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2104-R-0232
賃貸借契約の建物が震災により損壊して契約解除となった場合の賃料支払義務と敷引特約の適用の可否

 当社は、賃貸の媒介業者である。1年前に媒介したアパートが震災被害にあい、建物が損壊したため賃借人の居住が困難となった。賃借人は、契約を解除したが、震災日以降の前払い賃料を日割精算し返還を求めている。また、賃貸人は約定の敷引特約に従い、敷金の全額は返還しないと主張している。

事実関係

 当社は、賃貸の媒介業者である。1年前に賃貸借契約を媒介したアパートが、震災により被害を受けた。アパートは、倒壊は免れたが、柱がずれており、外壁も損壊し、半壊状態でかなりの傾きがある。地震直後は水道、電気も止まり、復旧に10日間を要した。賃借人は、建物が損壊し、ライフラインが寸断されている状態では、居住することは困難であり、余震も続いていたため、地震発生から2日間は一時避難所で過ごし、その翌日に隣県の親戚宅に身を寄せた。
 震災発生から2週間後、余震の頻度も減少したこともあり、賃借人は、当社に来社し、賃貸借契約の解除を申入れてきた。解除にあたり、前家賃として支払っている賃料の地震発生日を境として、月初から発生日までと翌日以降を日割り計算した翌日以降の金額の返還と、敷金の全額である賃料4か月相当分の返還を要求している。敷金は、契約終了時に2か月相当分を差し引いて返還するいわゆる敷引をする約定となっている。賃貸人は、「退去の申し入れは、地震発生から2週間後であり、支払済の賃料を精算しての返還はしない。また、当月は解除申入日まで数日間経過したが、その間の賃料は請求せず、免除する」と言っている。敷金は、約定に従い、2か月相当分を差し引いた金額の返還を主張している。
 なお、賃貸人は、建物は全壊ではないものの、修復には多額の出費を要することが予測され、困難であることから、修復はせずに行政の補助金の利用を期待し、時期を見て取壊すことを考えている。

質 問

1.  賃借人は、震災でアパートが半壊状態になったことを理由に賃貸借契約を解除することができるか。
2.  賃借人が天災によって契約解除をした場合、賃料の支払義務が免除されるのは、天災日からか、又は、契約解除の申入れ日からか。
3.  賃貸人は、震災による賃貸借契約終了にあたり、契約で約定した敷引相当分を控除して賃借人に返還することができるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 賃借人は、客観的にみて賃貸借契約を締結した目的である賃借物の使用収益ができなければ、契約解除をすることができる。
 質問2.について ― 賃借人は、解約の時期を問わず、天災による賃借家屋の損壊状態が発生したときから、賃料の支払義務を免れると解されている。
 質問3.について ― 災害により賃借家屋が滅失し、賃貸借契約が終了したときは、特段の事情がない限り、敷引特約を適用することはできないと解されている。
2.  理 由
⑵について
 建物の賃貸借は、賃貸人が賃借人に対し、賃貸物である建物の使用及び収益をさせ、賃借人は賃貸人にその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる(民法第601条)。したがって、賃貸人は、建物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負い(同法第606条)、万一、建物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができ、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる(同法第611条)とされている。
 賃借人の過失によらない滅失は、相談の地震や洪水・台風・落雷等の天災・自然災害、また、火災の類焼、構築物や樹木の倒壊、自動車等の乗り物・交通機関の衝突などが挙げられるであろう。
 賃料の支払と賃借物の使用収益は対価関係(同法第601条)にあり、賃借物が滅失したときには賃貸借契約は終了し、賃借物が滅失するに至らなくても、客観的にみてその使用収益ができなくなったときには、賃借人は当然に賃料の支払義務を免れると解されている。「賃借人の賃料支払義務は、通常の場合、解約申入れ後の契約終了時点までであるが、天災等の賃貸人、賃借人双方の責めに帰することができない事由によって建物が損壊されて使用収益が全部制限され、客観的にみて賃貸借契約を締結した目的を達成できない状態になったため、賃貸人による修繕が行われないままに賃貸借契約が解約されたときには、公平の原則により、双務契約上の危険負担に関する一般原則である民法第536条第1項※1を類推適用して、解約の時期を問わず、天災による損壊状態が発生したときから、賃料の支払義務を免れる」とした裁判例がある(【参照判例①】参照)。 ※1:旧(改正前)条文
について
 賃貸借契約に際し、敷金は、賃借人の賃料債務やその他の債務を担保する目的で賃借人から賃貸人へ預託されるもので、その敷金は、契約終了時に賃借人に債務がなければ、賃貸人から賃借人へ返還される(同法第622条の2)。契約時に授受される敷金のうち、賃貸終了時に敷金の一定額又は一定割合を返還しない旨の特約を敷引特約として、関西地域では一般的に約定されている。敷引特約により、敷金から控除される金額は、賃貸借契約成立に対する礼金または権利金、建物の通常使用に伴う自然損耗部分の修繕費用、空室損料等、様々な性質を持つが、契約時には、何の性質かについては、判然としないことが多い。しかし、敷引特約で控除される金額については、一方的に賃借人に不利であるとか、信義則上認められない、あるいは公序良俗に反しない限り、有効であるとされている。
 天災等により建物が滅失あるいは建物が使用収益ができなくなり契約解除する場合、敷引特約に約定された敷金の一定金額を返還しないことができるか否かであるが、特段の事情がない限り、敷引特約を適用することはできず、賃貸人は賃借人に対し敷引金を返還すべきものと解されている。特段の事情としては、いわゆる礼金として合意された場合のように当事者間に明確な合意が存する場合である。一般に、賃貸借契約が火災、震災、風水害その他の災害により当事者が予期していない時期に終了した場合についてまで敷引金を返還しないとの合意が成立したと解することはできず、他に敷金の不返還を相当とする特段の事情がない限り、これを賃借人に返還すべきものとしている(【参照判例②】参照)。したがって、災害により賃貸借契約が終了したときは、契約当事者の明確な合意がない限り、原則として、敷金から敷引金額は控除できないことになる。

参照条文

 民法第536条(債務者の危険負担等)
   当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
   (略)
 旧(改正前)民法第536条(債務者の危険負担等)
   前2条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
   (略)
 同法第601条(賃貸借)
   賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
 同法第606条(賃貸人による修繕等)
   賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
   賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
 同法第611条(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)
   賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
   賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
 同法第622条の2(敷金)
   賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
     賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
     賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
   賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。

参照判例①

 大阪高裁平成9年12月4日 判タ992号129頁(要旨)
 賃貸借契約は、賃料の支払と賃借物の使用収益を対価関係とすることからみて、賃借物が滅失したときには賃貸借契約は終了し、賃借物が滅失するに至らなくても、客観的にみてその使用収益ができなくなったときには、賃借人は当然に賃料の支払義務を免れると解すべきであるが、更に、建物や居室の賃貸借契約において、建物や居室が天災によって損壊されて使用収益が全部制限され、客観的にみて賃貸借契約を締結した目的を達成できない状態になったため、賃貸人による修繕が行われないままに賃貸借契約が解約されたときにも、公平の原則により、双務契約上の危険負担に関する一般原則である民法第536条第1項を類推適用して、解約の時期を問わず、天災による損壊状態が発生したときから、賃料の支払義務を免れると解するのが相当である。

参照判例②

 最高裁平成10年9月3日 判タ985号131頁(要旨)
 居住用の家屋の賃貸借における敷金につき、賃貸借契約終了時にそのうちの一定金額又は一定割合の金員(以下「敷引金」という。)を返還しない旨のいわゆる敷引特約がされた場合において、災害により賃借家屋が滅失し、賃貸借契約が終了したときは、特段の事情がない限り、敷引特約を適用することはできず、賃貸人は賃借人に対し敷引金を返還すべきものと解するのが相当である。けだし、敷引金は個々の契約ごとに様々な性質を有するものであるが、いわゆる礼金として合意された場合のように当事者間に明確な合意が存する場合は別として、一般に、賃貸借契約が火災、震災、風水害その他の災害により当事者が予期していない時期に終了した場合についてまで敷引金を返還しないとの合意が成立したと解することはできないから、他に敷金の不返還を相当とするに足りる特段の事情がない限り、これを賃借人に返還すべきものであるからである。

監修者のコメント

 震災により、賃貸建物が滅失した場合、貸主、借主双方とも大きな損害を蒙り、貸主も預かっていた敷金を返還することができなくなるのが通常である。そこで、天災地変で建物が滅失したときは、貸主は敷金返還義務を免れるという特約が少なからず存在した。回答の参照判例②の最高裁判例は、平成7年1月の阪神・淡路大震災により賃貸建物が滅失した場合における、そのような特約の効力が争われた事案である。最高裁の思考は、大震災による損害は、みんなが均しく受けるべきであるのに、貸主の敷金返還義務が免除されると借主にも何の責任もないにもかかわらず、貸主のみが利益を受け、不公平だということである。
 本相談事例は、建物の「滅失」ではなく「損壊」であるから最高裁判例の事案と同列に論ずることはできず、裁判になってもおかしくないが、おそらく回答のとおりの結論になる可能性が高いと考える。

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◎ ご相談・ご質問は、簡潔にお願いします。
◎ 既に訴訟になっている事案については、原則ご相談をお受けできません。ご担当の弁護士等と協議してください。

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