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また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

2202-R-0245
借地権者の同居家族名義の建物登記の可否

 当社が不動産管理を委託されている地主から、借地権者が自宅建替えに当たり、長男名義の建物登記にしたいとの要請があると相談を受けた。
 借地権者には建築資金がないため、長男が住宅ローンを借り入れる等の資金計画を立てている。金融機関からは融資を受ける長男名義で建物登記することが条件となっている。

事実関係

 当社は宅建業者であり、不動産管理も行っている。借地や賃貸建物を管理委託されている地主から、賃貸している土地の賃借人が建物を建替えることについて相談されている。賃借人は、土地を賃借して40年以上になるが、賃貸借開始当時に建てた建物の老朽化により、建替えを希望しているという。地主は建替えを承諾してもよいと考えている。賃借人は勤めをリタイヤしており、賃借人は建築のための融資を受けることができないため、建築資金は長男の保有金銭と一部金融機関からの住宅融資の借入れにより長男が資金負担することを考えている。住宅建築資金の全額を長男が負担するため、建物の名義は長男にする予定である。また、賃借人は自身の相続発生も考慮し、借地権を長男への承継を考えており、建物は長男名義にしておきたい意向もある。

質 問

 土地賃借人の子名義で建物を登記することに問題があるか。

回 答

1.  結 論
 借地権者である土地の賃借人以外の者の名義で建物を登記した場合、土地賃借権を第三者に対抗することができず、子名義で建物の登記をすべきでない。
2.  理 由
 不動産の賃貸借は、これを登記したときは第三者に対抗することができる(民法第605条)が、通常は土地賃貸人の忌避等により登記がされないことがほとんどであるが、賃借権登記がなされていなくても、借地上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、第三者に対抗することができる(借地借家法第10条第1項)。第三者に対抗できない場合は、土地の所有者が代わった場合に土地の明渡しを求められることがあるが、借地権者の建物名義となっていれば新所有者に借地権を主張することができ、明渡しを求められることはない。
 一般的に、借地期間は長期にわたり、その間には借地人の事情も変化し、相談ケースのように借地権者以外の建物名義にしなければならないこともある。また、借地権者死亡後の相続人間の相続紛争を避けるためにも、借地権者の存命中に特定の子の相続人や配偶者に名義義変更しておきたいという要請も起こりうる。
 しかし、土地賃借権者と建物登記名義人が異なるときは、原則として、借地権者は借地権を第三者に対抗できなくなる。従前の最高裁の裁判例では、子や母親名義とする建物登記であっても第三者に対抗できるという判断があったが、現在、未成年の子名義とする建物登記に関して「地上建物を所有する賃借権者が、自らの意思に基づき、他人名義で建物の保存登記をしたような場合には、当該賃借権者はその賃借権を第三者に対抗することはできない」(【参照判例①】参照)とした最高裁が判断した以降、一貫して借地権の対抗力を否定している。相談ケースのような場合においても、前記裁判例と同様に「自己の子名義で登記をした建物を所有していても、その賃借権を第三者に対抗し得ない」(【参照判例②】参照)としたものや、妻名義の建物登記でも「その他人が賃借人の妻であるときも同様である」(【参照判例③】参照)としている。
 借地権者は、法律または判例の変更がない限り、実質上の権利者である借地権者以外の家族名義の建物登記では第三者に対抗できないことに留意すべきであろう。借地権者が経済的理由で建物の建替えを借地権者名義の登記ができないときや、相続を念頭に建物名義を変更する場合には、借地名義と建物名義を符合させるように、あらかじめ、賃貸人の了解のもとに、土地賃貸借契約における借地人の変更をしておくことが必要であろう。

参照条文

 民法第605条(不動産賃貸借の対抗力)
   不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。
 借地借家法第10条(借地権の対抗力等)
   借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。
  ~④ (略)

参照判例①

 最高裁昭和41年4月27日 判タ190号106頁(要旨)
 地上建物を所有する賃借権者は、自己の名義で登記した建物を有することにより、始めて右賃借権を第三者に対抗し得るものと解すべく、地上建物を所有する賃借権者が、自らの意思に基づき、他人名義で建物の保存登記をしたような場合には、当該賃借権者はその賃借権を第三者に対抗することはできないものといわなければならない。

参照判例②

 最高裁昭和50年11月28日 判タ330号253頁(要旨)
 土地賃借人が建物保護に関する法律1条(注:現行「借地借家法第10条第1項」)によりその賃借権を第三者に対抗しうるためには、賃借人が借地上に自己名義で登記した建物を所有していることが必要であり、自己の子名義で登記をした建物を所有していても、その賃借権を第三者に対抗し得ないものと解すべきである。

参照判例③

 最高裁昭和47年6月22日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 土地の賃借人がその賃借権を第三者に対抗しうるためには、その賃借人が借地上に自己の名義で所有権保存登記等を経由した建物を所有していることが必要であって、その賃借人が他人の名義で所有権保存登記等を経由した建物を所有しているにすぎない場合には、その賃借権を第三者に対抗することができないものであり、そして、この理はその他人が賃借人の妻であるときも同様であると解すべきである。

監修者のコメント

 参照判例のように、最高裁は借地上の建物名義は、借地権者のものでなければ第三者に対抗できないとしている。それが、借地権者の子や妻の名義の建物でもダメとしている。借地権を有する者であればこそ、土地上に建物を建てることができるというのは当然だという考えによるものと思われる。もっとも、参照事例①のものは、大法廷で15人の裁判官が9対6に分かれ、また参照事例③も小法廷で5人の裁判官が3対2に分かれたというように大変難しい問題であり、学説の多くは、この結論に反対している。
 しかし、実務に携わる者としては、最高裁の判例理論に沿って仕事を進めるしかない。

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