条文
○ | 民法第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限) | ||
① | 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。 | ||
② | (略) | ||
○ | 借地借家法第31条(建物賃貸借の対抗力等) | ||
建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。 |
参照判例
○ | 最判平成11年3月25日判時1674号61頁 | ||
自己の所有建物を他に賃貸して引き渡した者が、右建物を第三者に譲渡して所有権を移転した場合は、特段の事情のない限り、賃貸人の地位もこれに伴って当然に右第三者に移転し、賃借人から交付されていた敷金に関する権利義務関係も右第三者に承継されると解すべきであり、右の場合に、新旧所有者間において、従前からの賃貸借契約における賃貸人の地位を旧所有者に留保する旨を合意したとしても、これをもって直ちに前記特段の事情があるものということはできない。 |
監修者のコメント
権利どうしの勝ち負け(優劣)は、民法その他の法律に特別の定めがない限り、その権利の対抗要件を先に備えたほうが勝つことになる。競売の競落人(正しくは「買受人」)は、抵当権者の立場と同じであるので、抵当権と建物賃借権の優劣は、抵当権の第三者対抗要件であるその登記と建物賃借権の対抗要件である「引渡し」(占有)のどちらが先かで決まる。そして、この原則の例外であった「短期賃貸借の保護」の制度は、競売妨害の手段として悪用されていたことから、平成16年の民法改正で廃止された。