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2202-R-0243
賃貸人(オーナー)による転借人への直接権利行使の是非

 当社が媒介したサブリース物件(店舗)の転借人が内装工事を行っていたところ、賃貸人(オーナー)から、「耐火被覆を施した壁面に穴を開けるのはやめてもらいたい」と言われた。このような賃貸人から転借人への直接権利行使は許されるのか。このような場合、媒介業者はどのように対応すべきか。なお、この壁面には従前の転借人が開けた穴が残っているが、賃貸人(オーナー)は転貸人(サブリース業者)に対し、原状回復を請求できるか。

事実関係

 当社は、店舗のサブリース物件の転貸借の媒介をしたが、転借人が内装工事を行っていたところ、賃貸人(オーナー)が現場に来て、「耐火被覆を施した壁面に穴を開けるのはやめてもらいたい」と言ってきた。しかし、その穴は今回の転借人が開けたものではなく、従前の転借人が開けたものであり、今回の転借人も内装工事のためにその壁に穴を開ける必要があったことから、トラブルになり、そのために工事がストップし、開店が大幅に遅れた。

質 問

1.  本件の事例において、賃貸人(オーナー)が転借人に対しとった言動は、法的に正しい言動といえるか。
2.  このようなトラブルに対し、媒介業者はどのように対応すべきか。
3.  賃貸人(オーナー)は、転貸人(サブリース業者)に対し、従前の転借人が開けた穴の原状回復を請求することができるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 直接の権利行使は許されるが、その内容において必ずしも正しい言動とはいえない。
 質問2.について ― 媒介業者が、本件の媒介にあたり、賃貸人(オーナー)または転貸人(サブリース業者)から「耐火被覆を施した壁面への穴の掘削を禁止する」旨の告知がなされていたか否かによって対応が異なる。
 質問3.について ― 原状回復が賃貸借契約における賃借人(サブリース業者)の義務になっているのであれば、当然に請求することができるが、賃貸借契約に明確な約定が定められていなくても、請求することができると解される(民法第613条第2項、後記【参照判例】参照)。
2.  理 由
について
 賃貸人(オーナー)が転借人に対し、直接権利行使をすること自体は法的に正しい言動といえるが(民法第613条第1項)、その権利行使の内容が正しいかどうかは、その耐火被覆を施した壁面に穴を開けることを禁止することの合理性と、転借人がその壁面に穴を開けて内装工事を行い、店舗として営業することの必要性との比較の問題であるから、一般的には、その壁面に穴を開けることによって建物に構造耐力上あるいは防災上著しい支障が生じるというようなことでもない限り、賃貸人(オーナー)の言動は合理性が乏しいといわざるを得ない。なぜならば、耐火被覆を施した壁面に穴を開けて内装工事を行ったとしても、それが原因で構造耐力上あるいは防災上の機能が著しく低下するとは考えられないし、まして原状回復の際にその穴を埋め戻し、再度耐火被覆を施しておけば、元通りに復元できるはずだからである。
について
 本件のトラブルの原因になった壁面への穴開け工事について、それが禁止されていることを媒介業者が事前に賃貸人(オーナー)なり転貸人から告知されていたとすれば、それは契約上の重要な条件として、事前に転借人に重要事項説明をしておく必要があり、もし説明していない場合には、今回の開店の遅れによる損害は、原則として媒介業者が負担しなければならなくなる。
 しかし、禁止されていることが媒介業者に告知されていなかったとすれば、媒介業者としてはそのことを転借人に説明することができないので、あとは転貸借契約締結後の管理上の問題として、その壁面への穴開けを伴う内装工事がその店舗経営に必要不可欠なものなのかどうかによって結論が異なってくると考えられる。すなわち、その壁面に穴を開けなければ必要な内装工事ができないのか、それともそれに代わる工法があるのか、備え置き用の備品では代用することができないのかといった問題になるので、その場合の媒介業者の対応は、あくまでも当事者間の話し合いが中心となり、ケースバイケースでの対応ということになろう。
について
 民法第613条第1項の規定は、後記【参照条文】にもあるとおり、転貸借の場合に、特に賃貸人を保護するために、賃貸人が直接転借人にかかっていくことを認めたものであるから、賃貸人がこの規定によって賃借人(サブリース業者)に対する本来の権利を失わないのは当然のことであり(民法第400条、第599条、第616条)、そのことを同条第2項が定めているのである。したがって、もし転借人が転借人の責めに帰すべき事由によって転借物に損傷を与えた場合には、賃借人(本件の転貸人)もまた賃貸人に対して責任を負うことになる。なぜならば、転借人は賃借人の「履行補助者(注)」と解されているからである。
(注)「履行補助者」とは、次の2つのものを含むと解されている。1つは、債務者が債務の履行にあたって自己の手足のように使用する者(狭義の履行補助者)で、もう1つは、債務者に代って独立した立場で履行する者(履行代用者=転借人は履行代用者と解する考え方がある)である。そして、履行補助者の故意・過失については、債務者自身の故意・過失として、債務不履行(民法第415条)の責任を負わなければならないと解されており、判例は、家屋の転借人の失火についても、賃借人に損害賠償責任があるとしている(後記【参照判例】参照)。

参照条文

 民法第400条(特定物の引渡しの場合の注意義務)
   債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
 同法第415条(債務不履行による損害賠償)
   債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
   前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
     債務の履行が不能であるとき。
     債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
     債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。
 同法第599条(借主による収去等)
   借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。
   借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。
   借主は、借用物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合において、使用貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が借主の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
 同法第613条(転貸の効果)
   賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
   前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
   賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には、賃貸人は、賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。ただし、その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでない。
 民法第616条(賃借人による使用及び収益)
   第594条第1項の規定は、賃貸借について準用する。

参照判例

 大判昭和4年6月19日民集8巻675頁(要旨)
 転借人の過失により目的物を滅失毀損したときは、賃借人は賃貸人に対し債務不履行責任を負う。

監修者のコメント

 店舗建物においては、現に使用する者が内装工事を施すのが通常であるから、賃貸借契約に当たって禁止する工事や貸主(オーナー)の承諾を要する工事を詳細に取り決めておくべきである。本ケースも、媒介に際してサブリース業者またはオーナーに照会しておけば回避できた問題である。

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