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2204-B-0303
居住していない区分所有者のみを対象とする金銭的負担の是非。

 マンション住戸を賃貸している区分所有者等の不在組合員に対し、管理費等以外の住民活動協力金を求める管理組合の議決がされた。

事実関係

 当社は売買の媒介業者である。2年前に収益目的として既存マンションの1室を購入した買主から相談があった。買主は購入当初から第三者に賃貸しており、このマンションに居住していない。最近、買主は出席しなかったが、管理組合の総会で、管理規約の改正決議があった。改正内容は、管理組合が、同マンションに居住していない、いわゆる不在組合員から、管理費・修繕積立金とは別途に、住民活動協力金を徴収するものである。金額は管理費月額の20%程度である。管理組合は、複数棟の組合員で組織されている比較的大規模な団地であるが、マンションの住環境維持のために、組合員が種々の活動を行っており、その活動を担っているのはマンションに居住している組合員である。また、管理組合の役員に就任しているのも居住組合員である。住民活動協力金を徴収することになった経緯は、組合の諸活動を居住組合員が行っているにもかかわらず、不在組合員は、活動には参加せず、居住組合員による活動の恩恵を享受していることは不公平であるとの意見があったことによる。
 買主は、マンションの保守管理、環境維持のために使用される毎月の管理費及び修繕積立金は支払っており、その他の組合活動に支出する費用は支払う義務はないと考えている。

質 問

1.  管理組合は、不在居住者等の一部組合員のみを対象に、組合運営に資する協力金の金銭的負担を課すことができるか。
2.  管理組合は、一部の組合員が不利になる管理規約の改正を総会で決議する場合、あらかじめ、不利となる組合員の承諾を得る必要はないのか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 協力金等の負担が、受忍限度を超える不利益でなければ一部の組合員に対して負担を求めることが可能である。
 質問2.について ― 管理規約の変更等が一部の組合員の権利に特別の影響を及ぼさないかぎり、不利益を受ける組合員の承諾を得る必要はないと解する。
2.  理 由
⑵について
 区分所有マンションの所有者は、共有である建物及び付属施設の維持、管理、修繕や区分所有者で構成される管理組合の運営等に必要な費用を負担する義務がある。各区分所有者が負担する費用は、規約に定め、原則、共有者の専有部分の床面積の割合である持分に応じて徴収される(区分所有法第19条、同法第14条)。徴収される代表的な費用として、日常的に費消される管理費と修繕計画等に基づく定期的な修繕の際に支出される修繕積立金がある。
 また、区分所有マンションの所有者で構成される管理組合の運営を担うためには、組合員から選出された組合役員が業務を執行する。役員は、居住組合員から選出されるのが通常である。その他管理組合の活動の一環として、住民の良好な環境づくりやコミュニティ形成としての諸活動を行うことが見受けられる。清掃等の美化活動やイベントの開催等が挙げられる。役員や諸活動の推進者には不在組合員は参加し得ず、結果的に居住組合員が負うこととなる。役員は、居住組合員の中から選出することを規約等で定められていることも多い。
 昨今、都心マンションでは、インバウンド需要や収益目的の購入者の割合の高まり等により、不在組合員が増加している。居住者の中にも高齢者が増え、健康や体力的に役員就任や組合活動への参加が難しい組合員もいる。そうすると、不在組合員に比べ、居住組合員が活動に費やす負担は過重になる。諸活動に時間的、経済的に負担のある居住組合員に報いるためには、不在組合員から一定の費用を徴収し、役員や諸活動の運営者に支払うことも考えられる。このような組合の諸活動の経費として組合員から徴収するには、管理組合員による規約の変更の決議が必要になる。決議は、特別決議によることになり、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数によらなければならない。さらに、規約変更が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならないとされており、不在居住者に不利になるときは、承諾を求めることになる(同法第30条、同法第31条)。
 しかしながら、不在居住者の割合が増加し、不在居住者の承諾を得ることができなければ、規約の設定・変更は現実的でないことも起こりうる。管理組合が不在居住者のみに対して協力金の徴収を不在居住者の承諾を得ないで決議したことに対して、不在組合員から異議を申し立てた裁判例で、「管理組合が、その業務を分担することが一般的に困難な不在組合員に対し、規約変更により一定の金銭的負担を求め、マンションにおいて生じている不在組合員と居住組合員との間の不公平を是正しようとしたことには、その必要性と合理性が認められないものではない」と管理組合の議決を容認したものがある(【参照判例①】参照)。不在居住者である不利益となる一部の組合員の承諾の要否に関し、「特別の影響を及ぼすべきときとは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合」と受忍限度を超えているか否かが判断となるとしている(【参照判例②】)。判断は、個別の事情によるであろう。
 管理組合が、一部の組合員が不利となる規約の改正を行うときは、事前に十分な説明と理解を求めておくことが必要であろう。

参照条文

 建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)第14条(共用部分の持分の割合)
   各共有者の持分は、その有する専有部分の床面積の割合による。
  〜④ (略)
 同法律(同法)第19条(共用部分の負担及び利益収取)
   各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。
 同法律(同法)第30条(規約事項)
   建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。
   (略)
   前二項に規定する規約は、専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。
  ・⑤ (略)
 同法律(同法)第31条(規約の設定、変更及び廃止)
   規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議によってする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
   (略)

参照判例①

 最高裁平成22年1月26日 判タ1317号137頁(要旨) 
 法第66条が準用する法第31条第1項後段の「規約の設定、変更又は廃止が一部の団地建物所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の団地建物所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該団地建物所有関係の実態に照らして、その不利益が一部の団地建物所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいう(最高裁平成10年10月30日)。
 本件マンションは、規模が大きく、その保守管理や良好な住環境の維持には上告人及びその業務を分掌する各種団体の活動やそれに対する組合員の協力が必要不可欠であるにもかかわらず、本件マンションでは、不在組合員が増加し、(略)それらの不在組合員は、マンション管理組合(以下、「管理組合」という)の選挙規程上、その役員になることができず、役員になる義務を免れているだけでなく、実際にも、管理組合の活動について日常的な労務の提供をするなどの貢献をしない一方で、居住組合員だけが、管理組合の役員に就任し、上記の各種団体の活動に参加するなどの貢献をして、不在組合員を含む組合員全員のために本件マンションの保守管理に努め、良好な住環境の維持を図っており、不在組合員は、その利益のみを享受している状況にあったということができる。
 いわゆるマンションの管理組合を運営するに当たって必要となる業務及びその費用は、本来、その構成員である組合員全員が平等にこれを負担すべきものであって、上記のような状況の下で、管理組合が、その業務を分担することが一般的に困難な不在組合員に対し、本件規約変更により一定の金銭的負担を求め、本件マンションにおいて生じている不在組合員と居住組合員との間の上記の不公平を是正しようとしたことには、その必要性と合理性が認められないものではないというべきである。
 居住組合員の中にも、上記のような活動に消極的な者や高齢のためにこれに参加することが事実上困難な者もいることはうかがえるのであって、これらの者に対しても何らかの金銭的な負担を求めることについては検討の余地があり得るとしても、不在組合員の所有する専有部分が本件マンションの全体に占める割合が上記のように大きなものになっていること、不在組合員は個別の事情にかかわらず類型的に管理組合や上記の各種団体の活動に参加することを期待し得ないことを考慮すると、不在組合員のみを対象として金銭的負担を求めることが合理性を欠くとみるのは相当ではない。
 (中略)
 本件規約変更の必要性及び合理性と不在組合員が受ける不利益の程度を比較衡量し、加えて、上記不利益を受ける多数の不在組合員のうち、現在、住民活動協力金の趣旨に反対してその支払を拒んでいるのは、不在組合員が所有する専有部分約180戸のうち12戸を所有する5名の不在組合員にすぎないことも考慮すれば、本件規約変更は、住民活動協力金の額も含め、不在組合員において受忍すべき限度を超えるとまではいうことができず、本件規約変更は、法第66条、第31条第1項後段にいう「一部の団地建物所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当しないというべきである。

参照判例②

 最高裁平成10年10月30日 判タ991号288頁(要旨)
 法第31条第1項後段は、区分所有者間の利害を調整するため、「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」と定めているところ、右の「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される。これを使用料の増額についていえば、使用料の増額は一般的に専用使用権者に不利益を及ぼすものであるが、増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、増額された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は使用料の増額を受忍すべきであり、使用料の増額に関する規約の設定、変更等は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである。また、増額された使用料がそのままでは社会通念上相当な額とは認められない場合であっても、その範囲内の一定額をもって社会通念上相当な額と認めることができるときは、特段の事情がない限り、その限度で、規約の設定、変更等は、専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、専用使用権者の承諾を得ていなくとも有効なものであると解するのが相当である。

監修者のコメント

 本ケースに関する結論は、参照判例①の最高裁判例により、一応の決着をみたと言ってよい。その事案についての原審である大阪高裁の判決は、正反対の結論であった。それは、「役員の精神的・肉体的負担や不公平感は、規約の変更によって報酬の支給により補てんされることになったところ、役員の諸活動は、区分所有者全員の利益のために日常的に行われるべきものであるから、役員報酬及びその必要経費の財源として、住民活動協力金を不在組合員と居住組合員との間に格差を設けて負担させる場合、不在組合員であるがために避けられない印刷代、通信費等の出費相当額を不在組合員に加算して負担させる程度であればともかく、その全額を不在組合員のみに負担させるべき合理的な根拠は認められない。」と言っていた。最高裁は、この大阪高裁の論理を真向から否定したものである。最高裁は、その規約変更が「受忍限度」を超えるかどうかの基準として「規約変更の必要性及び合理性と不在組合員が受ける不利益の程度を比較衡量」をその一つとして掲げているが、本事案の不在組合員の負担する住民活動協力金は月額2,500円で、居住組合員の負担する組合費が月額1万7,500円であるのに対し、不在組合員の負担する組合費は、その15%増しの月額2万円であった。さらに、2,500円を負担する多数の不在組合員のうち、住民活動協力金の趣旨に反対してその支払を拒んでいるのは、不在組合員が所有する専有部分が約180戸のうち12戸を所有する5名の不在組合員にすぎないことも考慮すべき事情とされている。

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