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2106-B-0291掲載日:2021年6月
書面のない不動産贈与において、贈与者が引渡し前に贈与を解除することの可否
書面のない贈与により所有権移転登記が済んでいる不動産の受贈者である所有者から売却の相談をされている。継続して住んでいる贈与者は、まだ不動産の引渡しはしていないので、贈与を解除すると主張している。
事実関係
当社は不動産売買の媒介業者である。一戸建の所有者から売却の相談をされている。所有者は1カ月前に所有者の叔父から一戸建の贈与を受けたと言っており、登記記録を確認したところ叔父から甥である所有者に所有権移転登記がなされている。甥は、贈与された一戸建は古いため、叔父が他の所有している新築した建物に移り住み、将来的には家族のいない叔父の面倒を甥に見てもらいたいという思惑が贈与の理由と考えている。叔父は、新築建物へ移るまでの間、現在も一戸建てに住んでいる。甥が叔父に、贈与された一戸建ての売却の話を告げたところ、贈与して間もない期間で売却することに憤慨し、贈与はなかったことにすると言い張っているようだ。叔父、甥の関係もあり贈与に関する契約書等の文書は交していない。
質 問
書面によらない不動産の贈与は、所有権移転後でも、引渡しが終了していないときは、贈与者は贈与契約を解除することができるか。
回 答
1. | 結 論 | |
書面によらないで不動産を贈与した場合、所有権移転登記は贈与の履行とされ、贈与物の引渡し前でも、贈与者は贈与契約を解除することができない。 | ||
2. | 理 由 | |
贈与契約は、不動産に限らず、無償で財産を譲る側(贈与者)と受け取る側(受贈者)の意思の合致により成立する(諾成契約・民法第549条)。贈与契約は必ずしも書面ですることは要件でなく、口頭でも有効である。財産の贈与契約をした後、贈与者の気が変わり贈与を解除することが考えられる。書面で契約をしたときは、贈与者が贈与物を引き渡さなければ贈与者の債務不履行となり、贈与者に損害賠償責任が生じる(同法第415条)。しかし、書面によらない贈与は、当事者の意思の合致後であっても、贈与者、受贈者のどちらからも贈与の解除ができるが、贈与の履行が終了した部分については、解除をすることができない(同法第550条)。 軽い気持ちで相手方に「物をあげる」と口頭で贈与の意思表示をすることがあるが、物を引き渡す前に、「贈与はやめる」と贈与の解除をすれば、贈与はしなくてもよいのである。しかし、一旦相手に贈与物を渡せば、「返せ」とは言えないのである。実際に贈与がなされたことによる受贈者の信頼の保護と言えよう。 問題は、何をもって履行が終わった行為と判断されるかである。一般的な贈与の履行は贈与物の引渡しにより贈与契約は終了する。不動産の贈与においては、引渡しが贈与の履行終了となることは勿論のこと、「所有権移転登記が経由されたときは、当該不動産の引渡しの有無を問わず、贈与の履行を終わったものと解すべき」との裁判例があり、現実の引渡しがなくても、履行終了と認定される。贈与契約における所有権移転登記を形式上売買とした場合でも、贈与という「実態上の権利関係に符合していれば、履行完了の効果を生ずる」と解されている(【参照判例】参照)。 なお、不動産の引渡しは、現物の占有を現実に移すことである(同法第182条第1項)が、簡易の引渡し(同法第182条第2項)、占有改定(同法第183条)及び指図による占有移転(同法第184条)などの観念的な引渡しも有効とされている。 |
参照条文
○ | 民法第182条(現実の引渡し及び簡易の引渡し) | ||
① | 占有権の譲渡は、占有物の引渡しによってする。 | ||
② | 譲受人又はその代理人が現に占有物を所持する場合には、占有権の譲渡は、当事者の意思表示のみによってすることができる。 | ||
○ | 同法第183条(占有改定) | ||
代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。 | |||
○ | 同法第184条(指図による占有移転) | ||
代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する。 | |||
○ | 同法第415条(債務不履行による損害賠償) | ||
① | 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。 | ||
② | (略) | ||
○ | 同法第549条(贈与) | ||
贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。 | |||
○ | 同法第550条(書面によらない贈与の解除) | ||
書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。 |
参照判例
○ | 最高裁昭和40年3月26日 判時406号51頁(要旨) | ||
不動産の贈与契約において、該不動産の所有権移転登記が経由されたときは、該不動産の引渡しの有無を問わず、贈与の履行を終わったものと解すべきであり、この場合、当事者間の合意により、右移転登記の原因を形式上売買契約としたとしても、右登記は実態上の権利関係に符合し無効ということはできないから、前記履行完了の効果を生ずるについての妨げとなるものではない。 |
監修者のコメント
贈与は諾成契約かつ不要式契約すなわち契約書を作らなくても口約束だけで成立する。しかし、民法は「書面によらない贈与」は、履行が終わっていない限り、解除できるとしている。これは、物を他人にあげるという贈与の性質上、贈与者の意思表示が真実かどうか曖昧なことが多く、紛争になりやすいので、それを防止するため、あるいは贈与者が一時の感情にまかせて軽率な贈与をすることもあるため、これを救済するためと言われている。それゆえに、すでに履行が終わったものは解除できないとされている。
その「履行」の意味について不動産については、回答にあるとおり、引渡しまたは移転登記のいずれかがなされれば、履行があったものとして、もはや解除できないと解するのが最高裁判例であり、確立した理論と言ってよい。
なお、履行が終わった贈与は解除できないが、例えば、息子が父の商店を引き継ぐこと、息子が父の面倒を見るということ等を前提に父がその息子に不動産を贈与したところ、息子は父の面倒を見ないどころか、その商店を第三者に売却しようとしているように、受贈者が贈与者から受けた恩に背く著しい背信行為を行い、贈与の効力をそのまま維持することが贈与者に酷と言える場合には、裁判例上、贈与の解除が認められることがある。民法には、何ら規定はないが、これを「忘恩行為」による贈与の取消しという。要は、一般人の正義公平の観点からみて、あまりにもひどいケースについては、信義則、要素の錯誤あるいは負担義務の債務不履行等の理論をもって妥当な結論を導こうとするものである。相談ケースも「事実関係」にある事実のみでは分からないが、背景を詳細に検討すれば、「忘恩行為」による取消しが認められる可能性がないではない。