不動産相談

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不動産のプロフェッショナル

ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
掲載にあたっては、プライバシーの保護のため、相談者等の氏名・企業名はすべて匿名にしてあります。
また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

2208-B-0309
媒介業者は、買主に対して、任意売却物件であることを説明する義務があるか。

 事業不振に悩んでいた売主は、自宅が競売になることを避けて売却したところ、新婚生活を機に購入した買主から、心理的瑕疵物件であるとして契約解除を申し入れてきた。

事実関係

 当社は、売買の媒介業者である。売主個人の既存戸建の売買の媒介をして決済、引渡しを完了した。引渡し2か月後に、買主から当社に対して、取引した物件は瑕疵物件でないかと問い合わせがあった。買主は結婚を機に新居として購入したが、入居後に近隣から、購入した一戸建の売主は経営していた会社が事業不振に陥り、借金返済のために売却したらしいと聞かされた。
 当社は、売主から売却依頼があった際に、売却する理由を確認したが、確かに、事業不振による会社清算のための売却であった。売主には事業資金としての多額の借入金があり、自宅を根抵当権の担保物件として提供していた。返済は滞り気味で、売買契約時には売却価格を上回る債務額があり、融資金融機関から債務額全額の返済を迫られており、返済の目途が立たない場合は、競売もやむを得ないと通告されていた。売主は、金融機関と協議し、自宅を任意売却し、不足分5年間の分割で支払いすることで折り合ったため売却に踏み切った。当社は、売主の売却の事情を知っていたが、金融機関にも確認し、売買契約の決済には支障がないと判断し媒介依頼を受けた。
 売買契約時に、当社は、買主に対して、売主の売却理由である債務返済資金捻出のための任意売却であることは説明していない。買主は、新婚のスタートを切る新居にもかかわらず、売主の債務返済のための売却物件であったのは、験が悪い、縁起が悪いと言い立て、事情を知っていたら購入しなかったと主張し、売主と当社に対して契約解除を求めている。

質 問

 売主の売却理由が、売主の借入金の返済を目的とする任意売却であることが心理的瑕疵に該当し、売主は告知事項及び媒介業者は重要事項として、買主に説明する義務があるか。

回 答

1.  結 論
 売主の売却理由が任意売却であることは心理的瑕疵に該当せず、売主の告知義務違反及び媒介業者の重要事項説明義務違反に当たらないと解する。
2.  理 由
 不動産の売主の売却動機や理由には様々のものがある。現在の住まいが手狭になった、家族数の増加、新築に住み換える、マンションから戸建に住み換える、転勤のために手放すなど、いわゆるムーブアップするものがある半面、勤務先の倒産や収入の減少により住宅ローンの支払いが困難、事業資金の担保としていたが事業が不振になった、子の独立等により家族の減少など、ムーブダウンあるいはダウンサイジングのために住み換えることも多い。最近の傾向では、親から相続した自宅だが相続人の誰もが居住・使用しない、高齢となり郊外部の一戸建の維持が煩わしい、駅までの距離があるため出かけるのが面倒・不便といった理由で、買い物や病院通いに利便性のよい駅に近い物件に住み換えるなどの現象もある。
 売主の売却理由を宅建業者が確認することは不可欠である。宅建業者は媒介に際し、売出価格の助言や売買契約から決済までの期間を想定する等の一要素であり、また、犯罪収益移転防止法上の本人確認事項の一つとして取引目的の確認義務がある。媒介業者が、売却理由を把握する必要性は高いが、買主に対して売主の売却理由を説明する義務は原則ない。売主のプライバシーに関わる場合があり、むしろ、宅建業者及びその従業者には、顧客の秘密を守る義務が課せられており、売主の承諾を得ずにプライバシーに関することを他に漏らすことは禁じられている(宅建業法第45条、同法第75条の3)。他方、宅建業者には、買主の購入判断に重要な影響を及ぼすこととなるものについて、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為は禁じられている(同法第47条第1号)。宅建業者は、買主の購入判断を左右する事柄を知り得た場合にはその旨を説明する義務がある。加えて、引き渡された目的物が、種類、品質、数量に関して契約の内容に適合しないときは、原則、売主は買主に対して責任を負う契約不適合責任がある(民法第562条)。
 売却物件である不動産に付された抵当権等の実際の債務額が超過となるなど、債務者が返済の見込みがない場合には、債権者は競売により債権回収を図ることがある。競売になった場合は任意売却に比べて競落価格は安価になることが通常であり、売主のみならず債権者も回収資金をより多く確保できる可能性のある任意売却によることも一般的である。任意売却では、債務額が売却価格を上回り、結果的に抵当権の抹消ができないなどのリスクもあるが、通常の売買と何ら変わりはなく、競売のように周囲に知られることもなく売却が可能である。
 相談ケースのように、買主は、売主の売却理由や経緯について関心を持つことがある。買主が通常売買と信じて購入した後、売主の売却理由が任意売却であったことが判明し、売却理由の背景が事業の不振による借入金返済であることは、感情的には「縁起が悪い」と感じる買主がいることも確かであろう。しかし、「重要事項について説明すべき義務を負うところ、購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される事項を認識している場合には、当該事項について説明義務を負うというべきである」としながらも、「買主が主張するいわゆる心理的瑕疵には、例えば当該物件で過去に自殺があったことなどが該当することは格別、任意売却物件であることはこれとは性質を異にし、購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあるとはいえない」と解し、売却物件が任意売却であることは、直ちに重要事項として説明の対象となるとは認められないとした裁判例がある(【参照判例】参照)。契約前に、宅建業者は、買主から、売主の売却動機・理由や売主の属性等を尋ねられることも多い。後日の紛争防止や顧客のプライバシーの観点からも、事前に開示の範囲等も含め、売主の了解を得ておくことが肝要であろう。

参照条文

 民法第562条(買主の追完請求権)
   引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
   前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。
 宅地建物取引業法第45条(秘密を守る義務)
   宅地建物取引業者は、正当な理由がある場合でなければ、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならない。宅地建物取引業を営まなくなった後であっても、また同様とする。
 同法第47条(業務に関する禁止事項)
   宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
   宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の契約の締結について勧誘をするに際し、又はその契約の申込みの撤回若しくは解除若しくは宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため、次のいずれかに該当する事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為
    ~ハ (略)
     イからハまでに掲げるもののほか、宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であって、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの
  ・三 (略)

参照判例

 東京地裁平成28年1月21日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
   媒介業者は、宅地建物取引業者として、本件建物の仲介を行うに際し、買主に対し、本件売買における重要事項について説明すべき義務を負うところ、購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される事項を認識している場合には、当該事項について説明義務を負うというべきである。
 この点、本件建物はいわゆる任意売却物件であり、買主は運気が悪い事実であるから媒介業者はこれを説明すべきであった旨を主張するが、買主が主張するいわゆる心理的瑕疵には、例えば当該物件で過去に自殺があったことなどが該当することは格別、任意売却物件であることはこれとは性質を異にし、購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあるとはいえないと解されるのであって、しばらく買い手が付かなかったことも併せ、直ちに重要事項として説明の対象となるとは認められない。

監修者のコメント

 瑕疵のうち、心理的瑕疵いわゆる主観的感情的欠陥は、「住み心地の良さを欠く」ということであるので、その当否の判断は大変難しい。住み心地の良さは、まさしく人の主観に左右されるものであるから、同じ事柄でも気にする人と気にしない人がいる。したがって、法的判断としては原則として一般人・平均人の感性を基準として判断せざるを得ない。相談ケースのように事業が思わしくなく、借入金返済のために自宅を売却するという事例は、しばしばあることで、購入後に初めて知り、そうだったのかとあまりいい気持ちにならないことはあっても、それが解除や損害賠償に結びつくと考える人は平均人・一般人ではいないであろう。縁起が悪いと言うことであれば、夫婦が離婚に伴う財産分与のための売却、所有者が死亡したための売却、あるいは家族が交通事故を起こし賠償金を支払うための売却とか、枚挙にいとまがないが、これらを気にする人もいるであろうが、自殺のような物件それ自体にまつわる問題ではなく、瑕疵のカテゴリーには入らない。しかし、このような売主側のこうした事情を気にする人は、売主ないし媒介業者に聴くべきであり、その質問にウソの回答をしたり、答えなかった場合には例外的に、売主、媒介業者の告知・説明義務違反となるであろう。

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◎ 既に訴訟になっている事案については、原則ご相談をお受けできません。ご担当の弁護士等と協議してください。

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