不動産相談

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ホームページに掲載しています不動産相談事例の「回答」「参照条文」「参照判例」「監修者のコメント」は、改正民法(令和2年4月1日施行)に依らず、旧民法で表示されているものが含まれております。適宜、改正民法を参照または読み替えていただくようお願いいたします。

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ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
掲載にあたっては、プライバシーの保護のため、相談者等の氏名・企業名はすべて匿名にしてあります。
また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

2108-R-0236
建物賃貸借において賃借権が譲渡された場合、敷金返還請求権は新賃借人に引継がれるか。

 当社は賃貸の媒介業者である。媒介した事務所の賃借人から、他の会社に賃借権を譲渡したいとの相談があった。新賃借人へ賃借権が譲渡された場合、現在の賃借人が賃貸人に預け入れている敷金の扱いはどのようにするのか。

事実関係

 当社は賃貸の媒介業者である。当社が事務所の賃貸借契約の媒介をしたビルの賃借人である法人が、経営体制の見直しによってグループ会社に吸収されることになった。賃借人は、賃借人の地位をグループ会社に譲渡したいと申入れてきた。当社は、ビルオーナーである賃貸人に対して、賃借人が賃借権をグループ会社に譲渡する旨を伝えた。賃貸人からは、契約の解除も検討したが、賃料等の賃貸借条件が変わらないのであれば、賃借人が契約解除したときの新たな賃借人を募集する手間もないことから、賃借権の譲渡に承諾する旨の回答を得られた。

質 問

 賃借人が賃貸人の承諾のうえ賃借権を譲渡した場合、賃貸人に差し入れている敷金の返還請求権も新賃借人に引継がれるか。

回 答

1.  結 論
 賃借権が譲渡されると賃貸借契約関係は旧賃借人から新賃借人に承継されるが、敷金返還請求権は当然には承継されない。
2.  理 由
 民法の規定により、建物賃貸借契約における賃借人は、賃貸人の承諾がなければ賃借権を第三者に譲渡することができないが、賃貸人の承諾があれば譲渡することが可能である(民法第612条)。賃貸人の承諾を得て、賃借権が譲渡されると、建物を使用収益する権利は新賃借人に引継がれ、賃料支払義務も新賃借人が負うことになる。賃貸人と旧賃借人との間の賃貸借契約は原則として一切の内容が承継される。そして、賃貸人の承諾のある賃借権の移転によって、旧賃借人は賃貸人との間の賃貸借関係から離脱することになり、敷金返還請求権は当然には承継されない。旧賃借人の契約関係からの離脱によって、賃貸借契約に基づく将来発生する可能性のある債務は新賃借人が負うことになる。
 裁判例では、「土地賃貸借(建物賃貸借も同様)における敷金契約は、賃借人または第三者が賃貸人に交付した敷金をもって、賃料債務、賃貸借終了後土地明渡義務履行までに生ずる賃料額相当の損害金債務、その他賃貸借契約により賃借人が賃貸人に対して負担することとなる一切の債務を担保することを目的とするものであって、賃貸借に従たる契約ではあるが、賃貸借とは別個の契約」とし、「旧賃借人が賃貸借関係から離脱した場合」は、「特段の事情のない限り、(中略)敷金に関する敷金交付者の権利義務関係は新賃借人に承継されるものでない」と解している(【参照判例】参照)。
 そこで、賃借人が賃借権を譲渡した場合、賃貸人は、新賃借人の敷金による担保が保全されないため、新賃借人の賃料等の債務を担保する必要がある。
 賃貸人が、新賃借人の賃料債務等を担保する保全方法には次の3通りの方法が考えられる。一つは、賃貸人が旧賃借人の差し入れている敷金を旧賃借人に返還し、その上で、新賃借人から新たに敷金を差し入れてもらう方法。次に、敷金交付者である旧賃借人が賃借権譲渡の際に、敷金を預託したまま、賃貸人に対して新賃借人の債務不履行の担保とすることを約す方法。第三に、旧賃借人が、新賃借人に対して敷金返還請求権を譲渡することである。媒介業者が、賃貸借契約の賃借権譲渡に介在するときは、今後発生する可能性のある新賃借人の債務を賃貸人が保全するための敷金の扱いについて留意することが必要である。
 なお、目的物の譲渡に伴う賃貸人の変更の場合には、特段の定めのない限り、新賃貸人が敷金返還債務を承継すると解されている。
【追記】
 令和2年4月1日施行の改正民法では、敷金の規定が新設された(第622条の2)が、本ケースのような賃借権の譲渡があった場合には、敷金返還請求権は新賃借人に承継されず、敷金を旧賃借人に返還しなければならないことが明文化された。すなわち、同条第1項では敷金を返還しなければならない場合として、①賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき(同項第1号)と②賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき(同項第2号)を掲げ、この第2項がそれである。もちろん、これも任意規定であり、異なる特約は認められる。

参照条文

 民法第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
   借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
   賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。

参照判例

 最高裁昭和53年12月22日 判タ377号78頁(要旨)
 土地賃貸借における敷金契約は、賃借人または第三者が賃貸人に交付した敷金をもって、賃料債務、賃貸借終了後土地明渡義務履行までに生ずる賃料額相当の損害金債務、その他賃貸借契約により賃借人が賃貸人に対して負担することとなる一切の債務を担保することを目的とするものであって、賃貸借に従たる契約ではあるが、賃貸借とは別個の契約である。そして、賃借権が旧賃借人から新賃借人に移転され賃貸人がこれを承諾したことにより旧賃借人が賃貸借関係から離脱した場合においては、敷金交付者が、賃貸人との間で敷金をもって新賃借人の債務不履行の担保とすることを約し、又は新賃借人に対して敷金返還請求権を譲渡するなど特段の事情のない限り、右敷金をもって将来新賃借人が新たに負担することとなる債務についてまでこれを担保しなければならないものと解することは、敷金交付者にその予期に反して不利益を被らせる結果となって相当でなく、敷金に関する敷金交付者の権利義務関係は新賃借人に承継されるものでないと解すべきである。

監修者のコメント

 回答の最後にあるように、賃貸目的物の譲渡により所有権が移転した場合、賃貸人の地位も当然買主に(新所有者)に移転し、敷金の返還債務も新所有者に承継されると解するのが最高裁の考え方である。これに対し、賃借人の変更の場合は、敷金返還請求権は新賃借人には当然には承継されないと解している。敷金関係は、その賃貸借契約関係の一内容または付従するものであるので、契約当事者の変更によるその去就は、賃貸人の変更の場合と賃借人の変更の場合とで同じようになってもおかしくないのに反対の結論を採っている。これは、いずれの場合でも賃借人の保護を考慮してのことと思われる。すなわち、賃貸人の地位の移転は、賃借人の同意・承諾を要しないというのが最高裁の考え方であるので、賃借人の立場から見れば、自分の意思にかかわらず、賃貸借関係が新所有者(新貸主)に移ってしまうのだから、たとえ敷金の授受が当事者間でなされず、新貸主が敷金を現実に受け取っていなくても、敷金返還債務を新貸主が負担することにしなければ、賃借人に気の毒だという考えが基本にあると考えられる。これに対し、賃借人の地位の移転の場合は、そもそも賃貸人の承諾がなければそれができないのだから、承諾の条件としていかようにすることもできる。したがって、何も決めずに承諾した以上、旧賃借人の保護のためには、承継されないと解するのが妥当との考えによるものと思われる。
 なお、法理論に忠実に従えば、相談ケースの場合、旧賃借人から預かった敷金は旧賃借人に返還し、新賃借人から新たに敷金を預かることになろうが、新賃借人が交付する敷金相当分の金額を旧賃借人に支払うことで、簡単に済ませることができる。

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