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ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
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また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

2102-R-0229
賃貸人が、他室と異なる高い賃料であることを賃借人に告げずに賃貸借契約を締結することは消費者契約法に違反するか。

 当社が媒介した賃貸マンションの賃借人から、同マンションの他室が低い賃料であることの説明を受けずに高い賃料で契約させられたのは、賃借人が不利益となる事実を賃貸人が賃借人に対して告知すべき規定のある消費者契約法に抵触し、契約の取消しができると主張している。

事実関係

 当社は、賃貸の媒介業者であるが、相続で賃貸マンションを引き継いだ賃貸人の依頼により、以前から入居している賃借人との間の賃貸借契約を巻き直すために新規契約としての媒介をした。10年前に当時の賃貸人である亡父親と賃借人の間で賃貸借契約を締結していたが、相続した賃貸人が契約内容を確認すると、原状回復費用負担や、賃借人の小修繕費用負担や賃借人からの中途解約事項の約定がない等、契約内容に曖昧な事項が多数みられた。賃貸人は、相続により賃貸借契約を引き継いだ機会に当社のアドバイスを得ながらに契約内容を再点検して新規の契約として締結に至った。賃料は、従前と同額とした。
 契約締結して3か月後、賃借人は、賃貸マンションに5年前に居住した他の入居者と賃料が異なることを知った。マンションの同じ3階で、同面積、同間取りにもかかわらず、他の入居者の賃料は、賃借人の賃料と比較すると1万円程低額である。賃借人は、マンションの新築時から入居しており、当初の賃料は所在階によって多少の賃料の差はあったが、同じ所在階の賃料は同額だったと記憶している。
 賃借人は、媒介した当社に対して、賃料を他室と同額に値下げするように申し入れてきた。賃貸人との交渉はこれからであるが、賃借人は、事業者である賃貸人が、賃料の値下げに応じないのであれば、消費者契約法に規定している不利益事実の不告知による取り消しと、他の入居者が契約した5年前から現在までの期間の差額賃料は不当利得であるとして返還を要求すると言っている。

質 問

1.  賃借人は、消費者契約法に規定する、事業者である賃貸人が、消費者である賃借人に対して不利益となる事実を告知すべきであるのに告知しなかったことを理由に賃貸借契約を取り消すことができるか。
2.  賃借人は、賃貸人に対して、賃料を値下げして他の入居者を入居させた時期から現在までの他室との賃料差額の返還を請求することができるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 消費者である賃借人に対し、賃貸人が単に不利益となる事実を告げなかったからといって契約を取り消すことはできない。
 質問2.について ― 賃貸借契約においては、居室ごとの賃料額に差異が生ずることがあり、差異があるからといって、他室との賃料差額の返還を請求することはできないと解する。
2.  理 由
⑵について
 消費者契約法第4条第2項は、事業者が、利益な事実を告知し、かつ、不利益な事実を告げなかった場合に、消費者は、意思表示を取り消すことができると規定している。賃貸人は、事業者として位置づけられており、賃借人が消費者のときは、消費者契約法の適用を受ける。賃貸人は、消費者である賃借人と賃貸借契約を締結する際に、賃借人に対して、賃貸物件が、「居室の賃料は同一である」との説明など、重要な事項について賃借人の利益になる旨を告げ、かつ、「不利益となる事実」を故意に告げなかったことにより、賃借人が、当該事実が存在しないとの誤認をして当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる(消費者契約法第4条第2項)とされているが、相談ケースでは、利益となる旨は告げておらず、同法同条同項には抵触しておらず、取消はできないと解される。
 また、賃貸人が、賃借人に対して、他の居室の賃料額を説明しなかったからといって、説明義務違反の不法行為(民法第709条)にあたるともいえない。
 したがって、賃貸人の契約行為が、消費者契約法違反並びに不法行為に該当しなければ、賃借人の請求する賃料差額の返還請求も法的根拠はなく、賃貸人は賃借人に対しての不当利得返還義務(同法第703条)も存在しないといえる。裁判例では、「同一の建物においても、個々の居室の状態等に応じて賃料額が定められ、結果として、居室ごとの賃料額に差異が生ずる。賃貸人が、賃借人に対し、他の居室の賃料額を説明しなかったからといって、それが賃借人に対する不法行為であるとはいえない」と不法行為を否定し、さらに、「賃貸借契約が無効あるいは取り消しうるものとはいえない以上、賃借人が支払った賃料の一部が、法律上の原因なく賃借人に利益を生じさせたともいえない」として、「賃借人に、他の居室の賃料額との差額分の不当利得返還請求権が生ずるともいえない」としているものがある(【参照判例】参照)。
 賃貸借契約における賃料は、その裁判例でも指摘されているように「個々の居室の状態(建物損耗や賃借人の使用状態、階層、日照等)」や「賃借人募集時期(賃借人の入学・転勤等の異動時期等)」、「入居時期(新築時、経年変化や老朽化後等)」、「地域内の需給関係」等に応じて設定される。媒介業者や賃貸管理業者は、賃借人から同一内物件で賃料が異なり、賃料の差額があるときに時折り値下げの交渉の依頼や相談を受けることがある。賃借人に対しては、契約時点や入居時期が異なることを理解してもらうことが必要であろう。
 しかし、賃借人は、既に約定の賃料額で契約をしており、途中で変更するのはまず無理であるが、賃貸人及び賃借人双方に借賃増減請求権(借地借家法第32条)があり、極端に賃料が不相応となった場合には、更新時期等に賃貸人と交渉しなければならない場面に臨むこともあるだろう。

参照条文

 民法第703条(不当利得の返還義務)
   法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
 同法第709条(不法行為による損害賠償)
   故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
 借地借家法第32条(借賃増減請求権)
   建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
   建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
   建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年1割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。
 消費者契約法第4条(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
   消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
     重要事項について事実と異なることを告げること。当該告げられた内容が事実であるとの誤認
     物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認
   消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。
  ・④ (略)
   第1項第1号及び第2項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項(同項の場合にあっては、三号に掲げるものを除く。)をいう。
     物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの
     物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの
     前二号に掲げるもののほか、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益についての損害又は危険を回避するために通常必要であると判断される事情
   (略)

参照判例

 東京地裁平成24年2月3日(要旨)
 賃借人は、賃貸人が、本件賃貸借契約を締結するに当たり、本件建物の他の居室の賃料が減額されていることを告げなかったから、消費者契約法第4条第2項により、本件賃貸借契約を取り消すと主張する。
 しかし、同項は、事業者が、重要事項に関し、消費者に利益となる旨告げ、かつ、消費者の不利益となる事実を告げなかったことにより、消費者において不利益となる事実が存在しないとの誤認をした場合に、意思表示を取り消すことができるものと定めるところ、賃貸人が、賃借人に対し、本件建物の居室の賃料が一律であると説明するなどして、賃借人に利益となる旨告げたことを認めるに足りる証拠はない。よって、賃借人の上記主張は採用することができない。
 賃借人は、賃貸人が、本件建物の他の居室の賃料が減額されていることを告げなかったため、本来支払うべき賃料額を超える賃料を支払ってきたから、それが返還されるまで、賃料を支払う必要はないと主張する。
 しかし、同一の建物においても、個々の居室の状態等に応じて賃料額が定められ、結果として、居室ごとの賃料額に差異が生ずることもあり得るのであって、それが不当なこととはいえないから、賃貸人が、賃借人に対し、他の居室の賃料額を説明しなかったからといって、それが賃借人に対する不法行為であるとはいえない。また、上記において説示したとおり、本件賃貸借契約が無効あるいは取り消しうるものとはいえない以上、賃借人が支払った賃料の一部が、法律上の原因なく賃借人に利益を生じさせたともいえないから、賃借人に、他の居室の賃料額との差額分の不当利得返還請求権が生ずるともいえない。

監修者のコメント

 不動産鑑定評価の世界においても「新規賃料」すなわち新しく不動産の賃貸借契約を締結するときの賃料と「継続賃料」すなわち更新等により、賃貸借契約が継続する場合の改訂賃料とでは、当然異なると理解されており、まったく同一の条件の物件でも両者の賃料は異なる。賃料は回答にもある諸般の事情によって決定されるのであり、他の部屋の賃料について虚偽の額を言ったのではない限り、高いことを理由に文句は言えないし、不当利得の主張も通らない。
 ただ、他の部屋に比べて高いのであれば、借地借家法32条の賃料減額請求ができるかどうかの点で争えば良い。

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