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2010-B-0280
完成物件の売買契約締結直後の買主への表示登記と買主の手付解除の成否

 当社は建売業者であるが、建売住宅の完成在庫に買主が付いたので、その買主との間で売買契約を締結し、決済・引渡しの日を1か月後とした上で、10日後には買主名義で建物の表示登記を完了した。
 ところが、すぐそのあとに買主から手付解除の申し出を受けた。このような場合の手付解除は認められるのか。当社(売主)は、買主に対し違約金を請求したいと考えているが、請求は可能か。
 なお、当社は売買契約締結後、今回の手付解除の申し出があるまでに、買主との間で駄目工事のための建物の内覧・点検業務は行っていない。

事実関係

 当社は建売住宅の分譲業者であるが、昨年の秋に販売を開始した建売住宅に完成在庫(売れ残り)が発生し、間もなく買主が付いた。
 当社としては、最後の売れ残り物件なので、何とかこの買主との間で売買契約を締結し、できるだけ早く決済・引渡しを済ませたいと考えた。その理由は、買主がキャッシュでの買主だったからである。そのため当社は、決済・引渡しの期日を契約締結の1か月後に定め、その間に建物の手直しがあればそれを完了させることにし、買主もこれに応じたので、2つ目の条件として、売買契約締結後直ちに買主名義で表示登記を行うことにし、契約締結10日後にその登記を完了させた。ところが、その登記完了後、買主から手付解除の申し出がなされた。
 なお、この間建物の手直し工事についての内覧・点検業務などは行っていない。

質 問

1.  このような事実関係のもとにおいて、買主からの手付解除は認められるか。
2.  売主としては、すでに買主に対する建物の表示登記を完了しており、履行に着手しているので、違約金を請求したいと考えているが、請求は可能か。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 認められる可能性がある。
 質問2.について ― 現状では違約金を請求することはできない。
2.  理 由
について
 本件の問題点は、売主が行った買主名義の建物の表示登記が「履行の着手」に当たるかどうかということであるが、その表示登記だけを考えた場合には、「履行の着手」に当たる可能性がないとはいえないが、本件の場合には、売主(宅建業者)が本来買主に行うべき物件の最終確認すなわち通常行われる建物の内覧による駄目工事の点検・確認行為が行われていないことから、売主(宅建業者)としてはやるべきことをやっていない(考えようによっては、建物がまだ完成していない)とも考えられるので、宅建業法第39条第2項の立法趣旨に鑑み、買主は、その点検・確認がなされるまでは、手付解除をなし得るものと解する余地があるからである。
 なお、本件の「表示登記」については、決済までに1か月あるにもかかわらず、契約締結後すぐに行われた点に何か売主の意図的なものを感じる点も、「履行の着手」の判断をマイナスに作用させる可能性がある。
について
 本件の「表示登記」については、前述⑴のとおり、「履行の着手」とは認められない可能性があるので、その場合には買主の手付解除が有効な解除とされ、買主には違約が生じないからであるが、いずれにしても、買主が違約になるには、本件の決済・引渡し期日までに残代金の支払いがなされないという事実がなければならない。

参照条文

 民法第415条(債務不履行による損害賠償)
   債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
   (略)
 同法第420条(賠償額の予定)
  ・② (略)
   違約金は、賠償額の予定と推定する。
 同法第545条(解除の効果)
   当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
  ・③ (略)
   解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。
 同法第557条(手付)
   買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
   第545条第4項の規定は、前項の場合には、適用しない。
 宅地建物取引業法第39条(手付の額の制限等)
   (略)
   宅地建物取引業者は、みずから売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して手附を受領したときは、その手附がいかなる性質のものであっても、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手附を放棄して、当該宅地建物取引業者はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。
   (略)

監修者のコメント

 手付解除の可否の基準となる「履行の着手」の具体的事実への当てはめは、大変難しい問題である。最高裁は、履行の着手の概念について「客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし、または、履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指す」と言っているが、本件の「表示登記」も所有権移転登記のために欠くことのできない前提行為と言えなくもない。表示登記について判断した裁判例は調べた限りでは見当らないが、履行の着手の該当性について判断した裁判例は、その段階における解除を認める不公平性という実質的評価により結論を導いているように思われる。そうすると本ケースも回答のとおり、まだ手付解除を認めてもよい段階と解される。

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