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2210-R-0253
オーナーチェンジにおける借主のネガティブ情報の提供時期と借主への賃料請求のための所有権移転登記の理由

 賃貸借物件の一棟売りを媒介する場合、借主のネガティブ情報はいつの時点で買主に提供すべきか。
 一棟売りの買主は、判例上当然に貸主になるにもかかわらず、借主に賃料を請求するのに第三者対抗要件である所有権移転登記が必要になるのはなぜか。

事実関係

 当社は、このたび賃貸借物件の一棟売り(オーナーチェンジ)を媒介するが、その際に買主に提供すべき借主のネガティブ情報の提供時期のほか、新オーナー貸主が借主に賃料請求する場合の過去の判例内容にわからない点がある。

質 問

1.  媒介業者から買主に行う借主のネガティブ情報の提供は、他の重要事項説明と同じように、売買契約締結までのできるだけ早い時期に行うべきか。
2.  判例によれば、賃貸借物件を購入した買主は、当然に貸主たる地位を取得すると聞いている(大判昭和2年12月16日判決)。にもかかわらず、買主が新貸主として借主に賃料を請求するには、第三者対抗要件である所有権取得(移転)の登記が必要となるとも聞いている。これは一体どういう法的根拠によるものか。

回 答

 質問1.について ― 売買契約の締結時期を基準とするのではなく、媒介契約の締結時期を基準にし、その買いの依頼を受けた後のできるだけ早い時期に情報提供すべきである。なぜならば、媒介業者が媒介契約も成立しないうちに行なって、その結果売買契約が成立しなかった場合には、その内容と状況いかんによっては、個人情報保護法の規定や民法の不法行為の規定に抵触する可能性が生じないとも限らないからである。
 質問2.について ― 売買による所有権の移転は、相続などの場合と異なり、意思表示による権利の変動であるから、本件の買主(新貸主)がその権利の取得を第三者である借主に対抗するには、民法第177条の規定により、その登記が必要になると解されており、賃料請求は対抗問題だからである(最高裁昭和49年3月19日判決)。
 なお、新貸主は所有権の移転登記をしなければ、賃借人に対抗できないという従来の解釈は、令和2年4月施行の改正民法により、明文規定が新設された(第605条の2第3項)。
 それに引き換え、相続による所有権の移転はその登記なくして第三者に対抗できるとされているので(最高裁昭和38年2月22日判決)、相続人はその相続すなわち被相続人の死亡と同時に借主に対し賃料の請求ができる。

参照条文

 民法第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
   不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
 同法第605条の2(不動産の賃貸人たる地位の移転)
   前条、借地借家法第10条又は第31条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。
   (略)
   第1項又は前項後段の規定による賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。
   (略)
 同法第709条(不法行為による損害賠償)
   故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
 個人情報保護法第27条(第三者提供の制限)
   個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。
     法令に基づく場合
     人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
    、四 (略)
  ~⑤ (略)

監修者のコメント

 ネガティブ情報の内容によるが、その情報が買主の買うか買わないかの判断に重要な影響を及ぼすものであるときは、契約締結の交渉に入った早い段階で提供すべきである(宅建業法第47条第1号・重要な事項の告知義務)。例えば、借主に反社会的勢力がいるとか、しばしば滞納を繰り返す借主がいるなどは、その典型例である。これに対し、買主の契約締結の判断に影響を及ぼさないネガティブ情報は、売買契約締結後も言う必要はない。
 なお、宅建業法上の告知義務のあるネガティブ情報であれば、これを提供することは、個人情報保護法の第三者提供の制限規定に違反しない。同法第27条第1項1号の例外に該当するからである。また、その告知義務があると認められるときは、正当な理由があり、違法性を有しないので、民法上の不法行為も成立しない。

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