不動産相談

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ホームページに掲載しています不動産相談事例の「回答」「参照条文」「参照判例」「監修者のコメント」は、改正民法(令和2年4月1日施行)に依らず、旧民法で表示されているものが含まれております。適宜、改正民法を参照または読み替えていただくようお願いいたします。

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不動産のプロフェッショナル

ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
掲載にあたっては、プライバシーの保護のため、相談者等の氏名・企業名はすべて匿名にしてあります。
また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

2106-B-0290
収益物件の購入を検討していた法人の要望に応じて、入居者の一部を退去させたが、その法人とは契約締結に至らなかった。物件所有者は、損害賠償を請求できるか。

 商業ビルの購入を予定していたある法人は、その一室を自社で使用希望しており、入居者の立ち退きが条件であった。物件所有者は、入居者と明渡し交渉をしたところ、相応の立退料を支払うことで退去に応じた。しかし、当該法人の一方的理由により契約に至らなかった。賃借人が退去した室は空き家のままである。

事実関係

 当社は売買の媒介業者である。ビルの所有者から、商業地にある4階建ビルの売却を依頼された。建物は、1階は店舗で衣料品店が営業しており、2階は事務所で会計事務所が入居していた。3、4階は間取が2DKの居住用賃貸物件として各階2室の4室があり、満室であった。当社は、売主であるビルオーナーと売買の媒介契約を締結し、広告等販売活動を開始した。2週間後、投資用ビルを探していた法人から問合せがあり物件を内見した。法人は、駅にも近く、投資効率も見込めるということで、購入する方向で話を進めることにした。その後、法人から当社に、2階の事務所を自社で使用できることを条件に売出金額で購入したいとの連絡があった。当社は、売買契約について、売買金額、契約・決済予定日、支払条件等の契約条件を、売主と法人との間で交渉、調整し、2階事務所の明渡しを除いてはほぼ合意ができた。
 売主に事務所の明渡しの可能性については、売出金額でビルが売却できるのであれば、入居の会計事務所に話してみるとの回答があった。売主によると、会計事務所の代表に明渡しを打診した結果、代表は高齢で、業務は実質的に息子が取り仕切っており、顧問先が順調に伸びており、時期は明確ではないが事務所拡張のため移転も考えているとのことであった。売主は、会計事務所に対して、上積みした立退料の金額を提示したところ、会計事務所は短期間で明渡すことを了解した。購入希望の法人が、会計事務所の退去を確認した後に契約締結することを希望したので、当社は、売主、法人の了解を得て、3週間後に契約締結することにした。
 当社は、双方の合意内容を踏まえ、売買契約書の作成に着手した。ところが、契約締結予定日の1週間前になって、購入予定の法人から当社に連絡があり、売買金額の値引きを要求してきた。売主は、契約締結の条件は合意されており、値引きには応じられないとの回答であった。法人は、契約は、値引きに応じなければ契約は中止すると契約締結を拒んでいる。2階事務所の会計事務所は既に賃貸借契約を解除し退去した。売主の立退料の支払は済んでいる。なお、当然、空室になっている事務所の賃貸借契約はしていない。

質 問

 購入予定者の契約条件に従い、物件所有者は、賃借人を退去させたが売買契約に至らなかった。物件所有者は、購入予定者に対して、立退きに要した費用と空室分の賃料の損害賠償を請求できるか。

回 答

1.  結 論
 購入予定者は、信義則上の義務違反により不法行為責任を負い、物件所有者は、損害賠償を請求できる可能性が高い。
2.  理 由
 売買契約において、契約を締結するか否かは、当事者である売主又は購入予定者の自由である。一方が、契約の合意にもかかわらず、契約の締結をしないからといって、契約締結前であれば原則として法律上の責任は生じない。民法では、売買契約は当事者の意思表示の合致のみで契約が成立する(民法第555条)が、高額である不動産売買では、売買契約書を作成し、手付金等を授受するのが慣行であり、契約締結がなされない以上売買は不成立とされている(【参照判例①】参照)。したがって、売買契約に向けての交渉過程では、契約条件の合致はされておらず、合致がなければ、契約の成立には至らず、交渉を打ち切ることも当事者の自由である。購入希望者が購入申込書により購入の申込みをする、売主が、売却申込書により売渡の意思表示をしたとしても、この段階ではあくまでも交渉段階であり、契約締結がなければ、契約の成立とはならない。
 しかしながら、契約締結の交渉過程において、契約当事者が契約の締結に向けて緊密な関係に立つに至ったと認められる場合には、契約当事者は相手の財産等に損害を与えないよう配慮すべき信義則上の注意義務を負うとされている。この注意義務に違反して相手方に損害を与えた場合には不法行為となり、損害賠償責任が生じると解されている(【参照判例②】参照)。契約の交渉過程が一定の段階に達し、一方が契約の締結を拒否することが信義則に反すると認められる場合にも、相手方に損害賠償を負うことがある(同法第1条第2項、同法第709条)。
 相談ケースのように、物件所有者が契約の準備段階で売買対象建物の賃借人を退去させるために立退料として金銭を賃借人に支払い、購入予定者の賃貸人退去が条件でなければ、賃料収入も得られていたのであり、当事者間の契約締結の信頼関係を故意や過失で信頼関係を裏切る行為は、契約に至らなかったとしても、いわゆる「契約締結上の過失」として、相手方に損害を与えた場合にはその損害を賠償する責任が生じる(【参照判例③】参照)。
 売買契約では、契約締結までは契約は成立せず、当事者間の債権債務は発生しないと理解されているが、交渉過程において売買代金も決定し、契約条件が定まった段階に至って、正当な理由もなく、契約締結を取り止め、相手方に損害を与えた場合は損害賠償責任が生じることがあることを、媒介業者は留意しておきたい。

参照条文

 民法第1条(基本原則)
   (略)
   権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
   (略)
 同法第555条(売買)
   売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
 同法第709条(不法行為による損害賠償)
   故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

参照判例①

 東京高裁昭和50年6月30日 判タ330号282頁(要旨)
 本件のごとき相当高額な土地という類型に属する目的物の売買において売買契約の成立の時期をどうとらえるかということである。相当高額の土地の売買にあっては、前示要素のほかいわゆる過怠約款を定めた上、売買契約書を作成し、手付金もしくは内金を授受するのは、相当定着した慣行であることは顕著な事実である。この慣行は、重視されて然るべきであり、慣行を重視する立場に立てば、土地の売買の場合、契約当事者が慣行に従うものと認められる限り、右のように売買契約書を作成し、内金を授受することは、売買の成立要件をなすと考えるのが相当である。本件では、右慣行に従わないとする明示の意思表示はなく、慣行のように売買契約書を作成し、この時点で内金を授受することに合意していたのであるから、売買契約書を作成し、内金が授受されない以上売買は不成立というべきである。

参照判例②

 東京地裁平成5年1月26日 判タ840号181頁(要旨) 
 一般に、契約締結の交渉過程において、契約当事者が、右契約の締結に向けて緊密な関係に立つに至ったと認められる場合には、契約当事者は、相手の財産等に損害を与えないように配慮すべき信義上の注意義務を負い、右注意義務に違反して損害を与えた場合には、不法行為を構成し、その損害を賠償する義務が生じるというべきである。

参照判例③

 東京地裁平成15年12月19日 ウエストロー・ジャパン(要旨) 
 買主は、売主との間で、本件土地建物の売買契約について、売買代金も決定し、契約条件が定まった段階に至って、結局売買契約を拒否することになるのに、売主に対し、本件建物の5階をどうしても明けてほしい旨述べて、本件賃貸借契約の解約を求め、これにより、売主が損害を被ったのであるから、これは、契約締結の準備段階において信義則上の義務に違反したというべきであり、不法行為責任を負うというべきである。

監修者のコメント

 売買でも賃貸借でも、契約締結の交渉段階に入った者同士は、相互に相手方に不測の損害を被らせないようにする義務がある。民法に明文の規定はないが、「契約締結上の過失」あるいは「契約準備段階における過失」として理論上確立しており、異論を見ない。その根拠は、民法第1条第2項の信義則であることは一致しているが、その法律構成は「不法行為」とする考えと「債務不履行」とする考えに学説上は分かれているが、最高裁は、まだ契約が成立していない段階の問題だから債務不履行ではなく不法行為と解しているようである。いずれにせよ、契約成立に至らなかった原因者のほうに過失があることが必要であり、同じ契約をやめたとしても、やめた理由に已むを得ない事由があるときは、損害賠償責任は生じない。たとえば、契約交渉も熟してきた段階で相手方が反社会的勢力と関係が深いことが分かったので、契約締結をやめたというように、必ずしも不当とは言えない場合である。

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