不動産相談

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不動産のプロフェッショナル

ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
掲載にあたっては、プライバシーの保護のため、相談者等の氏名・企業名はすべて匿名にしてあります。
また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

2210-R-0254
建物賃貸借契約において無効な特約を付した媒介業者の責任。

 賃貸借の媒介業者が、海外赴任中である賃貸人の定期建物賃貸借契約の再契約締結にあたり、賃貸人の要望により、賃借人の了解を得て、賃貸人から中途解約できる内容の特約をした。賃貸人の帰国が早まり、特約に従い賃借人を転居させたが、賃借人は、無効な特約により転居を余儀なくさせられたと媒介業者に損害の賠償を要求している。

事実関係

 当社は、賃貸の媒介業者である。家族で海外赴任のため自宅マンションを定期建物賃貸借契約で賃貸していた賃貸人が、当初赴任予定期間が3年のため賃貸借期間を3年とした。期間満了が近づき、賃貸人は、海外勤務が延長となるので、賃借人の希望もあり、定期賃貸借契約を再契約することにした。当社の宅建士である担当者は、再契約にあたり賃貸人と賃貸借期間を打診したところ、賃貸人は、海外勤務の延長期間が不明のため、前契約と同様に3年間を希望した。また、賃貸人は、海外勤務が終了して帰国する場合は勤務先から6か月前に内示があるため、賃貸人の要望により、賃貸借期間中でも賃貸人から中途解約ができる特約を付した。借地借家法では賃貸人からの契約解除は6か月前通知となっているので、賃借人にもその旨を伝え、了解も得られたので6か月前の賃貸人の中途解約権留保の特約を付して再契約を締結した。
 契約締結から4か月経過したころに賃貸人から当社に対し、帰国が決まったので6か月後に契約解除したいと旨の連絡があった。当社担当者は、賃借人に連絡し、6か月後の契約解除を申し入れた。賃借人は、再契約直後の解除申し入れであり、仕事が忙しい中、転居先を探すのに期間が短いなど、多少反発心を示したが、契約上の特約もあり、契約解除を渋々了解し、転居することにした。賃借人が、他の媒介業者で転居先の物件の探していた際、その業者から、賃貸借契約は賃貸人からの契約解除はできない旨を知らされた。賃借人は、当社に対して、特約の十分な説明がなく、しかも、契約期間中に賃貸人から契約解除ができる旨の誤った特約を約定させられ、解除と転居を余儀なくされたとして損害賠償を要求している。

質 問

1.  賃貸借契約において、媒介業者が、賃貸人及び賃借人が納得して合意した特約を約定することに問題があるか。
2.  賃借人に不利な特約が約定され、媒介業者が約定に従って賃借人に契約の解除をさせた場合に媒介業者に責任が生じるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 賃貸借契約の当事者が合意しても、賃借人に不利な特約で、借地借家法の強行規定や信義則に反するものは無効である。
 質問2.について ― 媒介業者が、賃借人に無効な特約である旨の十分な説明をしないで特約を履行させ、賃借人に損害が生じた場合、媒介業者は賠償責任を負うことがある。
2.  理 由
について
 定期建物賃貸借契約は、契約の更新を前提とした普通賃貸借契約と異なり、更新がなく約定の期間満了で契約が終了する契約である。賃貸人及び賃借人双方の合意により、再契約することは可能であるが、再契約は更新ではなく、新たな契約である。定期建物賃貸借契約でも、約定した期間は賃貸借を継続することが前提となっているのは、普通賃貸借契約同様である。普通建物賃貸借契約では、原則、賃貸人からの契約解除は認められていない。確かに、賃貸人から契約解除するには、賃借人に対して、賃貸人が契約満了の日の1年から6か月前に更新拒絶することができ(借地借家法第26条第1項)、また、賃貸人が賃借人に対して6か月前に契約解除を通知することもできる(同法第27条)が、更新拒絶も契約解除の申入れともに「正当事由」がなければ解除は認められない(同法第28条)。さらに、賃貸人の中途解約権の留保を認める内容の特約は、賃借人に不利なものとして無効である(同法第30条)。
 一方、定期建物賃貸借契約及び普通建物賃貸借契約ともに、契約期間中の中途解約ができないのが前提であるが、賃借人からの中途解約できる旨の特約は有効である。賃借人に不利な特約は無効であるが、賃借人の解除留保権は賃借人に不利な特約ではない。半面、賃貸人には不利な特約とも考えられるが、公序良俗に反しない限り、賃貸人に不利と思える特約でも禁止または無効の規定はなく、当事者間に合意があれば認められる。なお、居住用途の定期建物賃貸借契約では、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情が生じた場合、賃借人から解約できる旨の特約がなくても、賃借人からの1か月前の解約申し入れにより契約を終了することができる(同法第38条第5項)。
 事例のように、賃貸人と賃借人の間で、賃貸人から期間中の契約解除ができる特約が合意されていても、借地借家法の強行規定により、賃借人に不利な特約として無効である。賃貸人の帰国にあたって、賃借人が契約解除を理解し、賃借人の合意があれば契約解除も可能であるが、問題は、媒介業者が契約締結時及び賃貸人の契約解除の要求があったときに、賃借人に対して、賃貸人からの解除要求は、原則としてできない旨を説明し、賃借人に解除の意思があるときのみ、契約解除がなしうることを明確にしなければならない。媒介業者が、無効である特約を契約書に記載する行為や、記載の条文を説明せず、賃借人に損害が発生すれば、媒介業者に損害を賠償する責任が生じる。
 媒介業者が無効な特約を契約書に記載し、賃借人の継続居住希望にかかわらず退去させた裁判例で、「賃貸人の中途解約権を留保する特約は無効である」との判断を示し、「媒介業者が、無効である特約を記載した契約書を作成し、期間途中で賃貸人からの契約解除の要求を、特約を根拠に賃借人に対して無条件に伝達し、その際にも特約の意味や特約が無効であることを十分説明せず、賃借人に契約解除させ、負担を強いたことに対して、媒介業者の不法行為と認め、賃借人の損害賠償(民法第709条)請求を一部認容したものがある(【参照判例】参照)。
 媒介業者は、契約締結に当たり、不動産取引の専門家として、業務に関する正確な法律知識を持ち、取引の相手方に理解できるように説明する必要がある。特に、定期建物賃貸借契約では、賃貸人、賃借人の事情を十分斟酌した上で、契約期間や特約等を設定することが要求される。

参照条文

 民法第709条(不法行為による損害賠償)
   故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
 借地借家法第26条(建物賃貸借契約の更新等)
   建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
  ・③ (略)
 同法第27条(解約による建物賃貸借の終了)
   建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から6月を経過することによって終了する
   (略)
 同法第28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
   建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
 同法第30条(強行規定)
   この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。
 同法第38条(定期建物賃貸借)
   期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第30条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第29条第1項の規定を適用しない。
  〜⑥ (略)
   第1項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が200平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から1月を経過することによって終了する。
  ・⑨ (略)

参照判例

 東京地裁平成25年8月20日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 定期建物賃貸借契約である本件契約において、賃貸人に中途解約権の留保を認める旨の特約を付しても、その特約は無効と解される(借地借家法第30条)。
 媒介業者は、本件特約が無効になり得るものであると認識していた旨述べるが、解約申入れ後の賃貸人や賃借人の対応に鑑みれば、媒介業者が、本件契約当時、賃借人及び賃貸人に対してその旨を正確に理解できるように説明を尽くしたということはできない。そして、媒介業者は、賃借人に対し、賃貸人から本件契約の解約申入れがあったことを無条件に伝達し、その後も本件特約の意味及び効力について具体的に説明したとの事実も認められない。このような媒介業者の対応は、無効な本件特約に基づいて賃借人に履行を求めるものであって、専門の仲介業者として慎重さを欠いたといわざるを得ず、違法性を否定できない。

監修者のコメント

 本ケースの事実関係のもとでは、回答のとおり、媒介業者の過失が認められ、損害賠償責任が生ずるが、その損害額をめぐっては、無効な特約を締結させたことと賃借人の支出との相当因果関係の範囲について争われる余地がある。なぜなら、転居先を探している時、すなわち転居前にその特約の無効を知ったのであるから、転居しないで、特約の無効を主張できたからである。もっとも、その場合は、反対に賃貸人から責任追及される可能性がある。
 いずれにせよ、プロの業者として賃貸借契約でも売買その他の契約でも、特約その他の契約条項が無効になるか否かの検討は、最低限の義務である。

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