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2010-R-0224
契約当事者の一方からのみ媒介の委託を受けた宅建業者は、委託を受けない当事者に対して報酬を請求することができるか。

 当社は、地主から土地の売却または賃貸の媒介を依頼された宅建業者であるが、売却の提案をして販売活動をしていたところ、資材置場として土地を探していた事業者が直接地主と交渉して賃貸借契約を締結することになった。地主からも賃貸するという連絡は当社にはなかった。

事実関係

 当社は不動産の媒介業者である。地元の宅建業者として依頼者のニーズに応じて売買及び賃貸の媒介業務を行っている。当社は、旧知の地主から駅から近い土地に賃貸ビルを建設したいとの相談を受けた。建築資金を捻出するために他の所有土地を売却または賃貸し、不足分を金融機関から融資を受ける予定である。所有土地を売却するか賃貸にするかに関して地主から提案を求められたので、当社は、ビル経営には、空室や借入金返済等のリスクがあり、維持管理費もかかることから、融資額を極力少なくするために、売却して建築資金を確保することを勧めた。地主も売却することを了解した。当社は、売却促進として、売却予定地に売地看板を設置したほか、ホームページへの広告掲載、近隣事業者への訪問による売地の紹介等を実施した。
 当社が販売活動を始めてから2か月間は地元企業や同業者からの問い合わせがあったが、条件が折り合わず、3か月経過した現在も売却には至っていない。そんな折、当社が売出価格を含めた条件や今後の販売方法について、報告と相談のために地主を訪問したところ、借地を探していた近隣の建築会社と地主が直接土地賃貸借契約をすることを聞かされた。建築会社は、近所にマンション建築を請負うことになっており、建築資材置場や工事車両の駐車スペースが必要で、自社の敷地のみでは狭いため土地を探していた。その建築会社は、当社の従業員が当該土地の売却情報として紹介するために訪れた際は、土地を購入する予定はないとの回答であった。最近になって、マンション建設の話が決まり、土地を探していたところであり、建築会社は土地の所有者を認識しており、工事期間予定の約1年半の期間、借地したいと直接地主に打診があった。地主は、売却の見込みも厳しいと感じ、売却は借地の期間満了後とする判断をし、建築会社と直接賃貸借契約をすることにした。建築会社から地主に、売買の媒介を依頼している当社を媒介業者として、介させなくてよいのかとの問いかけがあったが、地主は、賃貸借契約なので当社を介することなく直接契約をすると回答したようである。

質 問

 当社は、土地売却の依頼を受けている売主である地主が、当社を介さないで土地賃借人との間で賃貸借契約を直接締結する場合、賃借人に対して媒介報酬を請求することができるか。

回 答

1.  結 論
 宅建業者は、賃借人のためにする意思をもって媒介行為をしておらず、賃借人に対して媒介報酬を請求することはできない。
2.  理 由
 宅建業者の媒介業務において、売却の媒介を委託されている売主から、買主として会社の同僚や親戚・知人を紹介され、契約締結に至る場面がある。この場合、宅建業者は、直接、購入の委託を受けていない買主からも媒介報酬を請求することができるであろうか。商人である不動産媒介業者がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる(商法第512条)と規定されており、一定の事情が存在する場合には、委託を受けていない当事者に対しても報酬請求権を有すると解されている。一定の事情とは、委託を受けていない当事者のためにもする意思をもって、媒介行為をしたと客観的に認められるなどの事情であり、そのような場合には報酬を請求することができる。
 したがって、媒介業者が、売主の知人等である買主から直接に不動産購入の委託を受けていなくても、委託を受けていない買主が購入するために、買主のためにもする意思をもって媒介行為を行い、売主との間の売買契約に介すれば報酬を受領することができる。契約締結に際しては、重要事項の調査・説明、契約書も交付、住宅融資の手配、契約締結から決済までの進捗管理等、媒介業者として、委託者である売主のみならず、買主に対しても業務を提供する。なお、媒介業者は、買主の探索にはかかわっておらず、受領できる報酬額は、国交省告示の上限額の請求は難しく、相応の金額となろう。
 相談ケースは、宅建業者が、地主からは売却の媒介を委託されていたところ、賃借希望の建設会社は、売却物件と承知し、その所有者を知り得て、土地を借り受けることを直接所有者と折衝して、賃貸借契約を締結する運びとなった。賃借人は、地主との折衝の際に、地主が売却委託している宅建業者を介す必要性を確認したところ、地主は、当事者間で直接契約する意向を示し、契約締結をした。
 宅建業者自らの営業活動により建設会社は情報を知り得たが、購入意思はなく、賃借の希望について業者を通さずに地主と交渉している。宅建業者としては賃借人と賃貸人との間における賃貸借契約に向けて格別の媒介行為はしておらず、また、契約締結の交渉が一定の段階まで進められた後において、当事者が媒介報酬の支払を逃れるためにことさら宅建業者の介入を排除して直接契約を締結するなど、信義則上も宅建業者の媒介行為によって成約をみたものとみなすような格別の事情も、賃借人の不法な行為もなく、宅建業者は、賃借人に報酬を請求することはできない(【参照判例】参照)。

参照条文

 民法第130条(条件の成就の妨害等)
   条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる。
   条件が成就することによって利益を受ける当事者が不正にその条件を成就させたときは、相手方は、その条件が成就しなかったものとみなすことができる。
 商法第512条(報酬請求権)
   商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。
 宅地建物取引業法第46条(報酬)
   宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の額は、国土交通大臣の定めるところによる。
  〜④ (略)

参照判例

 東京高裁昭和58年9月20日 判タ516号118頁(要旨)
 不動産の売買、賃貸等の一方の当事者から仲介の委託を受けた宅地建物取引業者の仲介行為によって契約が成立した場合であっても、当該業者が委託を受けない当事者のためにもする意思をもって仲介行為をしたと客観的に認められるなどの一定の事情が存在するときには、当該業者は、委託を受けない当事者に対しても商法第512条の規定に基づいて報酬請求権を有し、また、宅地建物取引業者の仲介行為によって契約締結の交渉が一定の段階まで進められた後において、当事者が仲介の報酬の支払を逃れるために殊更当該業者の介入を排除して直接契約を締結するなどし、信義則上当該業者の仲介行為によって成約をみたものとみなすような格別の事情があるときには、当該業者は、なお報酬請求権を有するものということができる。
 しかしながら、本件においては、土地賃借人が宅建業者の設置した広告看板によって本件不動産が売地であることを知り、(中略)自ら土地賃貸人と交渉して賃貸借契約を締結したのであって、宅建業者としては賃借人と賃貸人との間における賃貸借契約に向けて格別の仲介行為をしたわけではなく、また、賃借人が宅建業者を介することなく賃貸人の意向に基づくものであって、仲介の報酬の支払を免れるために殊更宅建業者の介入を排除したというものでもないから、宅建業者が賃借人に対して仲介の報酬を請求しうる限りではないのはもとより、賃借人の右行為を違法なものとすることもできないのであって、それが不法行為を構成するものではないことも明らかである。

監修者のコメント

 たとえ、正式な委託がなくても、その当事者にたとえば重要事項説明を行ったり、契約書の作成をするなど、その当事者にメリットのある行為を行い、当事者がそれを容認しているようなケースでは、黙示の委託がなされているとみて、媒介報酬の請求ができるというのが裁判例の傾向である。
 本件の賃借人にはそのような関係はないので、回答のとおり報酬を請求することはできないが、もともと売却依頼をしてきた地主に対しては、媒介報酬の請求はできないが、媒介契約上の債務不履行として、支出費用などがあれば、損害として賠償請求はできるであろう。

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