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2104-B-0289掲載日:2021年4月
標準管理規約採用の住宅専用マンションで、居室の一部を居住以外の用途で使用することは、絶対にできないのか
当社は媒介業者であるが、マンションの売買において、専有部分の一部を、小規模ビジネスで使用をしたいという買主がいる。
マンション標準管理規約を採用しているマンションの場合、専有部分を居住以外に使用してはならないことになっているが、ビジネスの形態を問わず、区分建物を仕事場にすることは絶対にダメなのか。
事実関係
当社は、不動産売買の媒介業者であるが、区分所有マンションの購入希望者から、標準管理規約採用の住宅専用マンションを居宅兼事務所として使用したいとの相談を受けている。
近ごろ、ITの進展にともない、在宅ワーク等働き方の多様化が進み、会社員の副業や退職後の高齢者が個人事業を始めるなど自宅の一部を事務所(SOHO*注1)にしたいという人や、生け花など趣味の教室を自宅で開きたいという主婦も増えている。
住宅地にある一般的な分譲マンションは、マンション標準管理規約(以下、「管理規約」)で専有部分を居住以外には使用できない旨が定められているが、他の居住者に迷惑をかけなければ、自宅を利用して仕事や教室をすることは問題ないのではないかと思っている。
なお、購入を予定しているマンションの集合ポストには、個人名とともに法人名が記されている住戸があり、事務所としての利用も複数あるようだ。
*注1「SOHO」…「small office・home office(スモールオフィス・ホームオフィス)」の略。パソコン等を使用して個人等がビジネスをする自宅や作業場のことをいう。
質 問
1. | 区分所有者である個人事業者が、管理規約で用途が居住用と定められているマンションの1室を事務所として利用することはできるか。 |
2. | 区分所有者が、管理規約に定められた居住用以外の用途で使用したときは、何らかの制裁的なものが課されることがあるのか。 |
回 答
1. | 結 論 | ||
⑴ | 質問1.について ― 基本的に、管理規約で定められた用途以外で使用することはできない。ただし、管理組合での取決めにより、管理組合に届出等をすれば、許容される場合がある。 | ||
⑵ | 質問2.について ― 管理組合は、定められた用途以外で部屋を使用し、そのため共同生活上の障害が著しい等、一定の要件を備えるときは、区分所有者に対して、その行為の停止を請求することや、裁判によって使用禁止や区分所有権の競売の請求をすることもできる。 なお、賃貸借契約等で区分所有者から部屋を賃借している賃借人が、違反行為をしていた場合、区分所有者は賃借人に対して、契約の解除及びその専有部分の引渡しを請求することができる。 |
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2. | 理 由 | ||
⑴ | ⑵について 居住用の集合住宅は、居住者にとっては生活の本拠であり、みな平穏に暮らしたいと願っている。国土交通省が示しているマンション標準管理規約では、専用住宅として用途を定めた条文に「区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない(管理規約第12条)」としており、その条項の趣旨を「住宅としての使用は、専ら居住者の生活の本拠があるか否かによって判断する。したがって利用方法は、生活の本拠であるために必要な平穏さを有することを要する(管理規約第12条関係コメント)」と説明している。 集合住宅である分譲マンションでは、他の区分所有者の平穏な生活を阻害する行為は、共同の利益に反する行為として禁止されている(建物の区分所有等に関する法律第6条)。共同の利益に反する行為には、建物の利用・使用方法違反のほか、他の区分所有者への迷惑行為、共同維持管理義務違反などがある。 具体的には、専有部分であれば、所有者又は占有者(賃借人)が、居住専用であるにもかかわらず、事務所や店舗など管理規約で定められた以外の用途での使用をしたり、騒音・悪臭の発生、管理費滞納、ペットの無断飼育、プライバシー侵害などの迷惑行為をしたり、など。共用部分であれば、所有者又は占有者(賃借人)が壁にエアコンの穴をあけるなどの改造をしたり、ベランダ等の専用使用部分の不当使用をしたりなどが挙げられる。これらの行為は管理規約に違反するだけではなく、平穏であるべき居住環境に悪影響を及ぼし、かつ破壊する行為にもつながりかねない。このような行為をした区分所有者に対し、他の区分所有者全員又は管理組合法人は、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができ(同法第57条)、この請求は裁判によらなくても可能である。いわゆる警告を発することもでき、その警告によっても違反行為が改善されず、共同生活の維持を図ることが困難であるときは、一定の手続を経て、当該区分所有者に対し、管理組合の決議をもって、裁判により専有部分の使用の禁止を請求することができる(同法第58条)。それでも共同生活上の障害が著しく、共同生活の維持を図ることが困難であるときは、管理組合の決議をもって、裁判により当該区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる(同法第59条)。 本事例のように、専有部分の使用が居住用に限られている集合住宅で異なった使用をした区分所有者に対し、事務所使用の禁止(【参照判例①】参照)、保育室の使用禁止(【参照判例②】参照)の判例がある。特に暴力団事務所としての使用に対し、使用禁止や区分所有権の競売を命じた判例は、数多くある。なお、管理規約に反した治療院としての部屋の使用を容認した判例(【参照判例③】参照)があるが、これは同じように使用違反をしていた他の区分所有者の決議による訴えであったため、「クリーン・ハンズの原則*注2に反し、職権の濫用といわざるを得ない」と訴えを退けたもので、きわめて異例な判断といえよう。 マンションの媒介において、購入予定者が自宅の一部を仕事場等として使用したいという希望があるときは、対象マンションの管理規約を確認し、当該住戸の用途を確認する必要がある。居住専用とされている場合は、原則、居住以外には使用することはできない。しかし、文筆業やパソコンで作業するプログラマー、自宅を仕事場とする士業など、個人作業で騒音等がなかったり、来客はないか特定の少数者のみであったりなど、他の居住者の生活に支障を与えることがない場合は一般的には問題ないであろうが、その場合でも、管理組合に事前に届け出ることが必要となる場合もある。いずれにしても、管理組合又は管理会社に調査確認し、どの程度の使用であれば認められ、事前届出書等の手続きが定められているかも含め、確認しておくことが必要である。 媒介業者が、買主の居住専用以外に使用するという目的を知っていたにもかかわらず、買主の購入後になってからその使用ができなくなったときは、買主から説明義務違反を問われることもあるので注意が必要である。 *注2「クリーン・ハンズの原則」…法を尊重するものだけが、法の救済を受けるという私権を制限するひとつの原則(民法第1条第2項、同法第708条から導き出された法理)。 |
参照条文
○ | 民法第1条(基本原則) | ||
① | 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。 | ||
② | 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。 | ||
③ | 権利の濫用は、これを許さない。 | ||
○ | 同法第708条(不法原因給付) | ||
不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。 | |||
○ | 建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)第6条(区分所有者の権利義務等) | ||
① | 区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。 | ||
② | (略) | ||
③ | 第1項の規定は、区分所有者以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)に準用する。 | ||
○ | 同法第57条(共同の利益に反する行為の停止等の請求) | ||
① | 区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。 | ||
② | 〜④ (略) | ||
○ | 同法第58条(使用禁止の請求) | ||
① | 前条第1項に規定する場合において、第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、前条第1項に規定する請求によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、相当の期間の当該行為に係る区分所有者による専有部分の使用の禁止を請求することができる。 | ||
② | 〜④ (略) | ||
○ | 同法第59条(区分所有権の競売の請求) | ||
① | 第57条第1項に規定する場合において、第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。 | ||
② | 〜④ (略) | ||
○ | 同法第60条(占有者に対する引渡し請求) | ||
① | 第57条第4項に規定する場合において、第6条第3項において準用する同条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る占有者が占有する専有部分の使用又は収益を目的とする契約の解除及びその専有部分の引渡しを請求することができる。 | ||
② | ・③ (略) | ||
○ | 国土交通省 マンション標準管理規約(単棟型)第12条(専有部分の用途) | ||
区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。 | |||
○ | 同省 マンション標準管理規約(単棟型)コメント第12条関係 | ||
住宅としての使用は、専ら居住者の生活の本拠があるか否かによって判断する。したがって利用方法は、生活の本拠であるために必要な平穏さを有することを要する。 |
参照判例①
○ | 東京地裁八王子支部平成5年7月9日 判時1480号86頁 | ||
管理規約違反を放置すると、住居専用部分と店舗専用部分との区画が曖昧になり、やがては居住環境に著しい変化をもたらす可能性が高いばかりでなく、管理規約の通用性・実効性、管理規約に対する信頼を損なう、広く他の規約違反を誘発する可能性さえある。事務所使用は、建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為である。 (同様に、事務所使用が居住専用と定めた規約に違反したとして、使用禁止が命じられた判例=東京高裁平成23年11月24日 判タ1375号215頁)。 |
参照判例②
○ | 横浜地裁平成6年9月9日 判時1527号124頁 | ||
本件建物を保育室として使用することは、本件規約に反し、しかも、それにより他の区分所有者に被害を与えるから、他の区分所有者の共同の利益に反する使用方法であるというべきである。 (同様に無認可託児所が管理組合の使用禁止請求が容認された判例=東京地裁平成18年3月30日判 判時1949号55頁) |
参照判例③
○ | 東京地裁平成17年4月21日 判タ1205号207頁(要旨) | ||
住戸部分を事務所としている大多数の用途違反を長期間放置し、かつ、現在に至るも何らの警告も発しないでおきながら、他方で、事務所と治療院とは使用態様が多少異なるとはいえ、特に合理的な理由もなく、しかも、多数の用途違反を行っている区分所有者である組合員の賛成により、被告に対して、治療院としての使用の禁止を求める原告の行為は、クリーン・ハンズの原則に反し、職権の濫用といわざるを得ない。 |
監修者のコメント
居住の用以外に使用してはならないといっても、専有部分内で仕事をしてはならないという意味ではない。もし、そうであれば、回答にもある文筆業やプログラマーも、そのマンションの居室で仕事ができないことになり、サラリーマンは自宅に仕事を持ち帰ってすることもできなくなってしまう。
要は、居住者の共同の利益を害するか否かであり、平たくいえば、居住専用で使用している他の区分所有者の迷惑になるかどうかが判断の基準である。
したがって、事務所として使用するとしても、他の居住者からみて居住用として使用しているのと同じ態様であれば問題ないと思われる。
その観点からすると、生け花教室とか学習塾などは、規約により特別な要件により認められる場合でない限り、居住専用とは相容れない。要するに、不特定人または多数人が出入りするケースは、居住専用の概念と矛盾し、原則的には認められないと解される。