不動産相談

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ホームページに掲載しています不動産相談事例の「回答」「参照条文」「参照判例」「監修者のコメント」は、改正民法(令和2年4月1日施行)に依らず、旧民法で表示されているものが含まれております。適宜、改正民法を参照または読み替えていただくようお願いいたします。

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不動産のプロフェッショナル

ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
掲載にあたっては、プライバシーの保護のため、相談者等の氏名・企業名はすべて匿名にしてあります。
また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

2106-R-0235
賃貸している建物の内装等を賃貸人が修繕する場合、賃貸開始時と同等の状態やグレードにする義務があるか。

 賃貸人は、賃貸している建物が水漏れにより室内に被害があり修繕をしたが、賃借人は、修繕後の内装が修繕前の状態と異なっているのは賃貸人の債務不履行であると主張し、修繕のやり直しを要求している。

事実関係

 当社は、賃貸の媒介兼管理業者である。当社が媒介した賃貸マンション一室の天井と上階の間の給水管のつなぎ目の不具合が原因で漏水が生じ、室内に被害が発生した。漏水により室内のクロスの剥がれ及びフローリング床の浮きや傷み等があったため、賃貸人は修繕工事を実施した。工事内容は、クロスの剥がれた部分と皺になっている箇所を切り取って同素材のクロスを貼り、床はフローリングの上から段差が生じないようにクッションフロアを張った。
 工事終了後、賃借人は、賃貸人が修繕したクロス工事は、応急的な切り貼りで、従来のクロスと修繕の際に貼られた時期の違いにより、経年変化で耐久性や耐摩耗性等が異なり、今後さらに違いが際立つ可能性が高く、同材料を使用しても接合部分が目立ち、内装全体の美観等が損なわれると主張し、新品クロスの全面貼り替えを求めている。また、賃借人は、当社が不動産情報サイトに掲載した広告には床材がフローリングである旨が記載、室内写真もフローリング画像であったことが、当室を賃借する動機であり、入居申込をした際に床がフローリングであることが入居条件として合意されており、賃貸人が賃借人の同意を得ずに一方的に床をクッションフロアに張替えたのは、賃貸借契約の信義則に反し、賃貸人の債務不履行であると主張し、床材も新規のフローリングに交換または損害賠償を要求している。

質 問

1.  賃貸人は、漏水事故等により建物や室内に修繕を要するときは、不具合発生前の状態に修繕する必要があるか。
2.  賃貸物件の入居者募集にあたり、広告等に床がフローリングであると記載した場合、その広告により入居申込をした賃借人は、賃貸人との間で賃貸借の入居条件の合意があったと言えるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 賃貸借契約に当事者間の合意(特約)のないかぎり、契約の趣旨に従い、賃借人が使用収益できる状態に修繕すればよいと解する。
 質問2.について ― 賃貸借契約締結時に、当事者間の明確な合意がなければ、賃借人の入居申し込み時点には入居条件の合意はなかったと解する。
2.  理 由
について
 建物の賃貸借契約は、賃借人に対し、賃借物である建物を使用収益させ、賃料を得る契約である(民法第601条)。賃借人の責めに帰さない事由により、賃借人の使用収益を妨げるような建物に不具合が生じたときは、賃貸人は必要な修繕をする義務を負っている(同法第606条第1項)。修繕が必要か否かの判断は、契約に従った使用収益に支障をきたす状態かどうかである。裁判例で、修繕の必要性は、「修繕しなければ賃借人が契約によって定まった目的に従って使用収益することができない状態となったこと」とであり、修繕の内容に関しては、「賃借人の主張するような,全部新規のものに交換するという方法で修繕をする必要性があることを認めるに足りる証拠はない」として、特段の事情がなければ、賃貸人の裁量であるとする裁判例が参考となる(【参照判例】参照)。
 賃借人の使用収益に支障があれば、賃貸人は、修繕を行うことになるが、相談事例の賃貸人が行うクロスの修繕については、賃借人が使用収益できる程度に行えばよいのである。フローリングの修繕に関しても同様である。床の機能が備わっていれば、材質をどのようなものにするかは、建物の所有者である賃貸人が最終的に判断すべきことである。負担力にもよるが、賃貸人は、フローリングにしたほうが入居者の募集に有利との判断や賃借物の価値向上が図れると考えれば従前の設備以上に修繕する場合もあろう。
について
 賃借人は、賃借物の選定にあたり、広告に記載されたフローリング床が判断の一つであった。賃借人は、フローリングであることにより入居申込をし、賃貸人との間で賃貸借契約をしたのは、貸室がフローリングであるという入居条件の合意があり、賃貸人はフローリングの状態で賃貸する義務を負い、修繕はフローリングにすべきであると主張している。しかし、広告にフローリングと記載され、賃借人がフローリングを前提に入居申込をしたとしても、契約書上に賃貸人がフローリングの状態で賃貸する旨の記載がなければ、合意の成立はないと解する。裁判例では、「申込み及び対応は、本件賃貸借契約締結の前段階のものであり、その段階で賃貸人が本件貸室をフローリングの状態で貸すことを明示的にも、黙示的にも、賃借人と合意していたと認めるに足りる証拠はない。本件賃貸借契約を締結した際はもとより、同契約以前においても賃貸人が本件貸室を、賃貸情報に掲載されていた当時の本件フローリングの状態で貸すことを賃借人と合意していたとは認められない」としている(【参照判例】参照)。

参照条文

 民法第415条(債務不履行による損害賠償)
   債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
   (略)
 同法第601条(賃貸借)
   賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
 民法第606条(賃貸人による修繕等)
   賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
   賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。

参照判例①

 東京地裁平成27年8月4日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 本件賃貸借契約には賃貸人が負うべき修繕義務の内容についての特段の定めはなく、賃借人も民法606条1項の規定に基づく修繕請求をしているのであるが、賃貸借契約が賃借人に使用収益させることを本質とする契約であることからすれば、同項にいう修繕の必要とは、修繕しなければ賃借人が契約によって定まった目的に従って使用収益することができない状態となったことをいうと解するのが相当である。
 賃貸人は壁等に貼られた壁紙(クロス)を全部新規のものに交換するよう求められているが、前記にいう修繕の必要性があると認めるに足りず、他に、賃借人の主張するような、全部新規のものに交換するという方法で修繕をする必要性があることを認めるに足りる証拠はない。(中略)
 締結された本件賃貸借契約書上、本件貸室の床がフローリングであることを示す記載はないから、本件契約書上、本件貸室がフローリング床であることが入居条件となっていたとは認められない。この点、本件貸室の賃貸情報には床がフローリングであると記載され、不動産情報サイトに掲載された写真はフローリング材のものであり、賃借人はこれらの情報を得て本件貸室の賃貸申込みをし、賃貸人も賃借人が本件貸室を賃借することを前提とした対応をしたのであるが、上記申込み及び対応は、本件賃貸借契約締結の前段階のものであり、その段階で賃貸人が本件貸室をフローリングの状態で貸すことを明示的にも、黙示的にも、賃借人と合意していたと認めるに足りる証拠はない。以上によれば、本件賃貸借契約を締結した際はもとより、同契約以前においても賃貸人が本件貸室を、賃貸情報に掲載されていた当時の本件フローリングの状態で貸すことを賃借人と合意していたとは認められない。
 したがって、賃貸人が本件フローリングの状態で賃貸する義務があったことを前提として、本件床材と巾木の新規のものへの交換を求める賃借人の主張は、その前提を欠き、認められない。

監修者のコメント

 回答の参照判例は、もちろん参考にはなるが、当該事案についての判断であり、これを他の事案に普遍化することはできない。たしかに、修繕も基本的には、賃借人が使用収益できる状態にすることであるが、クロスがつぎはぎだらけで見苦しいものになって、他人には見せられないものを、生活はできるのだから問題ないだろうとは言えない。また、フローリングの問題についても、契約書にその旨の記載がなければ、フローリングを維持すべき法的義務は一応はないとしても、広告中にフローリングと謳っているので、ダニの問題の考慮からその部屋を借りることにした賃借人に対して、フローリングを仮に謳い文句にした賃貸人が「契約書にないから、自由に変更できる」という主張をした場合、当然には認められない可能性もある。媒介・管理業者としては、貸主に慎重な対応をすべきことを指導することが望まれる。

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