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2204-R-0247
定期建物賃貸借契約の際、定期建物賃貸借契約である旨の事前説明書は賃貸人が賃借人に読み聞かせすればよいか。

 3年前に定期建物賃貸借契約の媒介をしたが、賃貸人は、事前説明書を読み上げただけで、説明はしなかった。契約期間の終了時期になったが、賃借人は更新がない等の説明を受けていないと退去に応じない。

事実関係

 当社は、賃貸の媒介業者である。2年前に宅建業者が所有している小規模な商業ビルの一室を事務所として賃貸借契約の媒介をした。ビルは建築後40年以上経過していたため、2年後に取壊しをして新規にビルを建築予定であった。そのため宅建業者である賃貸人は、2年後には賃借人の確実な退去を望んでいたので、契約は、定期建物賃貸借契約とした。賃借人は、従来、個人でIT関連事業をしていたが、人員を拡充して法人成りして間もなかった。将来は事業の拡大を図り、広い事務所に移転の計画を持っていた。
 賃貸人は、期間満了までの6か月が近付いてきたので、賃借人に対して、約定の期間満了日で賃貸借は終了する旨を文書で通知したところ、賃借人は、思うように事業の進展もないところから、賃貸借の更新または延長を希望している。当社は、賃借人に面談して、当該契約は、契約時の賃貸人が交付し、賃借人の承諾印のある定期建物賃貸借契約の事前説明書を提示して、契約は、更新がなく期間満了で賃借人は退去する必要があると説得したが、賃借人は、事前説明書に押印したが、詳しい説明は受けておらず、内容を十分に理解しないまま押印したもので、期間満了後も賃借できると認識していたとの考えを示した。
 当社の担当者に契約時の状況を確認したところ、定期建物賃貸借契約の契約書及び重要事項説明書は当社で用意し、重要事項を説明の上、賃貸人と賃借人が契約書に調印して契約締結したが、事前説明書は、賃貸人が、読み上げたのみで、内容に関しては、「説明書に記載のある借地借家法第38条第2項を確認してください」というだけであった。

質 問

1.  定期建物賃貸借契約に際し、賃貸人またはその代理人が、事前説明書を交付して記載事項を読み上げれば、定期建物賃貸借契約が無効となることはないか。

回 答

1.  結 論
 事前説明書に記載された事項の内容説明をせずに、単に読み上げただけの場合は、事情により、定期建物賃貸借契約は無効となり、普通賃貸借契約とみなされる場合がある。
2.  理 由
 定期建物賃貸借契約を締結する場合、賃貸人は、あらかじめ、賃借人に対し、建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により賃貸借は終了することを記載した書面を交付して説明する必要がある(借地借家法第38条第2項)。交付する書面は、「賃借人が、当該契約に係る賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず、契約書とは別個独立の書面であることを要する」とされている(最高裁平成24年9月13日)。書面を交付する際は、賃貸人は賃借人に対して内容の説明を要し、賃貸人が説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効」となる(同法38条第3項)。
 相談ケースのように、賃貸人がこの事前説明書を読み上げることは、説明にあたるかが争点になることがある。裁判例では、「賃貸人は、事前説明書の条項の読み上げにとどまり、条項の中身を説明するものではなく、仮に条項内の条文の内容を尋ねられたとしても、六法全書を読んで下さいといった対応をする程度のものであったことが認められ、賃貸人が、賃借人に対し、賃貸借契約について、借地借家法法第38条2項所定の説明をしたと認めることはできず」と事前説明書を読み上げるだけでは、説明したことにならないとし、「賃貸人と賃借人の間の各本件賃貸借契約に係る契約の更新がないこととする旨の定めは、いずれも有効とは認められない」と定期建物賃貸借契約は無効とし、普通賃貸借契約が適用になるとしたものがある(【参照判例】参照)。
 「説明」するということは、相手に対して、その内容を十分理解させることである。
 定期賃貸借契約制度の創設前は、普通賃貸借契約が通常の賃貸借契約であり、賃借人の権利が保護されていた。賃貸人と賃借人との間で更新の合意が得られない場合でも、法定更新が認められ(同法第26条)、また、賃貸人の正当事由や賃借人に対する財産上の給付(立退料等)による正当事由の補完がなければ、賃貸人の一方的な更新拒絶は認められていなかった(同法第28条)。定期賃貸借契約は、確定的に更新されない契約であり、契約書とは別途に、賃貸人が、賃借人に対して、事前説明書を交付、説明するのは、賃借人が十分に理解しないで契約をしたときのリスクや争いを回避するための制度である。
 法律知識になじみのない一般の賃借人や今後増加するであろう高齢者や外国人に対しては、定期借家契約の十分な説明と理解が求められ、媒介業者は、賃貸人が、事前説明書の条文を読み上げるのみであったり、説明内容が不十分な場合は、専門家として賃借人が理解できるように補足説明をする必要があろう。

参照条文

 民法第601条(賃貸借)
   賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
 借地借家法第26条(建物賃貸借契約の更新等)
   建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の1年前から6か月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
   前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とする。
   (略)
 同法第28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
   建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
 同法第38条(定期建物賃貸借)
   期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第30条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第29条第1項の規定を適用しない。
   前項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。
   建物の賃貸人が前項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。
  〜⑦ (略)

参照判例

 最高裁平成24年3月23日 判時2152号52頁(要旨) 
 借地借家法第38条第2項は、「前項の規定による建物の賃貸借契約をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。」としているから、定期建物賃貸借契約における契約の更新がないこととする定めが有効であるためには、賃貸人において、賃借人に対し、賃貸借契約締結前に、①締結される建物賃貸借契約が、同法第38条第1項の規定による定期建物賃貸借契約であること、②当該建物賃貸借契約は契約の更新がなく、期間の満了により契約が終了することを記載した書面を契約書とは別に交付するとともに、これを口頭で説明することを要すると解される(同法第38条第2項参照)。(中略)
 賃貸借契約締結に先立って、契約書とは別に書面を交付して(最高裁平成22年7月16日)、説明することが求められているのは、借家人が定期賃貸借制度の内容を十分に理解した上で契約することを担保するためであると解され、また、説明書面に、締結される建物賃貸借契約が、同法38条1項の規定による定期建物賃貸借契約であることを記載すべきと解されることに照らすと、説明書面を交付して行うべき説明は、締結される建物賃貸借契約が、一般的な建物賃貸借契約とは異なる類型の定期建物賃貸借契約であること、その特殊性は、同法第26条所定の法定更新の制度及び同法第28条所定の更新拒絶に正当事由を求める制度が排除されることにあるといった定期建物賃貸借という制度の少なくとも概要の説明と、その結果、当該賃貸借契約所定の契約期間の満了によって確定的に同契約が終了することについて、相手方たる賃借人が理解してしかるべき程度の説明を行うことを要すると解される。
 ところが、賃貸人が、賃借人に対して行った説明は、賃貸人である法人の担当者を通じて行った本件説明書の条項の読み上げにとどまり、条項の中身を説明するものではなく、仮に条項内の条文の内容を尋ねられたとしても、六法全書を読んで下さいといった対応をする程度のものであったことが認められる。(中略)
 賃貸人が、賃借人に対し、本件賃貸借契約について、同法第38条2項所定の説明をしたと認めることはできず、賃貸人と賃借人の間の各本件賃貸借契約に係る契約の更新がないこととする旨の定めは、いずれも有効とは認められないから、賃貸借期間の満了後、同法第26条により更新され、いまだ終了していないことになる。

監修者のコメント

 賃貸借契約書に、契約の更新はなく、期間の満了により契約が終了することが明確に記載され、そのことを賃借人が十分に認識していた場合でも、契約書とは独立した事前説明の書面の交付と説明がなければならない、としたのが参照判例にある最高裁判例の解釈であることに注意を要する。
 もう一つ、定期建物賃貸借の媒介をする宅建業者の宅地建物取引士が、賃借人から事前説明の代理権を授与されて、重要事項説明と事前説明を行う場合の要件について、国土交通省から平成30年2月28日及び同年7月12日付で運用通知が発出されているので、同省HPを参照されたい。

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